第51話 そして真意へと
俺達はハンヴィーを降りて地下空間へと足を踏む。高さは5mくらいの鉄筋でできたその場所には様々な設備がある。その中で几帳面な男は手招きをする。
「こちらへどうぞ。こいつは1992年プエルトリコで発見された化け物です。吸血狼と我々は呼んでいます」
「吸血狼?こいつはまるでUMAの見た目だ」
ロイドがそう指摘した化け物は強化ガラスの立方体に閉じ込められていた。その化け物は俺達を見るなりガラスへと突っ込み襲いかかろうとする。確かに見た目は俺の腰くらいの大きさだが、それに見合わない獰猛そうな大きな赤い目と鋭い鉤爪、そして出っ歯のように出ている牙をした狼といったところか。だが吸血という単語が気になったところで几帳面な男が言う。
「えぇ、UMAですよ。チュパカブラと言えば分かりますかな?」
「チュパカブラだと?」
今度は国防長官が反応する。
「えぇ、同じく1990年からプエルトリコを始めとした中南米各地で目撃されているUMAです。これは実在していて現在までにおよそ5体保有しています」
「マジかよ…それじゃあビックフットやイエティ、ネッシーなんかもいるのか?」
「いえ、我々が調査した限りだとそれらの有名なUMAは全てデマか勘違いのどちらかです。ただ決してそれがフィクションではなかったという場合もあります。モンゴルワームやタイラントなど。それとこちらへ」
モンゴルワームやタイラントの説明はされなかったが、連れられた先には同じく強化ガラスの立方体、だがその立方体は俺の身長台の高さがあった。そいつも俺達を見るなり、牙を剥き出しにしてガラスべと突っ込む。見た目は蛇のように長い胴体と哺乳類のような顔に黒目、人間の手にある部分には一対の羽がある。
「こいつはブラックアイズ。ジャージーデビルと言われてる未確認生物です。1995年に発見されました。昔から生息していたかは不明ですが、史実では19世紀末にも確認されました。真偽は不明ですが。あと異臭がとてもひどい」
「だが臭いはしないぞ。換気してるのか?」
俺がそう聞くと几帳面そうな男は
「いいえしていませんよ。まぁそのことについても説明しませんとね」
と前置きしたあと
「まず彼ら〈化け物〉と地球由来の〈生物〉の見分け方を説明します。まず〈化け物〉には消化器官及び生殖器官が存在しません」
「何だと?」
国防長官が思わず困惑の声を口にする。
「それどころか呼吸をしていない。地球温暖化を進めてくれないのは感謝ですが、これらの特徴から彼らは菌類に近い存在とされました。ですが血液の循環器系は存在していました。それどころか脳や五感まであるとなると菌類ではなくなります」
「どうしてそんなことが分かったんだ?」
「チュパカブラのうちの1匹を解剖した結果です。最初は6匹だったんですよ…それでは続きを話しますね。まず我々は栄養を必要としないことから体内に何かしらの永久機関があるのではないかと疑いました。ですがそんなものはなかった。さらに化け物には恐ろしい再生能力があった。栄養をとらずしての再生能力。あらゆる検査をしてでさえもその身体については判明しなかった」
一息間を置いて
「彼らとの見分け方はいたって単純、息をするかしないかです。ブラックアイズは息をする必要がない、ならば換気する穴も必要ないです。鼻自体はあるので自分の臭いで窒息するかもしれませんが今のところ大丈夫なようです」
「再生能力か…だがニューヨークのやつは倒せたのだろ?」
ロイドは几帳面な男にそう質問する。几帳面な男は
「再生能力があるとは言え、ある程度のダメージを負えば死にます。実際我々が解剖したチュパカブラは脊髄部分…脊髄は存在してましたがそこの解剖をした瞬間に生物学としての死となりました」
「恐ろしいな。そんなものを私も大統領も知らかったとは。TSAにはそれ相応の処罰を下すという判断もでてくるぞ」
「我々の目的は彼らの兵器転用ではなく、研究、確保を行い全世界の人々を化け物から守ることが目的です。そこは覚えていただきたい。ニューヨークの惨状は我々も把握できなかった予想外の出来事です」
「他に何か情報はないのか?TSAの処遇もだが、我々アメリカ合衆国は事態の早期進展を求めている。まだ極秘の情報があるならここで話してもらおうか」
「我々が把握しているのはここまで…というわけではありません。ただ一つ遺伝子レベルが完璧でした」
「は?」
思わず俺は声を上げる。言葉の意味が分からない。
「遺伝子レベルが完璧…すなわち遺伝子疾患にもならない、癌にもならない、放射線も効かないのです」
「それじゃあ歳もとらないと言うのかね?私みたいにしわしわにならないとでも?」
国防長官は指摘する。
「いいえ。細胞の劣化事態はあるようで老いもしますし、老衰死もするとの仮説がでてます。あくまで仮説ですが」
その時、几帳面な男のもとに小太りの中年男がスマホを持って近づく。几帳面な男はそのスマホを黙って受け取ると顔を伏せて電話する。
「失礼。はい何でしょうか?……はい……はい……分かりました」
「何かあったのか?」
俺はそう聞くと几帳面そうな男はゆっくりと顔を上げ
「ドイツで緊急事態が発生したとのことです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます