024. 甘すぎた説得
意識が戻ってから約一時間。
回復魔法の効果が現れ始め、ようやく自由に身体を動かせるようになった。
結界の中を見る。
黒い、粘度のある液体が地面を濡らしている。
リサになろうとしている様子はない。
しかし念のため教団まで応援を呼び、交代で結界を張り続けてもらうことにする。
一週間後。
液体に光沢が見えなくなり、固体に変化しつつあるのを確認。
動き始める気配はまだない。
再生に影響はなさそうなので、結界を解いて経過を観察することに。
さらに一か月後。
見た目はほぼ元の姿に戻っていたが、以前よりも小さくなったように見える。
まだ身体は動かせないようだが、口は動くようなので話しかけてみる。
「……こんにちは。お元気ですか?」
「見れば分かるでしょう? あなたの方こそ、よく死ななかったわねぇ」
「こっちのセリフです。……百年かけてみじん切りにしたのに、たったひと月で元通りですか」
「でも今までで一番時間がかかってるわよ? 動けるようになるのは、まだずっと先になりそうだし」
炎の字に寝ころんだままピクリとも動かないリサ。
誰も近づかせておらず服も着せていないので、人とタコの境界がはっきり見える。
「それで見ての通り、私はクタクタなんだけど……そろそろあなたが言っていた『とっておきの説得』というのを見せてもらえるのかしら?」
一応準備はしてきている。確かにあまり先送りにもできない。
「そんなに見たいのなら、お望み通りに」
パンツを下ろす。
タコの……ってどこにあるんだろう?
というか卵生の場合は卵に直接かけるのが正しいんだろうか?
本人に聞くと、一応それらしい穴はあるらしい。
「何をするの?」
「……強すぎる快楽は、その刺激を受け取る器官を壊してしまうと聞いたことがあります。ですが……あなたならその心配はなさそうですね。何ならスキルの力で無理やり治してもいいかもしれません」
精力を回復するポーションは大量に用意してある。
「ただ消費するだけではない、命を生みだす行為の悦びに、この世の理を越えて溺れてもらいたいを思います」
何をしても死なないのはすでに実証済みなので、Love Doll Masterの力で文字通り、死ぬほど気持ち良くなり続けてもらう。
一度スキルで絶頂させてからは、音がしただけでも達する身体になってしまい、快楽から漏れ出てしまう嬌声がまた快楽を呼び……リサの幸せな叫び声が地下洞窟にいつまでも響き続けた。
二か月後。
ようやく静かになったリサと会うために地下へ。
「本当に人間はずるいわねぇ。私が寝てる間にも、あんなに楽しいことをしていただなんて」
中に出され続けて一か月。
それから快楽の余韻に悶絶し続けてさらに一か月。
そうしてようやく身体を動かせるようになったらしい。
「人間の精液ってあんなに美味しいのねぇ。初めて知ったわ」
スキル発動の副産物なのか……彼女の人間を食べるという行為に、性的な意味が加わった。
今は食欲も性欲も満ち満ちて触手もテカテカ、ニッコリ笑顔でご満悦のようである。
「そうそう、あなた。この世界の人間じゃないわね」
核心を突かれ一瞬ドキっとする。
「あなたの命。魂に纏わりついている因果……一体何があったらそうなるの? あなたは前の世界で何をしたの?」
「……あなたの生が終わらなかったのは、多分それのおかげでなんでしょうね」
おかげ、というべきなのだろうか。
死ねない因果。
逆に何をすれば無事死なせてくれるのだろう?
うーん! と東西南南北北上上下下に伸びをするリサ。
「お腹いっぱいで気分も良いし、すっごく気持ち良かったし……いいわよ。しばらくの間、あなたたちと一緒に生きることにしてあげる」
地下が気に入ったというリサを残して地上に戻る。
玉座の間に出ると、取り乱した様子のグレイスに見つかる。
「……ラリー! ラリー! 父様が! お父様が……!」
とりあえず落ち着かせて事情を聴く。
グレイスの手に握られた手紙――遺書によると、父君はポーションの生成施設に向かうため、二日前にはすでに旧王都を発っていたということが分かった。
施設の具体的な位置を聞き出し、飲酒しながらその場所へと急ぐ。
程なくしてスキルが発動、一人先に現場へと走るが、到着した時には、すでに……。
グレイスが来るまでの間、王様と初めて会った時のことを思い出していた。
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