033. 解決しない苦悩
「――読み終わった?」
「……はい」
「……この手紙、私が頂いてもいいですか?」
「いいわよ。元々あなたに宛てられたものだし」
「それと、これも持って行きなさい」
「ランタン、ですか?」
「それは――」
「それはラリーの命。魂と言った方が、あなたたちにとっては分かりやすいかしら」
「いのち……父さんの?」
「ええ。私のお腹に収まる直前にした状態。あなたもポーションは知っているでしょう? あれと大体一緒」
「ポーションと一緒?」
「人間には同じ結果になるように魔法を教えたつもりだったんだけど……結局千年経った今でも、ちゃんと魂として取り出せるのは私だけみたいなのよねぇ」
「手紙を預かった時に一緒に頼まれててね。あなたが全てを知る前に自分が死ぬようなことがあったら、できるなら魂をこっそり回収しておいて欲しいって。……そう言った後で結構すぐに死んだから手間はかからなかったけどね」
「ちょっと待って下さい。……魂って何ですか? 普通のポーションとは何が違うんですか? そもそもこれは父さんなんですか?」
「いっぱい聞くわねぇ」
「すみません」
「いいのよ。ラリーにも昔同じようなことを聞かれたし」
「そうねぇ、何から答えようかしら」
「まず、魂というのは、その生き物の中身。器に宿るもの。タコ焼きで言うところのタコね」
「魂は器の形に変わってしまうから、彼の魂は今、そのランタンの炎に宿っているわ」
「普通のポーションと違うのは、また器に戻すことができるというところね」
「ただし、その器にすでに他の魂が宿っている場合は、二つが混ざり合って一つになってしまうわ。――そう。彼や、今のあなたのように」
「ポーションの方が食べる形としては正しいのでしょうけど、やっぱり私はこっちの方が好きねぇ。……もう一度人間にちゃんと教えてみようかしら」
「彼は……父さんは、何故私に自分の魂を?」
「それは殺されたあなたが一番分かってるんじゃないの?」
「……」
「ところで、私がオススメするその魂の使い方があるんだけど、聞きたい?」
「……はい」
「まず一つ目は、そのままランタンの炎を消してしまうこと」
「ほとんどの魂がそうなるように、またいつか別の命として、器に生まれてくる日を待つこと」
「二つ目は今生きているものに直接宿すこと」
「できれば人間に近い生き物がいいわね。この方法だと彼の記憶が残ったままになるから、あなたの気が済むまで痛めつけてもいいし、なるべく苦しませてからもう一度死なせてもいいし。何なら触手の指輪の本当の使い方も教えてあげるわよ?」
「……」
「三つ目は私が食べちゃうこと」
「別に私が食べたいからじゃないのよ? ただ、私が食べた魂は完全に消えてなくなるから……そう、念には念をというやつね」
「まぁ、あなたの因果が彼の死をようやく許したということは、その心配はもうないのでしょうけど」
「私は……」
「別に今すぐ結論を出さなくてもいいわよ。私の触手を燃やしてるから、炎は勝手に消えないし」
「それに……あなたが死ぬまで悩んでくれたら、私はタダでこの珍しい魂を食べられるから」
「……やっぱり、もう少しリサさんに預かっていてもらっても構いませんか?」
「ええ、いいわよ。最近はうるさいネコも来なくなって静かになったし。動かさないで済むならその方が良いでしょうし」
「どうするのか決まったら、またこの場所に来るといいわ」
「ありがとうございます。……少し、考えさせてください」
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