エピソード18 リテイクとリメイク
私が23回目のボツを彼に言った時のあの表情。
私は彼のあの表情と、本物の脚本だけを何よりも欲している。この世の何にもまして重要なその二つを知ることができただけでなく、私自身の手の中で自由自在にすることができる。
「
でも、24回目、すなわち今日の彼の表情は全然別人だった。
「なに、これ………」
「貴女が要求した『最高の脚本』ですよ」
謙虚な彼の影もない高慢な言葉。でも、それを裏付けるものが私の両腕の中に存在している。
どうして。
彼は確かに誰にも書けない本物の脚本を書いてきた。でもこれは、私の批評なんて必要としていない、いいえ、私の方が学ばされる本。
「誰に書いてもらったの」
「失礼ですね。貴女の言葉も参考に、僕自身で書ききった、それだけです」
彼は深くお辞儀をして、私の前を去っていった。向こうの方に確かに女が彼を待っていたけど、それが誰かまでは分からなかった。
*****
「脚本の先生だか何だか知らないけど、君の才能を搾取するような奴は創作の敵。私は君の才能を開花させるけど、あの人みたいに商業ありきでリテイクしたりはしない。君の限界を見せて。あの女の知らない君の本当の顔を」
「僕には
彼は本を書きたいという純粋さで、単純に編集部に持ち込み、あの人が辞めた後も続けてみせていたようだけど、本来の目的が彼の場合、書籍化ではなく映像化だったのを、あの人は忘れていた。
というより視界から外していたのか。
ともかく私はあの人に、あの女に最後に勝つために、こうして今日まで精いっぱい生きてきたんだ。
「罪な人ね」
「それ、いいセリフですね。使ってもいいですか?」
それでいいの。誰かに認められたいんじゃなくて、誰もが認めざるを得ない才能。
「君の脚本にいれるのはもったいない平凡な言葉だよ。それくらい君は罪深いんだから」
だから、せめて私の人生だけでも罪滅ぼししてね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます