エピソード19 いわれなき善意

「あっくん!?」

 起きた瞬間、目と鼻の先には見知らぬ可愛い女の子がいた。

「え!?だ、誰」

 起き上がろうにも、なぜか力が出ない。

「分かる?私だよ、美音みおんだよ」

「分からない……です」

「先生の言ってた通りだ………自分の名前は?」

 あっくんというあだ名で呼ばれているから、少なくとも『あ』のつく名前なのだろうけど、残念なことに思い出せない。何だこれは。


「落ち着いて聞いてね。あっくんは薬を過剰摂取して、意識混濁で病院に運ばれたの。あ、救急車を呼んだのは私だよ。それでね、お医者さんはもしかするとあっくんの記憶が無くなってるかもって言ってたんだけど」

「どうして……ということは、ここは病院?」

「そうだよ。ちょっと待ってて、先生呼んでくるから!」


 それからというもの、概ね美音の説明通り、先生は僕に語りかけ、地道に思い出していけるよう、サポートすると言ってくれた。

 僕は今、どうして自殺をしたのかすら分からない。

 だが、隣に美音が居てくれるのは何となく安心できた。

 確かに彼女との関係性もよく覚えてはいないものの、僕の事を覚えている存在が身近に居るのは、想像以上に僕の精神衛生に良いようだ。


「美音さんは僕の友達ですか?」

「うん、それも心から信頼した関係だよ」

「ってことはもしかして?」

「もしかして?」

「恋人とか、ですか」

「ピンポンピンポン大正解」

 こんなに可愛い子が僕の恋人という事実と、こうして独りずっとそばにいてくれるのは何よりも僕を励ました反面、そんな彼女の事を思い出せないし、彼女を放って自殺しようとした自分の不甲斐なさに腹が立った。


「本当にごめんなさい」

「あっくん?」

「今もだけど、君にはいろんな迷惑をかけてきたんだろうね」

「ううん。それどころか、こうして一緒にいたいって思える人に出逢えて私は幸せだよ」


「痛ッッ」

 頭痛と共に一瞬思い出した?記憶のようなものには、僕が女の人に薬を一気に何錠も飲まされている光景。

 その相手の顔までは分からなかったが、丁度、美音さんくらいの長髪だったのはぼんやりと脳裏をよぎった。

「大丈夫?」

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