030.1. 涙の理由

 ラリーの提案で作るものは、いつも楽しいものだった。

 だから今回もきっとそうだと思ったし、その通りだった。

 途中で赤ちゃんを産んだりして、完成するまで思ってた以上に時間がかかったけど。


「それは何をするものなの?」

「音楽を演奏して聴くものだよ」

「音楽を聞くとどうなるの?」

「うーん……僕が楽しくなる」

「それだけ?」

「あとはそうだなぁ……音楽を聴いている時だけは、それ以外を忘れることができる。心に効くお酒、みたいな」

「ふーん?」


 昼下がり。

 前にマリーからお菓子を貰っていたので、ラリーと一緒に食べようと中庭を覗く。


 いつも通り、椅子に座って音楽を聴いているラリー。

 かと思ったら、布を取り出して、目を拭き始めた。


 あれは……泣いてるんだ。


 何故か見てはいけないものを見てしまった気がして、お菓子は一人で食べることにした。



 翌日。

 マリーにお菓子のお礼と、昨日中庭で見た光景を話してみる。


「本当に音楽を聴いていただけなのか?」

「うん」

「そうか。……最近始めたビーノ栽培の事業が上手くいってないとか、聴いている曲の出来が良くなかった、あるいはとても良かったとか」

「そんな感じじゃなかったし、何度も聴いてる曲だったよ」

「うーん」


 二人で悩む。


「でも……やっぱり音楽のことだろうなぁ」

「そもそも、どういう理由であの機械を作ったんだ?」

「それは、音楽を聴いて楽しくなりたいから……ああ、そうか!」


 そういうことか!


「音楽は元々人間が演奏するものだけど、それだと自分が聴きたい時に聴けないって言ってた! だから装置を作ったんだって」

「だから?」

「だから、本当は人が演奏してるのを聴きたいんだよ。装置ではなく」

「……まぁ、何年もずっと毎日紙に穴をあけ続けてしまうほどのものなら、確かにそうかもな」

「でしょう?」


 自分がするべきことがはっきりすると、やる気が出てきた。


「よし。それじゃあ音楽を演奏してラリーに聴かせてあげよう」

「聴かせようって言っても、誰が? どうやって?」

「私たちが、練習して」

「二人でか?」

「……二人じゃ少ないか。それじゃあエステルとグレイスも呼ぼう。この四人ならラリーの家にいつでも集まれるし。曲はどうしよっか?」

「グレイスはともかく、私含め他の三人は楽器なんて触ったこともないだろう。演奏ができるようになるまで時間がかかるだろうし、何度かは集まって音を合わせる必要もある。特にグレイスにそんな暇があるか……」

「ラリーのことなら何とかするでしょ。エステルも最近身体を動かしてなくて暇だって言ってたし」

「簡単に言うけどなぁ……」


 お茶請けのサクサクを食べ尽くす。


「それで、今日はラリーが家に居ないけど……今から曲を選びにいく?」

「明日の仕込みはもう済んでるし、いいだろう」

「グレイスとエステルにはいつ言う?」

「グレイスには私から伝えておこう」

「じゃあエステルには私から言っとく。最近スイセイの顔を見るためによく来てるから。何なら今日も来てるかも」

「スイセイはもう喋れるようになったのか?」

「うん。……そうそう、最近エステルがスイセイに教典を……」

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