032.1. ワイドデショー 2122 02 22

 西岡「おはうございます!」

 末竹「おはうございます」

 西岡「さあワイドデショー始まりました日曜の朝でございますけども」

 西岡「一年半ぶりですね今蔵さん」

 今蔵「おはうございます。よろしくお願いします」

 今蔵「何か中々呼ばれないんで、もうないのかなって」

 末竹「今蔵さんは~そっちの人じゃないでしょ」

 今蔵「だって動画サイトに上がってる、末竹さんと一緒にやらせていただいてる別の番組の動画のコメント欄に毎回『今蔵いらない』『今蔵が居るせいでこの番組見てない』とか書いてあって」

 今蔵「で、最近感染症予防対策とかで僕が出てない回があったでしょ? そしたらコメント欄で『最高だ!』『ずっとこれでいい』って」

 末竹「あっはっはっは……ワクチンができて感染が落ち着いたら通常の編成に戻るだろうから、そうか」

 末竹「だから動画サイトの視聴者的には『今蔵ウイルスのワクチン早くできろ!』『テレビ業界からとっとと駆逐されろ!』って思ってるんかもね」

 今蔵「あっはっは。そしたらMC型からグルメリポーター型にでも何にでも変異して生き延びますよ」

 末竹「そっか、元々は役者型、天才子役型で関西に発生して東京に上陸したんだもんね」

 今蔵「あっはっは!」



 この番組は普段スクープされる側の芸能人が個人の見解を話しに集まる情報番組です。



 西岡「先週十七日から行方不明だった小学四年生の安原百合さんが二十日遺体で発見されました。同日にSNSに投稿された犯行声明から犯人の住所が特定され、警察官が突入。犯人と見られる男が倒れているのを発見しました」

 西岡「男は病院に運ばれましたが、その後死亡が確認されました。警察の発表では、死因は急性アルコール中毒。犯行声明を踏まえると過剰な飲酒による自殺だと考えられるとのことです」

 

 西岡「末竹さんいかがですか」

 末竹「うーん、SNSに書かれた犯行声明を少しだけ読んだんですけど……これテレビで取り上げなくてもいいんじゃないですか? ある意味ニュースに取り上げているこの状況が、犯人の思う壺ってことになってませんか?」

 西岡「えーSNSで広く拡散されている現状を鑑みて、あえて番組内で取り上げることで議論を活発にしようという意図のもとに放送しております」

 末竹「うーん、この事件について僕が思うのは、犯人がとにかく卑怯。人を殺めておいて自分は法の裁きを受けずに自殺してるんでしょう? 死んだらみんな仏様とは言いますけども」

 末竹「それに何よりもね、最初にこの手の事件を起こして自殺した人間。最初にSNSで拡散したというか、きっかけを作ったやつが一番卑怯で卑劣だと思いますね。悪意の塊やなと」

 西岡「末竹さんが言ってるのは、昨年の二月に当時九歳だった松本翠さんが亡くなった事件ですね。犯人が自ら犯行声明文をSNSに投稿後、飲酒して自殺したという事件です」

 西岡「これの模倣と見られる事件は昨年末にも起こっていて、老人ホームへの放火事件では職員の方を含めて三十名以上の方々が犠牲になっています」

 末竹「あの一ついいですか、僕前にも言ってるんですけど、こういう痛々しい事件でね、その、亡くなった子供の名前を出さないで欲しいんですね。出す必要あります? それこそ今回の事件だって犯人の名前は出してないのに」

 西岡「そうですねぇ」


 西岡「今蔵さんどうですか」

 今蔵「んーどうしようもないんじゃないですか? 自分の身は自分で守るしか。これを事前に防ぐのはどう考えたって無理でしょ」

 今蔵「本気で未然に防ごうと思うなら、ヤバそうなやつらを全員先に捕まえて牢屋に入れるしかないんじゃないですか? お酒の方を規制するのは無理なんだから」

 今蔵「この手の犯罪を根絶するという視点で言うなら、そういうヤバいやつを生み出した人間、親だか周りの人間だか環境だかも同罪になるようにしないとヤバいやつは今後も出てくるし、そういう事件もなくならないんじゃないかなぁ」

 末竹「僕もそれはねー、悪いのは間違いなくそのヤバいやつなんですよ。そのヤバいやつが悪いんですけど、じゃあそのヤバいやつがどうしてヤバくなったのか、初めからヤバいやつだったのか、あるいはそのヤバいやつがヤバくなった原因になるやつが居たとして、ヤバいやつがヤバいことをした時にじゃあそのヤバいやつがヤバくなった原因になったやつはヤバいやつがしたヤバいことに対して何の責任もないのかって考えると」

 西岡「末竹さん、長いです。それに分かりにくい」

 末竹「もしこれからもこんな事件が続くとしたら、誰も得しないし、ただただ哀しいだけでしょう? 何とか止めることはできないんですかねぇ」


 西岡「えー猫窪弁護士、このような事件を未然に防ぐ、防ぐことができるような法的な対策は何かないのでしょうか」

 猫窪「えー、まずですね、これらの事件に共通しているのは、いずれも現行犯での逮捕が非常に難しい犯罪であること、そして事件が発覚する前に、警察に逮捕される前に犯人が全員自殺しているということなんですね」

 猫窪「これはどういうことかと言いますと、犯人に対して、法の裁きが犯行の抑止力にならないわけです」

 猫窪「その上で何ができるのかを考えると、やっぱりこれまでにも言われている通り、施設の警備や住宅街の見回りを強化して、なるべく犯行を未然に防ぐ、ということしか、今取ることができる手段としては、それしかないんじゃないでしょうか」

 猫窪「先ほど仰っていた、この人は犯罪をしそうだから捕まえよう、というのは当然、日本の法律では無理なわけですから」

 西岡「ということはやっぱり、最終的には私たち自身が自衛するしかない、小さなお子さんが居る家庭は子供を一人にしない、させないよう注意する、子供にも一人にならないようよく言って聞かせるしかない、ということですね」

 猫窪「ええ。それとこれだけSNSでも話題になっていることですから、地域の住民として、あるいは町の一通行人として、あるいは一日本国民として、一人一人が犯罪をしない、させない、という意識で居ることが大事なのかもしれません」


 西岡「はい、猫窪弁護士ありがとうございました」

 末竹「元号は新しくなったけど、嫌な時代になったなー」

 西岡「そうですねー」

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