025. Aランク冒険者ラリー
国王の葬儀が終わり、今後一年間はカール王子が一時的に国政を担うことになった。
グレイスが女王として権力を振るうためには、表でも裏でもやらねばならないことが色々とあるらしい。そのための一年だった。
自分はというと、リサの脅威から王国を救った功績で、一足飛びにAランク冒険者に認定された。同行していた四人にも名誉と報酬が与えられた。
私設とはいえ王女の親衛隊隊長であり、史上初のAランク冒険者になったことで、対外的にも自分は王女の婚約者だと堂々と名乗れるようになった。
グレイスとの婚礼は彼女が正式に即位する一年後に、亜人収容政策で動揺した国内がある程度落ち着いた頃を見計らって執り行うことになった。
未来の女王が過去の政策の清算や将来の地盤固めをしている間に、自分も人生の目標に向かって進んでいく。
まずはAランク冒険者の認定と同時に貰っていた報酬で、自宅を建てることに。
単純計算で四組の夫婦が住めるだけの広さを確保するため、場所は新王都郊外の土地になった。もちろん建物の設計にも色々と口を出した。
国を救った報酬とはいえ、国民の税金で大きな家を建てることには変わりないので……地域住民への菓子折り、もとい挨拶を欠かさないようにする。
工事にもなるべく地元の職人や物品を利用する。今世では敷地内にハトの死骸を投げ入れられるようなことは遠慮しておきたいので。
工事も始まり暇になったので、休むことなく直ちに別件に取り掛かる。
事故や病気をしなければ、自分が死ぬまであと五、六十年はかかるだろうか。
グレイスはともかく、他の三人はまず間違いなく自分よりも長生きするだろう。
もちろん色々と準備をしておくつもりではあるが……自分がこの世を去った後も、彼女たちの人生は続いていく。
要するに、自分が生きている今のうちに、彼女たち自身の生活基盤を作ってもらいたかった。
しかしそんな心配をするまでもなく、すでに皆それぞれ自分の道を歩み始めていた。
スイレンは国から貰った報酬を元手に、王都の中心地で自作の小物や家具を売る、雑貨屋を開いていた。
元々器用だったことに加えて、収容所時代に培った技術を生かし、革、木材、金属など様々な素材の加工品を作っていた。
本人の凝り性な性格も相まって、オーダーメイドで作られる品々の評判は悪くないようだった。
マリーは料理を一から学ぶべく、グレイスに紹介された王室御用達のコックの下で修行に励んでいた。
世界中の料理を振舞うことを目標に、古今東西の料理の技術を学んでいるそうだ。
さらにその一環として、土木や造船、内燃機関に氷魔法……つまりは食材の輸送技術についても同時に学んでいるんだとか。……一体、何が彼女をそこまで突き動かしているのだろうか。
エステルは教団本部に戻り、内部の改革をしているらしい。
今までずっとほったらかしにしていた例の神父様を使って色々とやっているそうだが、具体的に何をしているのかは教えてくれなかった。会う度にお土産としてポーションをくれるだけだった。
グレイスから聞いた話では、国と共同で教育機関の設立、特に子供たちが通う学校の設置に向けた計画を進めている最中であるらしい。
イレーヌ嬢は港町のギルドに戻っていた。
周辺地域の治安に対する不安が取り除かれ、ギルドに以前の活気が戻り人手が足りなくなったそうだ。
ミコもイレーヌ嬢に付いて行き、ギルドの一員として一緒に働いている。
教団の改革によって聖属性魔法の技術が秘伝ではなくなりつつあるものの、それでもヒールを使える人材は貴重で重宝されているんだとか。定期的に里にも顔を出しているらしい。
そしてラリー。というか自分。
このまま冒険者稼業を続けてもよかったが……せっかく異世界転生したのだから、知識を使って不労所得を目指してみた。
幸いなことに、このアルジーヌ王国では商会によって知的財産権が守られていた。
したがって、準備のための準備などをする必要もなく、グレイスを通じて商会にコネを作った後は、ただひたすらに前世の知識をアウトプットしていくだけの作業になった。
基本的には、スイレンにサンプルを作ってもらった商品やアイデアの製造・販売権を商会に売り、それらによって得られた利益の一部を自分、または近い将来妻になる四人が受け取るという契約を結んでいった。
日用品や娯楽程度の知識はそのように、そして……軍事に転用可能な技術や、国力増強に繋がる第一次、二次産業などの知識についてはグレイスとカール王子の二人だけに伝え、この世界の実情との擦り合わせをしていった。
専門的な知識を事細かに覚えているわけではなかったが、それでも、この世界のはるか先を行く『常識』の扱いについて、王子の未来視のスキルは安全装置として大いに役立った。
そうそう、リサについて。
地下から引っ張り出した後は新王都に連れて行き、人間の社会を学んでもらうことになった。
現在は中央広場でタコ焼きの屋台を開いている。
恐らく世界でただ一人の珍しい亜人が、前世の味を再現した香ばしいソースと仕入れ値ゼロの具で商売をしているので……結構繁盛していた。本人は客が多くて煩わしそうだったが。
王都の中だけという行動範囲の制限はあるものの、自由で気ままな生活を送っているようだった。
そうして半年が過ぎた頃、ようやく完成した自分の居住スペースで一息ついているところに、訪問者が現れる。
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