020. 8年
――刹那、何も聞こえなくなる。
世界が遅くなりすぎると音も伝わらなくなるのか。あるいは自分が認識できていないだけなのか。
とにかく始めることにする。
刀の振り方に細心の注意を払う。
この一本を実質何十年も使い続けることになるので、少しでも長持ちするよう、丁寧に刃を入れていく。
十分経過の合図はまだ見えない。
集中を途切れさせることなく、同じリズムで刻み続ける。
間違っても切っ先を地面に当てたりしないよう、リサだったものを定期的にすくい上げ、空中に留めておくようにする。
刀身に垂直以外の力をかけないように、持ち手を常に意識する。
刃が血肉に触れる時間が極端に短いからか、はたまた数百年の時を経てもなお完成当時の艶を保っている魔力のおかげか、切れ味が鈍くなる様子はない。
しばらく切り続けていると、リサだったものは赤色から紺色を経て、最終的に黒い液体のような塊になった。
刃先から伝わってくる感覚が変わろうが、構わず刃を通し続ける。
体感で二週間ほど経っただろうか。十日目を過ぎた辺りから時間の感覚が分からなくなってきている。
スキルの発動中は疲労を感じることはない。怪我をすることもない。……自分で自分を傷つけたらどうなるかまでは分からないが。
周期を乱さず、無駄な力を入れず、ただ引くことだけを考えて、刀を振り続ける。
――十分経過の合図はまだ見えない。
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