エピソード13 更なる従属を君に

「やめろよ!そんな事されても俺は!」

 サスペンス劇場よろしく、俺は断崖絶壁に女友達のハルカに呼び出され、今は彼女の自殺を止めている。


「どうして悲しむの?こんなに私、マー君のこと好きなのに」

 今日の波は高く、ハルカが金メダリスト並みの着水を決めようとも、あの華奢な身体が衝撃に耐えられる物理的根拠はない。

「嫌がらせかよ!」

 正直、自殺するのはとめたいが、メンヘラみたいに急に呼び出して、目の前で平然と飛び込む瞬間を見せつけようとしてくる。

 もしかして危ない薬でも使ってるんじゃないだろか。


「ひどいよ!私はマー君のことが世界一大好きだから、世界一献身したいの!」


「それがどうして死ぬことになるんだよ!」

 そんなにも思ってくれてるなら普通は、結婚してお嫁さんになるんじゃないのか?

 それか不健全な方向性ならメイドとかセフレとか………

 ともかく!好きだから目の前で死ぬ、それも海に飛び込むなんておかしいに決まってる。


「今から私、飛び込むの。それでね、私は『海の藻屑』になる。そしたらいずれ腐ったり、食べられたりして骨になるでしょ?でね、その骨がやがて海水と混合したら!」

 グロテスクな死にざまをこうも嬉々と語られるとこんな場所でも足元がすくむ。


「混合したらどうなると思う?やがては雨水か飲み水になって、地球から水が無くなるまで、私はマー君の為に生きることが出来るんだよ。これってあの世とか転生とかよりももっといいことだし、マー君は人間だから水を必要とし続けるし、一生、離れることが無いんだよ!」


 言葉が理解できない。でも恐怖からついに俺は腰から崩れそうになり、そのせいでバランスが!?


「マー君!!」



(あ・い・し・て・る)



 ハルカは俺に抱きつき、一緒に水面に強打された。痛みを感じる寸前に、俺は何よりも柔らかい唇を知った。

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