エピソード35 革命と宣誓の諸相
自分の血をこうもまじまじと見るのは、幼い頃にお風呂場で鼻血が出た時以来かもしれない。
最大の違いは、中二病的な好奇心によって見つめているか、ではなく、目の前に恋人のような女性が居て、一緒にゆっくりと流れる血液を目で追っているという点である。これは異常だが、彼女の話ぶりから察するに、仕方のないことらしい。
「つまり、学生の自殺というのは哀しいかな、今も昔も絶えることはありませんが、それでも
僕が告白した女性・
「私は一時代の産物としてではなく、れっきとした一個人として死にたいのです」
「それは、僕も同感」
「うんうん、流石ウッチーだね」
ウッチーとは僕のニックネームで、本名は
少し優柔不断なところがある僕は、大学で彼女と知り合って以来、少しずつ好意を寄せていった。
そして先ほど、僕は告白し、見事OKを頂いたと思いきや、なんと早速のプレゼントとして、親愛なるキスではなく、ポケットサイズのナイフをぐさり。
「そのためにも、ウッチーには永遠の存在になってもらいたいの」
「血がどくどく出て、それを二人で、観察すれば、なれるのかな」
「成れるよ。私、ずっとウッチーが好きだったんだ。だから告白されて嬉しかった。ホントだよ。でも、それでOKして、今夜はお泊り、なんて腐るほどそこらで話されてるよね」
「まぁ」
「だから、私たちは血を交わして、本当の恋を俗世間に知らしめるの」
「お、おい」
そろそろ僕も叫ぶ気力が無くなってきたが、少なくとも彼女が死ぬのは阻止したいという、伊達さは僕の中から流れ出てはいなかったらしい。
「僕が、死ぬだけじゃ、ダメなの?」
「ダメだね、ハッキリ言って。それは卑怯だし、批判にもならないから。単なる自殺、もしくは殺人ではなくて、思想犯として、革命家として、永遠の愛を本当の意味で誓った者達としてこの世を去るには、君が先に刺されて、ゆっくりと愛を語りつつ、私が君の血で血を洗い、そしてついに私の方が先に死ぬの。それでこそ、ゴシップとして語られる
彼女の思想をもっと聞きたい。
その想いは生存本能か、それとも愛か。
だが彼女が僕のように腹の一部ではなく、首にナイフを構えている行動原理は、まぎれもなく愛と知れた僕は、幸福者なのだろうか。
「救ってくれてありがとね」
最期の言葉は、思いがけないものだった。
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