エピソード15 証拠能力アリ
「私、本当に好きなんです!」
見ず知らずの女性にこう言われて嫌な男は非常に稀であるとは思うが、警戒心を解かない男もまた少なくはない。
ナンパというよりむしろ硬派な勢いであるし、だからといって悪質な動画配信者という訳でもなさそうなので、きっと雷に打たれる系乙女か、強迫観念的な片思いなのだろう。
「やっぱり信じてもらえないんですね。でも、そんな事分かってます。私だって社会人です。単なる口説き文句じゃないってこと、証明させてくれませんか」
「証明、ですか……?」
感情を証明するなんて何だか違和感のある組み合わせだ。メンタルをロジックで解決するのは自身の精神衛生にはいいかもしれないが、告白の熱意としては少しちぐはぐな気が。
<ドサどさドサどさ>
大きめのビジネスバッグからコンクリートに向かって落とされたのは、無数のB5ノート。駅ナカ書店にある在庫のほとんどを購入ないしは万引きしたら、きっとこのような山を生成できるのだろうけど、帝国主義と立身出世主義をその両肩に背負うかつての書生連中と言えども、これほどのノートを必要とはしない。
「よくそんなにも持っていられましたね」
「だって愛の重みだもの」
愛は軽いのを良しとしないが、だからといって、重たい愛もまた忌避される傾向にあるので、必ずしも恍惚とした表情で語るようなアドバンテージではないと思うが。
「読んでみてください」
見た感じ新社会人から数年を経て、それなりに経験を積んだ年上のお姉さん、というのが最低限、好意的な印象なのだが、笑顔は想像よりも若々しかった。
………というより可愛かった。
「うわっ!?」
少しいいかな、なんて感じたのも束の間、すぐさま僕は印象を変更しなければならなかった。
山となったB5ノートの一冊を取ってみれば、そこには好きが8割、好きなところが2割のメロメロな黒インクの集合体となっているではないか!?
「それは2017年の!最初の年のノートだよ。ま、5冊目だけどね~あはは」
「4年前から……!?」
「うん。運命の出逢いだよ。それからずっと君に見合う女になれるようにお金も稼いだし、センスも磨いたよ。自分で言う事じゃないけど。でも、それで満足したら意味ないから、こうして日記をつけてたの。いつかその努力が分かってもらえるようにね」
これが全部そうなのか?それって…………
「証明できました?ずっとあなたの事を好きだってこと♡」
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