034. 埋まる寂穴

「ここは……?」


 暗くて冷たくて、温かい場所。

 気が付くと俺は、誰かの膝を枕に横になっていた。


 ゆっくりと起き上がり、膝の持ち主を確認する。


 ここにしかない灯りの中で、少女がじっとこちらの顔を見ている。


 ――いや、違う


 目の前の少女は少女ではなく、小人で妙齢の女性であるということが『分かる』


 そして、この女性が、――自分の母親だということを『知っている』


「……この世界に来た時から、ずっと考えていました」

「人として、娘として、そして……母親として。どうして私は『私』に転生したんだろう、私はどうするべきなんだろう、私の望みは何なんだろうって」

「君は……スイセイ、なのか?」

「たくさん、たくさん悩んで、考えて……」



「それでも……それでも、……それでも! あなたはわたしのお父さんだから!」


 こちらの胸に飛び込んでくるスイセイ。


「もっと一緒に居たかった! もっとたくさん叱って欲しかった! もっと一緒に、お母さんと笑っていて欲しかった……!」


 そう叫ぶほどに、背中で強くつながっていく腕と腕。



「スイ、セイ。僕は君を……」


 頭を左右にグリグリと押し付けられる。


「……あの時の手紙の返事を、今ここで言います」


 涙で少し赤くなっている瞳に捕らえられながら、スイセイの言葉を待つ。




「私の幸せの始まりは、お父さんとお母さんが幸せになることです」


「私の幸せを願うなら――」


「私が幸せになるために……センリさん、ミコさん、ミーコさん、イレーヌさん。グレイスさん、エステルさん、マリアンヌさん」


「そして、お母さんが幸せになるために……あなたが一番幸せになって、どうか死ぬまで一緒に生き続けてください」




 すっかり小さくなった愛おしい人に抱き着く


 不安も、疑念も、孤独も、何も遮らない


 何も寂しくない



 二人とも、ありがとう






 ――ああ、どうやら


 どうやら神様は、自分を簡単に死なせてくれるつもりはないらしい――。

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