第66話 部隊突入(3)

キルアは疲れたのかハァハァと息をしている。彼女は俺が目の前まで来たことに気がつかない様子だ。


「っ…おい、何があったんだよ!?」


思わず声が荒くなるがすぐにトーンを落とす。周りの人間に聞かれるとまずい。


「いいからこっちに…おい、大丈夫か?」


そう聞くとキルアは返事こそしなかったものの頷く。俺はキルアを人目のつかない路地へと連れて行く。


キルアは路地の奥に入るとバタンと座り込む。


「ハァ〜〜、なんだよ…」


「そりゃあ、こっちが聞きたい。お前ら何があったんだよ?」


「んなもんあたしにも分かんねぇよ!真っ黒な奴らが部屋に来て、煙の出る変な物投げてきやがった」


「変な物?煙?」


「よく分かんないけどあれ吸ったら急に頭とかが痛くなって、瞼が重くなる…眠く…」


俺はここで催眠ガスでも噴射されたのかと考察する。


「それでガイムとかアナリスは?カノンもいねぇ」


「分かんない。アナリスに逃げろって言われて逃げてたらはぐれてた」


やはりというかおそらくあの担架に乗せられているのだろう。


「それじゃあ奴らを追いかけないと」


「でも奴らの場所分かるのか?」


「多分ホテルの前に泊まってた車の中だと思う。けどどうやって…」


そう。あとはどうやって奴らから奪い返すかだ。見た感じ完全武装の部隊がホテルの外に20人。中からさらに20人とかなり多い。40人から奪うのに対してこちら二人。


「どうやっての続きはなんだ?」


キルアは理解していないのか呑気にそう聞いてくる。彼女が馬鹿だということは前々から気づいていたがこれ程とは…


とここで俺はドイツの病院でカノンが言っていたことを思い出す。確か大盗賊のキルアと。


「なぁ、お前仮にも盗賊なんだろ?3人なんとか奪い返せないのか?」


「え?ええ!?いやいやあたし生き物を盗んだことないぞ!」


「でもお前王族に知られている程の大盗賊なんだろ?」


「大盗賊…大盗賊…」


大盗賊と言われたことが嬉しいのだろうか…てかそんなことはどうでもいいんだ!


とその時、路地から見える道路を黒いレクサスが通り過ぎる。そして2台と続き…


「おい、あれだ!」


「え?」


「大きくて黒い車が通り過ぎるはずだ。3台。そのどれかに…」


ホテルの前では真ん中の護送車に乗せられていた。だが走り出した今、護送車の列が変わっているのかもしれない。最後まで見ておけばよかったと後悔する。


「車?うお!デカ!」


キルアは最初に通り過ぎて行った護送車に反応する。その後にまた護送車が続く。そう直感した時俺はキルアに指示を出していた。


「次の車を追ってくれ。多分そこに乗ってる」


「え?」


「いいから!見逃さないようにして!」


「わ、分かった」


キルアはそう言うと路地の建物をヒョイヒョイと登っていく。そんなこともできるのか。


正直今のは賭けだ。まず真ん中の車両だと思ったのは常識で考えると真ん中だからだ。要人を中途半端な位置に乗せるのは普通にありえない。一番警備が硬い位置、つまり真ん中。


そしてもう一つはキルア自身。俺はキルアに追えと言ったが、普通に考えて並の人間が車を追えるはずがない。けど俺は今までの異世界人の能力、そして大盗賊だという情報だけを信じて、キルアに指示を出した。


結果は半分成功。キルアは建物をヒョイヒョイと登りきったし、彼女の言動からして間違いなく追いつけるうえでの発言だと信じたい。てか信じないと終わる気がする。残りの半分はまだ真ん中の護送車に乗っているとは限らないということ。


そして新しく問題が増えた。キルアとどうやって連絡をとるかだ。キルアは追いかけて行ってしまった以上、こちらもどう動けばいいのかが分からなくなってしまった。


とその時キルアが戻ってきた…は?


「え?なんで戻ってきた?え?」


俺は間髪入れずに食いかかる。


「え?」


「いや『え?』じゃない。何してんの?」


「え?あたしちゃんと見逃さないようにしたけど…[印]で」


「印?」


「相手をマークする魔法。なんかマーキングできたから」


「え?じゃあ場所分かるの?」


「すごい遠いところに行かなければ…あたし悪いことしたか?」


何故俺の言った指示を前者ではなく後者だと思ったのかはさておき、俺は作戦会議をすることにした。




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