029. スーパーバニラ
スーパーなバニラアイスが食べたい。
舌の上で溶けて広がっていく幸せの味と、その痕跡だけを残して喉の奥へと消えて行ってしまう、あの瞬間を……また味わいたい。
というわけで、料理といえばマリーなので、マリーを探す。
まずは王宮のキッチンでマリーの行方の手掛かりを――と思っていたら、たまたま食材を借りに来ていたところにタイミング良く遭遇する。
そのままマリーの下宿先まで付いて行こうとしたが、狭いし暗いし片付いていないと拒否されてしまったので、近くの宿に部屋を取りそこで話をすることに。
「卵黄の甘みが強い氷菓か……」
魔法で氷を生み出せるこの世界では、アイスクリームの存在は珍しいものではなかった。
「使われている材料が特別だったり、特別な何かが使われているわけではないんだな?」
「うん。牛乳、砂糖、卵黄、食塩……他にも必要な材料はあるかもしれないけど、最後は分量の問題になると思う」
「あとは食感にとろみというか……粘り気があるものが必要かな」
「粘り気か……」
腕を組み職人の顔になるマリー。
「用意できそう?」
「……心当たりはある。三日ほど休みをもらったから、早速明日から城の厨房を借りて作ってみよう」
「わーい」
明日以降の予定が決まり、話は互いの近況のことに。
「やっぱり料理って難しい?」
「難しくもあれば、簡単でもあるな」
頭にハテナを浮かべていると、マリーから解説が入る。
「……人やモンスターと戦うのは簡単だ。相手の呼吸や動きを見て、それに合わせて効率良く武器を振るうだけでいい」
「料理も、調理の過程で食材をよく見るという点では同じだが……食材は何も答えてくれないからな。実際に口に入れるまで、どんな味や食感になっているのかさっぱり分からん」
「途中で味見をしても……どこでどうしたらそんなことになるのか……経験が全く足りていない。日々学ぶことだらけだ」
マリーは宮廷で料理を学ぶことと引き換えに、リサの件で国から貰った報酬を全て返上している。
それなりの金額だったはずだが……それだけの価値がある毎日を送っているようだ。
国……といえば、聞いておかないといけないことがあるんだった。
「そうそうマリー。結婚式は何時にしようか?」
「けっ……!」
饒舌だった口が急に勢いをなくしてしまう。
ついでに自分の隣に座るよう促す。
二人の体重の分だけ沈むダブルベッド。自然にマリーの方へ身体が傾く。
「一番いいのは、もちろん全員同じタイミングで……三人とグレイスも一緒にすることなんだけど……」
「それをすると周りの貴族たちがあまり良い顔をしないだろうし、四人同時だと単純に……折角の結婚式が慌ただしくなると思うんだよね」
「グレイスの後でするにしても、挨拶やパーティーなんかで何だかんだ一年間くらいは身動きが取れなくなりそうだし」
「だから、グレイスの前に三人一緒で、みんなの同意が取れてからなるべく早くにしようと思うんだけど……どうかな?」
「……うん」
小さく頷くマリー。
「式はサーリー教の形式で挙げようと思ってるけど、僕はミノタウロスの文化について詳しくないから……結婚に必要なものがあったら教えてね。ああそうだ、マリーの一族の人たちも招待した方がいいのかな?」
「そっそれは!」
「それは……やめてください」
「いけないことだった?」
「いや……」
「私が……恥ずかしい……から」
角まで赤くなっている頭を撫でる。よしよし。
「さっきも少し話したけど、グレイスとの結婚式の後はしばらく会いにくくなると思うんだ」
「そこさえ過ぎてしまえば政治のことはカール王子も居るし、そんなに忙しくなることはないと思うんだけど……」
「スイレンは王都にお店があるからいいとして、エステルも教団の本拠地は遠いけど、聖女として王都に来ることが多いから、それなりに会う機会はあると思う」
「マリーは……今の料理修行が済んだら、どこに住むつもりなの? 軍で働くつもりなの? というか何で料理なの?」
マリーであれば国軍に所属し最前線で戦うのはもちろん、上官として現場の指揮を執ることもできるだろう。
「私は……」
そう言葉を漏らしたきり、口籠ってしまう。
まぁ、マリーなら料理でも兵士でも、どちらでもやっていけるし心配ないか。
話を変える。
「僕は……結婚のこととか、そういう男女の話になると、顔を赤くしてちょっと慌て始めるマリーのことが好き」
「あ……えっ……」
「子作りをしてる時に我慢ができなくなると、僕の両腕を押さえつけて腰と腰をぶつけるのが止まらなくなっちゃうところも好き」
「ちょっ……もうっ……」
「そんなときでも『キスして』って言うと、ちゃんと抱きしめてからべとべとになるまでキスしてくれるところも好き」
「……」
ちょっとどころではなくソワソワし始めるマリー。
「坑道で初めてマリーと出会った時、僕は冒険者としては駆け出しで、スイレンも戦闘は得意な方じゃなかったから、まともに戦うことができる人が居なくて心細かったんだ」
「だから、マリーが一緒に来てくれることになって、本当に助かったんだ」
「一族の行方が分かった後も、こんなに可愛い人が一緒に居てくれるなんて、僕は幸せです」
「……」
羞恥と感謝で感情がぐちゃぐちゃになったのか、顔を完全に両手で隠してしまう。
「僕を好きになってくれて、ありがとう。マリアンヌ」
「…………うん」
小さい、小さい返事。
「それじゃあ……次はマリーからどうぞ」
「……え?」
「僕はマリーのことを好きな理由を言ったから、次はマリーが僕のことを好きな理由を言ってください」
「え? 好きな……」
頭を使っている時は冷静になれるのだろうか。
背筋を伸ばし顎に手を当て、いつになく真剣な表情になっている。
「……料理を学び始めてから分かったことだが、ラリーは食事が綺麗だな」
「食事が綺麗?」
「ああ。これまで貴族と呼ばれる人間の食事を見る機会が何度かあったが、中身が伴っている人間はほとんど居なかった」
頭のハテナを増やしていると、すかさず答えてくれる。
「見た目には同じかもしれない。ただ、それが作法として存在している理由、誰に対して、何に対して行うべきなのかを理解しているのといないのとでは……やっぱり区別が付くものだ」
自分は戦後日本の標準的な家庭で育っただけの人間だが、そこで身に付けた作法はここでは受けが良いらしい。
「そ、それと……」
急にもじもじするマリー。
心臓が忙しそうだ。
「こんなに幼くて…………可愛い、少年が、私なんかを……好き、と言ってくれたら……好きになるだろう」
――ああ、なるほど。
マリーからすれば……小さくて可愛くて育ちが良さそうに見える少年が、全身傷だらけのゴツい戦士である自分のことを好きだと言ってくれる、と。
その上なんだかエッチなことに積極的だ、と。
立場を逆にして考えてみると……確かに自分にはもったいないというか、何故そんな子が自分に好意を向けているのかよく分からない、というのも理解できる。
そんな風に言われたら可愛がるしかないじゃないか。
向かい合うようにマリーの上に座って、全身の体重を預ける。
ほんのり熱くなっている顔を両手で捕まえる。
じーっと見つめ続ける。
「あ……うん。……んぁ」
気が付いてすぐに力を抜き、そのまま後ろに倒れるマリー。
長く話していたこともあり、外も真っ暗で、すでにいい時間になっていた。
翌日。
足りない食材を買い集め、お城のキッチンで待ち合わせ。
まずは普通にアイスクリームを作ってみる。
これはこれでおいしい。
次に卵黄の量を増やしてみる。
味も食感も一層まろやかになったが、黄身の味が強すぎる。次は卵黄の量を減らして……。
「ああ、しまった」
「どうしたの?」
「ちょうど牛乳が切れた。城の備蓄を勝手に使うわけにはいかないし……続きはまた明日だな」
「乳なら……それは使えないの?」
マリーが二つ持っている、胸の大きな乳袋を指差す。
「あのなぁ……まぁ、出るには出るが……」
「今日はこれでおしまいでもいいだろう。明日また材料を買いに行こう」
「それさえあればもう一つくらい作れるんでしょう? まだ食べ足りないんだけどなー」
駄々をコネてみる。
「それじゃあ今日の夕食は私が腕によりをかけて作ろう」
躱される。
「もう一回くらい食べておかないとアイスの味忘れちゃうかもなー」
今日の進捗を盾に取ってみる。
「分量を書き留めているから大丈夫」
先手を打たれていた。
「こっちを見てマリー。……ほーらだんだんアイスが食べたくなってきた」
催眠術で操ってみる。
「ならない」
「……」
「そう、か……」
「マリーが、僕と一緒に、アイスを作りたくないって言うのなら……残念だけど仕方ないね」
「ちょっと、そうは言ってないだろう」
「僕はまだまだマリーと一緒に居たかったんだけど、マリーがそう言うのなら仕方ないね」
「だから……」
「ミノタウロスの乳は栄養も豊富だっていうし、食べたらきっと長生きして、今後もマリーとずっと一緒に居られると思ったんだけど……マリーがそう言うのなら仕方ないね」
ずるいものを見る目をこちらに向けるマリー。
「……はぁ。分かったよ」
「いいの?」
「ただし、一回だけだからな。あと一回分の量が取れたら終わりだからな」
「はいはい」
大き目のボウルを机に置いて、上着を脱ぎ始めるマリー。
自分も踏み台を用意する。
母乳の出口が二つとも露わになり、ボウルの前に移動したところで……後ろに回り込み、そっと両手で鷲掴みにする。
「ぁあっ! ……ちょっと!」
「何?」
驚いているような、照れているようなマリーと目が合う。
「……自分でするから、あっちに行っててくれないか?」
「…………分かった」
肩を落としながら、踏み台を元あった位置に持って行く。
「……もう! じゃあすればいいだろう!」
「わーい」
許しが出た。
身長差を埋めるため、マリーには椅子に座ってもらい、ボウルは膝の上に持ってもらう。
そこに後ろから覆い被さり、マリーの顔のすぐ横からのぞき込むような姿勢で乳搾りを始める。
まずは手のひらの温度を移していくように、ゆっくりと揉み解していく。
指が全て埋まってしまうような柔らかさではなく、ずっしりとして張りがある触り心地だ。
やがて胸全体が手のひらと同じ温度になり、先端部分の支度も整い始める。
マリーの呼吸がだんだんと荒くなってくる。
胸の大きさにしては小さい自分の手を使って、先っぽに向けてしごいていく。
「あっ……んっ……」
ボウルの中に飛び散る母乳。
さすがに乳牛のそれほどの勢いはないが……それでも順調に溜まっていく、白くて温かい液体。
先ほどからマリーが苦しそうに、というか何かを我慢するように、身体を小さく悶えさせている。
「大丈夫?」
「……ああ、何でもない。くすぐったいだけだ」
そんな状態が長く続いても辛いだけだろう。
早く終わらせるためにペースを上げる。
「ちょ、ちょっと待って、ラリー……あっ……あっ……」
胸が大分柔らかくなり、ボウルにも十分な量の母乳が溜まってきた。
仕上げに全てを出し切るように、先端を指で優しく擦り潰していく。
「あっ! ……だめっ! ……んっ! ……んーっ!」
思わず片手で口を覆うマリー。
揺れるボウルから狙いが外れ、床を白く汚してしまう。
「うー」と唸っているマリーをなだめつつ、アイス作りの続きに取り掛かる。
マリーの機嫌が戻った頃、マリーで出来たアイスも冷え固まったので、早速試食する。
……味は大分近づいてきた気がする。あとは食感のために油分か、水あめのようなものを混ぜれば、よりらしくなるだろうか。
「……あんなに恥ずかしい思いをしたんだ。おいしくないと困る」
と、マリーもお墨を付けている。
ふと、昨日の続きを思い出す。
「そうそう、マリーはどうして料理を習おうと思ったの? わざわざ料理人を目指さなくても、マリーの腕っぷしがあれば引く手あまただろうに」
「それは……」
やっぱり黙り込んでしまう。
が、角の先まで真っ赤にして、恥ずかしそうに口を開く。
「だって……自分の夫には、毎日美味しいものを食べて欲しいから……」
その日の夜。
マリーには全身フルコースで、何度でも気持ち良い思いを堪能してもらった。
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