エピソード14 歴史は勝者のモノガタリ
「お前!そこで何をしている!」
偶然、教会の中を散歩していた老師は、信じがたい光景を目の当たりにした。
若々しい女性が、彼女よりもっと若い青年を前にして祈っているのだ。
まさにそれはつい昨日までここで行われていた儀礼の一種のようだ。
だがこの教会に長年属し、老師として啓蒙教育も担っている彼が、かのごとき儀式はもちろん、
これは何事かと久々に憤慨した老師だが、青年は逃げ足早く、似非シスターのみがその場に残った。
「お前は何をしておったのだ!」
近くで見てもシスターではなさそうだ。いや、それどころか、この領邦の人間でもなさそうだ。
であれば老師には結論が付いた。
邪教徒に違いない。
異教徒がいるのは由々しき事だが、個人的には致し方ないことだと老師は密かに感じていた。
だが、神の家で邪教の儀礼を働くとは罰するべき悪魔の所業。
「先生、私は神のお告げによって、ここをお借りしていましたの。先生にお断りもなく失礼しました」
「何、神の御告げだと!?」
つくづく邪教的だ。どうして無知なわれわれが、霊的な言葉を神か悪魔か見分けることができよう。
きっと悪魔にそそのかされているに違いない。
罪深き女の世迷言を聞くのもまた、神に仕えるものの使命だ。
「その御告げをお聞かせ願いたい」
「神の言葉は私たちと違って簡潔でしたわ。『使徒ハインラインを愛しなさい』。ただこれだけですの」
「使徒ハインラインというのは、そなたの信ずる教団の御使いか?」
「いいえ、ハインラインはここに住んでいる青年、そう、さきほどのあの方ですわ」
「だって彼はただの農奴じゃないか!?」
「いいえ!違います!ハインライン様は使徒にして、私の愛するお方です!」
これは完全に憑りつかれている。
異端審問会は勿論だが、教皇庁にも報告せねば。
再び世が暗黒時代になってしまう前に。
「お、おま…………」
「ですので、ここはハインライン様と私の愛の王国にさせていただきますわ。だってそれが神の御意思ですもの。それを邪魔する者はすべからく邪教徒なのだから」
「…………何言ってんだよ」
「嗚呼、ハインライン様!これからはここを神の社にいたしましょう!」
「そんな罰あたりな事できるかよ!」
「まあ、罰は貴方さまが与えるのですよ?恋愛を認めないこの世に対して、ね」
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