027. サキュバスロード
グレイスの部屋と屋敷の間取りに頭を悩ませていると、王宮に居る本人からタイミグ良く呼び出しを受ける。
大きめのベッドが入る広さと防音さえしっかりしていれば後はお好きに、という要望を賜った後、今度はグレイスの要件を聞く。
曰く、女王として国を動かすために必要な根回しが全て終わったので、自由に動ける今のうちに自分のサキュバスとしての血のルーツを辿っておきたいらしく、その相談だった。
グレイスも独自の伝手を使って調べたそうだが、手掛かり皆無であるらしい。
そういうときは年長者に話を聞くに限る。
ということでリサの下へ。
「サキュバス? 知らないわねぇ」
手掛かりがなくなってしまった。
「私は知らないけど、ちょっと前に会った……ほら、小さくて大きいメイドの子。あの子の腰にあった魔力。その持ち主なら何か知ってるんじゃない?」
そんなわけでナツメ様に会いに行くことに。もちろんテンタクルなリングを持たされて。
触手の食欲に導かれ、無事村まで到着。
ナツメ様からはセンリと結婚するのではなかったのかと圧をかけられ、グレイスからは浮気なのかと問い詰められたりしながらも、なんとか有力な情報を聞き出すことができた。
ナツメ様の大昔の記憶によると、別の大陸でタコの亜人から逃げ回っていた時に、そのような羽と尻尾を持った人間を見た覚えがあるらしい。
その後、風のたよりで彼らが大陸の東に逃げて行ったという噂を耳にしたとかしなかったとか。
路銀にもまだ余裕があったので、さらなる手がかりを求めスキルで加速し東を目指す。
道行く旅人から話を聞くと……東の最果てにサキュバスたちが暮らしている島があるという情報を掴んだ。どうやら彼女たちも無事タコから逃げ切っていたようだ。
話はそれだけでなく、その島には唯一の男のサキュバス、インキュバスが種族のトップとして君臨しているらしい。
普通、女の子同士では子供は出来ないので、唯一の男であるこの人物がグレイスの曽祖父である可能性は高い。
アルコールを摂取する。
大陸最東端にある町に到着。
週に四回は出ているという定期船に乗り込み、いよいよサキュバス島に足を踏み入れる。
前世ではリゾート地のような場所に行ったことはなかったが、多分ここと同じような雰囲気なのだろう。
温暖な気候も相まって薄着になっている観光客と、気候とは関係なく薄着なサキュバスが南国風情な町に溶け込んでいる。
中央通りを歩く。
飲食、衣類、雑貨、おみやげ、……この世界で初めて目撃する大人のおもちゃ。
接客をしているのは現地に住んでいるのであろう人間ばかりで、店員サキュバスは一人も見なかった。
観光客らしき男が、出店に居た現地の一般サキュバスを熱心に口説いている場面に遭遇するも……なんと一般サキュバスの方が鬱陶しそうにフってしまった。
グレイスの性欲がそれほど強くないのは、てっきりサキュバスの血が薄いからだと思っていたが……なんとも夢のない光景である。
ママサキュバスが居るバーを見つけたので、そこで詳しく話を聞く。
「外の男は面倒くさいのが多いからねぇ。楽して美味しいものが食べられるなら、そりゃ皆そっちを選ぶわよ」
この島で観光業が盛んになったのは、今からおよそ百年ほど前。人間の牧場が作られたのも同じ時期だという。
この島に住む人間の男性は毎日、サキュバスに一定量の精を供給しなければならない。
精量のピークを過ぎた男性はこの島を出ていくか、腹上死させてもらえるかを選べるらしい。うらやましい。
都会派サキュバスの口から観光地らしい話が続く。
この町の周辺には文明的な生活とは一線を画する、弱肉強食で男を狩り喰らう野良サキュバスが常に目を光らせている。
町ゆくサキュバスから相手にされなかった観光客が性欲を持て余した結果、ほぼ毎日のように町の外で犠牲者が出ているそうだ。
「これからインキュバス市長に会いに行くんでしょう? 市長の館は町からちょっと離れたところにあるから、気をつけて行ってらっしゃい」
場末のママサキュバスに別れを告げた後、タイミング良く市長の館に行くという馬車を見つけたので、グレイスと一緒に便乗させてもらうことにする。
縦に三台連なって道を行く。
到着したらそのまま搬入作業もするのだろう、手綱を握っているのは皆筋肉質な男である。
三人ともやたらと顔が整っているのは、やっぱりサキュバスの好みなのだろうか。
しばらく進んでいると、上空に鳥の群れが飛んでいるのが見えてくる。……いや、あれはサキュバスだ!
あっという間に数十人に囲まれてしまう。
「ノコノコとオスがやってくるとはなぁ!」
一瞬で空に連れていかれ肌色にされていく三人の業者たち。
我先にと群がるサキュバスが男たちの突起という突起、穴という穴にむしゃぶり付いている。なんてむごい……。
「ちっこいのがまだ居るじゃねぇか!」
こちらに気が付いたサキュバスに捕まってしまう。
「くっ……空から来るなんて卑怯だぞ!」
スキルを発動させる暇もなく、羽交い絞めで空高く持ち上げられる。
「中々いい身体してるじゃねぇか……お前初物か?」
ビリビリに破かれていく服。
落ちると危ないので、無抵抗で剥かれるより他ない。
「ラリー!」
下からグレイスの声が聞こえる。
「女に用はねぇんだよ!」
「そこで大人しくしてな!」
業者の男たちを吸いつくしたサキュバスが次々とやって来る。
こちらの反応を楽しんでいるのか、四肢を広げられた裸体に、緩んだ顔をしたサキュバスたちの視線が刺さる。
「ぐはぁ!」
突如聞こえるサキュバスの悲鳴。
「貴方たちの相手は、この私です!」
そこには、野生のサキュバスと同じ格好になったグレイスの姿があった。
腰から生える羽としっぽ。そして露わになった股の間には――アレと、アレがぶらりと付いていた。
玉があるタイプだった。
「今まで黙っていてごめんなさい……お酒を飲むと、こうなってしまうの」
グレイスの傍らには酒の空き瓶が転がっている。
それにしても……下向きでもロイヤルなサイズだった。
玉の方も袋がキュッとしていて若い。
「インキュバスだと!?」
「あいつ以外にも存在していただなんて……」
「あの魔力と太さと長さ……ただもんじゃねぇ!」
うろたえる野良サキュバス。
「さぁ、今すぐその人を放しなさい!」
想定外の敵の出現に動揺するサキュバスたち。
ただ固唾を呑んで、成り行きを見守ることしかできないのが本当に歯がゆい。
ひときわ胸が大きいリーダー格とおぼしきサキュバスが声を上げる。
「お前ら落ち着け! そいつをよく見ろ! ……あいつと違って一本しかねぇ上に、魔力があってもあの様子じゃどうせ空も飛べねぇ。……気にせず男をやっちまえ!」
そう号令が掛かるや否や、股を開かれ、無数の手が優しく袋の中身は何だろなをし始める。
「やめろ!」
こんなに大勢……一体どうなってしまうんだ!
「お前はただ気持ちが良いだけの穴に精液を出してればいいんだよ!」
やいやいと騒ぐサキュバスたち。
「ラリー!」
地上でただ見上げることしかできないグレイス。
――ここまでか。
「うっ……!」
突如、サキュバスたちの動きが止まる。
そのままゆっくりと地上まで降ろされる。
「ラリー! 大丈夫!?」
まだ動けるサキュバスが! ……と思ったらグレイスだった。
「な、何が……」
「う、動けねぇ……!」
「お前、一体何を……?」
「――我は全ての性欲の捌け口を司る者。――全てのLove Dollの王である。――貴様ら全員そこになおれ」
ビシッと十人ずつ整列し、跪くサキュバス一同以下四十七名。
顔を伏せたボスサキュバスの前に降臨する。
「――貴様はインキュバスについて何か知っている風だったな。――そのインキュバスの館はどこにある?」
「だ、誰がお前なんかに……!」
「――いいだろう。――お前たちは馬車の荷物と業者を持って付いてこい。そして――」
「そして――この島に存在する、礼儀を知らぬサキュバスどもに告げる! ――我をかの者へと導く道となれ!」
そう号令をかけるや否や、何処からともなく次々と野良サキュバスがやって来ては、一段一段隙間なく空中に並べられていき……アーチ式の橋が完成した。
グレイスをプリンセスに抱え上げ、終わりが見えないサキュバス製の架け橋を一歩一歩進んでいく。
それなりの高さがあるので結構怖い。
元々魔力で空を飛んでいたのか、サキュバスたちは全く羽ばたいていない。なのに浮いている。スキルの力なのか、はたまた組体操の原理なのか。
一段ごとに胸やお尻の大きさがまちまちなので、必然的に平らである下腹部辺りを狙って踏むことになる。
たまに聞こえる呻き声や喘ぎ声で、そういう子供用のサンダルがあったことを思い出しながら、肉の段を踏みしめていく。
遠くに館が見え始める。
異変を察知したのだろう、館の主人とおぼしき正装の男性が正面玄関に見える。多分あれが市長だろう。
先に到着し膝を突いている家臣サキュバスを横目に、市長の前までサキュバスを降りて行く。
「……はじめまして。僕はラリーと言います。彼女は婚約者のグレイシスです。……すみませんが、何か着るものを頂けませんか?」
野生のサキュバスたちを解放した後、この島の管理人だというトム・リーザルと名乗るインキュバスに話を聞く。
彼が人間牧場の運営を始めたのは、サキュバスたちの衣食住を整えることで、彼女らに品を身に付けさせるためだった。
「大きく口を開いて……そこから精液臭い声を上げているのを見るのが、もう嫌で嫌で……」とはトムさんの談。
そんな同族の品のなさに嫌気が差して世界中を放浪している最中に、一人の女性と出会ったらしい。
「落ち着いていて、静かで、とてもやさしい人間の女性でした」
「彼女とは一晩逢瀬を交わして以来、再び会うことはありませんでしたが……その人もちょうど、あなたと同じ髪の色をしていました」
グレイスの方を見る。
「その人は……レギーナという名前ではありませんでしたか?」
「はい。その優しい瞳……懐かしいです。やっぱり彼女の御子孫だったのですね」
この人がグレイスのサキュバスとしての血のご先祖様だった。
その後、野良サキュバスたちを従える方法について聞かれたが、ユニークなスキルだと伝えると非常に残念な顔をされた。
「そうですか……いえ、でも希望が持てました」
町のサキュバスを見る限り試みは成功しているように思えるが……王族の品格が基準だとまだまだなのだろう。
「これから先、彼女とどんどん子供を作ってどんどん繁栄してくださいね。サキュバスとの性交のことであれば何時でも相談に来てください」
おっぴろげな激励を背中で受けつつ、帰りのサキュバスがないので馬車を借りて館を後にする。
グレイスと二人きりの旅路を楽しみながら帰国する。
王宮のお風呂で疲れを取った後、二人で一杯ひっかけながらグレイスとゆったりした時間を過ごす。
「……実は少し怒っていることがあります」
酒瓶を手に取りながら話しかける。
何の話だという顔をしていたグレイスも、こちらの手にある酒瓶を見るや、すぐに察した表情に変わる。
「僕が怒っているのは、男性のソレが生えていることそれ自体ではなくて、それを秘密にされたこと……ソレが生えているくらいで嫌われると思われていたからです」
しゅんとしたままのグレイスに思いを伝える。
「そりゃあ僕にだってグレイスに話してないことや、わざわざ話さない方がいいと思ってることはあるよ。でも」
「でも、秘密にしてて苦しいことだったら……話して欲しいかな。ちゃんと受け止めるから」
「うん……」
しっぽりする空気。
「ところで……」
「あの時以外にも、お酒を飲んで生えてきたことはあるの? 初めて生えたのはいつの時?」
「最初は……成人の儀を終えた後の、食事会だったでしょうか。そこで振舞われたお酒が強くて……」
「どうやって気が付いたの?」
「その、お股に覚えのない感触があることに気が付いて、手で触ってみたら、その……どんどん大きくなって……」
「誰かに見られなかった?」
「私に気が付いたリタに、自室まで連れて行かれて……その……」
「その?」
「……もうっ、よいではないですか……この話は……!」
見たことがないくらい顔が真っ赤になっている。
耳がぷっくりと充血していて紅い。
「それから?」
とだけ言って、グレイスの言葉を待つ。
「……その、……ち、小さくする……方法を……教えてもらいました……」
「方法って?」
「……もうっ! もうっ!」
両手でポカポカと叩いてくる。
「それじゃあグレイスは、少なくとも一回は、男の部分で気持ち良くなって……出しちゃったんだ?」
可愛い抗議から逃れながら確認する。
「……ぅぅ」
再びしおらしくなってしまう。
「最初は自分でしたの?」
「……はい」
「リタさんにしてもらわなかったの?」
「その、……変な癖が……つくといけないから、って……」
両手で顔を隠し、消え入りそうな声で律儀に答えてくれる。
ソファに座ったまま、身体ごと俯いているグレイス。
ふと、純白色のネグリジェの一部分が、とても大きく盛り上がっていることに気が付いてしまう。
「……小さくしよっか?」
変な癖がついた。
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