第49話 ヴュルツブルクの戦い(5)

「あ?あ?え?え?何?何なの?」


魔王軍の幹部、リヴリーは何が起きたのか分からず困惑していた。


そしてそれは俺も同じだ。何が起きたのかはっきり分からない。自分が何をしたのかも。


やがてリヴリーは自身の両腕がなくなり、そこから鮮血が溢れていることに気づいたのか。


「痛、痛い。痛い痛い。何よこれ…何が」


リヴリーは叫びこそしなかった。そして嗚咽は終わり、俺の方へと振り向くと


「あんた…何を私の…私の腕に…」


リヴリーは俺の方へと一瞬で近づき、地面に向かって蹴ろうとするが、彼女の切り口から炎が湧き上がる。


「はっ!?何よこれ!熱い熱い」


リヴリーはそう言っている間に炎は胸、腰へと燃え広がる。そしてその炎はリヴリー以外には引火しない。リヴリーの体全体が燃えるようになった時


「あがが……熱い熱い熱いぃ!!…」


リヴリーはそう言うと建物の上へと飛び上がり逃げ出す。その先を俺は追うことはできなかった。


俺はその場にヘタリ込む。遠くからたくさんのサイレンの音がする。だが何かを考えることができずにただ呆然としていた。


ふと俺の体が軽くなったかと思うと、俺は建物の上にいた。そこはゴブリンとオークの戦闘でキルアがいた建物だ。


魔物…そうだダンジョンはどうなったのだろう。まず最初に考えついたのがそれだが、辺りを見る限りダンジョンの姿はない。たださっきまであったであろう場所には空洞ができていた。


隣を見るとキルアがいて、そしてカノンも。

何かが目の前に浮遊してくる。それは両手を青色に光らせたアナリスだ。傍にはヒカルの姿もある。彼自身無事なようだが、どこか様子がおかしい。そして彼は建物の上に足がつくと同時に俺へと駆け寄り、緊迫した声で俺に話しかける。


「お前さっきのあれ何だよ!あんなのできるなんて聞いてないぞ!」


「ヒカル落ち着いて。やっと私もまともに動けるようになったんだから。それに警察が来る」


「けど!こいつ…」


「おい!待ってくれ!俺は何かしたのか!?何も覚えてないぞ!」


俺が咄嗟に言ったことにアナリスとヒカルは顔をしかめる。


「何も覚えてないって…本当なの?」


「あぁ…俺気づいたら目の前が真っ赤になってて」


「真っ赤って…炎に思いっ切り包み込まれてたけど…」


「は?」


「うん。俺も見てたぞ。お前が突然火だるまになったかと思ったらあいつの触手と腕がばっさりと落ちてやがった」


「え?何を言っているんだ…?」


「マジか…本当に覚えてないのか…まぁいいよ。ガイムのおかげで助かったよ、ありがとう」


アナリスがそう言った時には、ダンジョンがあった場所に特殊部隊が到着していた。



特殊部隊に見つからないように建物から建物の上へと移動した俺達は丁度良く影ができている建物の上にいる。


「ヒカル、左腕見せて」


「え?うん」


アナリスに言われてヒカルは左腕を見せる。

ヒカルの左腕は曲がらない方向に曲がっていた。


「治すね」


「へ?」


アナリスはそう言うと緑色の光をかざす。するとヒカルの腕が気持ち悪く動き出す。


「えっ?勝手に動く…」


「じっとする。いいね」


ヒカルの腕がクネクネと動かなくなる頃にはヒカルの腕はすっかりもとに戻っていた。


「…すごいな。それカノンとキルアにもやれば?」


「魔力の暴走は治せないから意味がない。魔素がない場所に移動するのが一番効果的。らそれにカノンの傷はさっき治した」


そうアナリスが言ったとき、キルアが目覚める。


「う〜ん。何だ…」


「おはよう」


アナリスがそう言うとキルアもきょとんとした顔で「おはよう?」と返す。


「魔素って最初からあったのか?お前ら最初行った時はなんともなかったろ?」


「多分ダンジョンから出てきた魔物の血とかそういうものに含まれてたと思う。魔王の幹部クラスのダンジョンだとゴブリンやオークなんかの弱い魔物は出ない。多分すぐに殺せるようにするためだったと思う」


「なるほどなぁ。最初から仕組まれてたってわけか」


アナリスとヒカルは二人で話しているとカノンも喋りだす。


「すみません。私…あまり役に立てなくて…それに逃してしまうだなんて…」


「いーよ。別に。カノンのおかげてガイムも助かったらしいし」


アナリスはそう返すとカノンは安心したのか今までの緊張をほぐしたのか柔らかい表情へと変わる。


どっと疲れた気がする。何も喋りたくない。とにかく眠たい。サイレンの音が再び鳴り響いた。

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