第67話 奪取
「これより作戦会議を行う」
一度言ってみたかったことを俺が言う。
「…………」
もちろんそこから先は今から考える。まずどうするか…
まず思いついたのは電話だが…さっき掛けても繋がらなかったのを見るとあまりあてにしないほうが良いのかもしれない。けれどそれ以外にやることがあるかと言われるとない。
俺はスマホを取り出し、アナリスが持っていた携帯電話を掛けようかと思う。だがふとある通知がきていることを目にし、手を止める。
それは東京都に出された爆破テロ予告のニュース。再び爆破予告が出されたとのニュースだ。
ふと、俺は考える。あの組織は警察ではない。[POLICE]の文字がないことがそう思わせている。覆面パトカーには文字は書いていないものの明らかにあの車両群は覆面パトカーではなかった。となると警察の味方ではない、つまり警察に見つかるわけにはいかないという考えになる。
虚偽の爆破テロ予告が最初に出された施設は東京国際ターミナル。そして今出したのは国立新美術館。何故2つ出したかは気になるが共通点としてはどちらも人通りがある程度あること。ニュースには爆弾の写真を犯人が送ったとされているため警察は動くしかなくなる。
そしてある考えが浮かぶ。つまり奴らは見つかるわけにはいかないのだ。警察に。
「キルア、俺の言うことできるか?」
暇そうにしていたキルアは俺の言葉に反応して振り向いた。
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同時刻 東京都大田区
品川シーサイド駅付近
TSAエージェント 田村雅俊視点
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正直誤算であった。東京国際ターミナルに爆破テロを出させたのは例のホテルと遠からず近からずの場所だったからだ。しかし…
『前方に大規模な渋滞を確認。迂回したほうが良さそうです』
ヘリコプターからの連絡が入る。何故だかは知らんがこんな時に限って我々の道先に渋滞が発生していた。高速道路に乗っていたんわけではなかったのだがな。
これを原因として急遽国立新美術館に爆破テロを出させたのが5分前。我々は別のルートから目的地へと行こうとしていた。
東京都の江戸川区の一角にある地下基地の入口、地下駐車場に偽装させた地下基地へと。
「レインボーブリッジに向かえ」
「了解」
助手席に座っていた俺の声に反応して運転手は言う。
車列の構成は前からレクサス×3、護送車×3、レクサス×2で俺は一番前に乗っていた。首都高速11号線、レインボーブリッジへの入口に差し掛かり、車列は橋を渡り始めた。
ふと俺はバックミラーを覗く。それに理由はない。だがなんとなくで覗いた光景は目を見張った。ヘリコプターは前を飛んでその先の経路を調査して気づかなかったのだろう。
いわゆる橋を支える橋桁の丁度真ん中、そこに赤髪の女がいた。その視線はこちらへと向けられている。
その瞬間俺の脳内に電流が走る。止まって捕獲するべきか、もしくは…
「全車両のスピードを上げろ!早く!」
俺は気づけば声を上げていた。何故逃げる判断をしたのかは分からない。ただ運転手は2度俺を見ながらもスピードを上げる。無線越しに聞こえたのか後方の車両もスピードを上げる。
次々と周りの車両を追い越して行く。だが前に何かの影が落ちる。やがてそれは人の姿へと変わっていく。
運転手はそれに気をとられたのかハンドル操作を誤る。車体はガクンと左へ向かったかと思うと、次の瞬間には凄まじい衝撃が俺を襲いかかった。
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(うわ〜やってしまった〜)
キルアは内心そう隠しながら自分がした行いを反省する。
目の前には自分が飛び乗ったレクサスが欄干にぶつかって止まっている。キルア自身は直後に【跳躍】という魔法によって欄干より高く飛び上がったため無事だ。
その車両に後続のレクサスがスピードを落としきれずにぶつかったことで橋に破片が散乱、橋を渡れなくすることはできた。
(結果良ければ全てよしなんだよ)
あたしは内心そう思いながらヒカルに言われた作戦を追想する。
「いいか?真ん中の車両にガイムとかアナリスとかカノンとか…まぁ乗ってるわけだ。それであいつらが乗せられてる車両はとんでもなく固いはずだ。何か壊せる手段とか中に侵入する手段はあるか?」
あたしはおそらく「ない」と言った。
「だったらまず一番前の車両を止めて。先回りの場所を予測して…予測できる?」
「大体ならね」
「…完全なアホの子ではないわけだな。前の車両を止めたらおそらく後ろの車両も止まるはずだ」
「それじゃあどうやって助けるのさ?真ん中の車にいるから強引に奪え返せばすればよくないか?」
「前にも後ろにも敵だらけだし、どうやって車の中に入る?透過魔法でもあるのか?」
「そりゃあないけど…」
あたしはここで歯切れを悪くしたはずだ。後続の護送車やらから人が降りてくる。彼らはあたしに向かって何かを向けている。
「できるだけ大きい騒ぎを起こすように事故らせて、大きな音を出させて…勝手に出るだろうけど」
辺りにバァーンという低い音が響いたかと思うと宙に浮いていた。【滑空】の魔法を使っているためゆっくりと地上に落ちていくあたしの横を何かが過ぎる。
咄嗟に当たったらだめだと悟った時には再び低い音が響く。
「大きい音が出せたらそれで十分…だと思う」
あたしは「なんで?」とそこで聞いたはずだ。黒くてゴツそうな服を着た人は次々と黒の車から降りてきている。事故が起こした黒のレクサスの後ろには車列の他に一般車も通行止めの巻き沿いを食らって止まっている。その中に乗っている人達は何やら驚愕しているようだ。その黒い人達を見て。
そして事故が起きていない車線の端に車を止めて何事かを見ている人達も少なからず現れだした。
ヒカルはあたしの「なんで」の答えに笑顔で説明する。
「それはな…」
ヒカルは一息置く。あたしは全身の体を器用にこなしながら彼らが放つ飛来物を避けていく。
ヒカルは説明する。
「魔法はどこでも使えるし、どんな状態でも使えるんだろ?魔力を制限されてなければ」
直後いわゆるヒカルが固いと言っていた車両が丁度真ん中の部分で横に切り裂かれる。
ヒカルは続けた。
「中にいる[賢者]様を起こしてあげて。それで
解決」
あたしの足は地上に着くと同時に見覚えのおるフォルムが切り裂かれた断面から登場する。
「ありがとね〜。助けてくれて」
胸くらいまでに伸ばした紫髪の少女は出てくるとあたしにそう言った。
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