エピソード12 いつまでもあると思うな明日と恋

 涙のせいで視界は歪み、クラスメイトの悲鳴のせいで聴覚は役に立たない。


 5時間目の古典は、その前の授業が水泳だったのもあってとてもじゃないが集中できず、ようやく後15分まで持ちこたえたと思った矢先、左斜め前の恭子ちゃんが突然、起立した。

 思わば時間が止まったのはそれからだ。

 クラスメイトも先生も、きっと寝ぼけて恭子ちゃんがあてられたと勘違いしたのだろうと笑いあったが、その笑みが中学3年最後の笑顔になるとは誰も思っていなかった。


 気づけば恭子ちゃんの周りにいた子たちは皆、気絶もしくは重傷を負っていた。


 かつてない緊張に廊下側にいる奴らも逃げ出せず、隣のクラスが水泳なので、誰も外から助けにも来ない。


「賢ちゃん、一緒に来て」


 これが普段の会話なら、僕は喜んで行っただろう。クラスでは両想いだなんて噂されるくらいには仲が良かったし、実際、僕の方は片思いしていたし。

 先生が僕らを引き留めていたけど、恭子ちゃんは僕を賢人けんとではなくいつも通り賢ちゃんと呼ぶのが更に混乱させるのだった。


 *****


「ごめんね。せっかく眠らずに頑張ってたのに」

 どうして前に座っている恭子ちゃんが?と思ったが、ニヤリと可愛らしい丸い鏡を見せてきたので、こんな時でもドキッとした。


「どうしたの?」

 純粋な疑問だし、正直、これ以外に言葉が出ない。


「みんなさ、私たちのことを変に噂するでしょ?それがガマン出来なくって」


 思春期の男子ならともかく、女子はそういう噂を好まない。せいぜい、親しい友達か占い本以外には漏らさないものだ。


「でもね、私、賢ちゃんのこと」


 階段の踊り場で突然、立ち止まり、そして


「好き」


 心臓Heartに刺さったナイフの痛みは、初めてのキスで叫びを封じられ、好きな子からのハグで――――

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