告白?③
はじめてのチュウは、思っていたより味がしなかった。どうして彼にしようと思ったのか、自分でもよく分かっていない。レモンの味がするなんて良く言われてるけれど、そうでもない。
夕焼けに染まる道で背伸びをして。行為を見られているかもしれないと思いながらも、体が勝手に動いた。私の恋人ではないのに、まだ彼ともしていないのに。
でもひとつだけ言えるのは、あの行為は私の本心であること。キスをしたいと思ってしまったということ。その理由を探すのは、少し気が引けるけど、今日はまだ眠れそうにないから。自分の部屋で、布団に横になったまま考える。
真っ暗な部屋。帰宅後、彼は消えた。元に戻った彼は、少し考えていたけれど、私に心配させないように気丈に振る舞っていた。
ご飯も食べてくれたし、洗い物もしてくれた。疲れていたせいか、お風呂に入った後すぐに寝てしまった。それはそれで、少し寂しくもある。だって、チューしたのに。少しは響いたかなと思っていたのに。
なんて、する気がないくせに、そんなことを一丁前に思う自分が情けない。
ううん。彼に恋心が無いことぐらい、初めから分かっていた。だからこそ、寂しかったのだ。明確に関係が変わるレベルのことを私はした。なのに、相手はすぐに消えてしまう子。そりゃあ、忘れられた過去のようになってしまっても仕方がない。
「はぁ……」
なら、私から見て彼はどうなんだ?
私は真村真嗣のことが好きなのか、どうなのか。真っ先に考えなければいけない話だったけど、私はそれをしなかった。
それは、怖かったから。私の行為が、ただの自己満足で、恋でもなんでもないと分かっていたからこそ。
『あなたを助けたい』
彼は言葉の意味を理解していた。ああして彼にハッキリと言ったのは初めてだった。でも、今の彼は知らない。真村くんはソレを望んでいるのだ。
自分は消えてしまって、ただ彼の体は残り続ける。もう一つの人格とともに。
彼は生きる意味を見失っている。そうなった経緯も、原因も全て知っている。だから私は、彼に手を差し伸べてしまった。弱りきったあなたを助けたいと思ってしまって。
それで良かったのかな。助けてしまったことで、今の彼はすごく大変なことになってしまった。私が手を差し伸べなければ、彼は――。
いや、こんなことを考えるのは、彼への冒涜になる。だから、助けて良かった。生きてくれていて、本当に良かった。そうやって、自尊心を保っている。これからも、この先も。
………ダメだ。やっぱり眠れない。瞼を閉じて眠ろうとすればするほど、私の頭は冴えていく。明日も学校なのに。頭を少し冷やしたいけれど、冬の足音が近付いてきているせいで布団から出たくなかった。
どうすれば、この悩みの種は無くなるのか考えた。答えはすぐに出た。彼に本当のことを告げて、治療してもらうこと。分かりきった答え。でもそれが、今の私にはとてつもなく重い。
治療してほしいのは本心。だけど、そうしたら彼はまた、生きることに絶望してしまう。そうならない為に治療するのだけれど、きっと彼はまた。
『いつか必ず、現実と向き合う必要があること』
変態メガネから言われた言葉が、ずしんと胸にのしかかった。そんなこと分かっているのに。分かっているからこそ、こんなにも重いのだ。
この都合が良い状況は長く続かない。頭の中では理解していたけれど、あまりにも短すぎるじゃない。神様も、彼を生かすつもりがないのかな。そんなの、あんまりだよ。
『だから君が居るんだろう?』
うん。そう。そうだけど、少し自信が無くなっちゃった。勝手に助けて、勝手に一緒に生活して、そのくせ、彼のことを受け入れられない自分が居る。
たかが、一人の高校生だから。私にできることは限られているし。
『凪沙』
『酒井』
それでも……私は彼を助けたい。
絶望したあなたを、なんとか。だって、あなたは私に似ている。必死に生きようとする彼も、必死に死のうとする彼も。どっちの彼も私にそっくりなの。
お節介だというのは分かっている。それでもいい。ただ、彼がこのまま死んでいくのを見たくない。例え、愛の無い恋人のままだとしても、私はそれで良かった。
私は、彼のことが嫌いじゃない。好きだ。でもこの好きは、きっと違う。周りの女の子がドキドキしているアレとはまるっきり。
とにかく、彼には生きていて欲しい。
大きく息を吐いて、思考を整えた。
うん。決めた。彼に、告げる。そして治療してもらう。それが真村くんにとっても、私にとっても良いことであるはずだから。
重くなっていく瞼にそんな想いを馳せながら、私は夢に溺れた。
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