019. 0.00000237秒

 スイレン、マリー、エステル、ミコ、そして自分を合わせた五人で、リサが待つ地下へ。

 グレイスがどうしてもと言って付いて来ようとしたが、「必ず戻ってくる」と約束をして、彼女には地上で王族としての役割を果たしてもらう。

 ……こんな恥ずかしいセリフを口にする時がくるとは。


 地下へ続く階段が終わると、すぐに何かの気配を感じた。……リサだった。

 外に出ていく気満々だったのだろう。こちらの姿を見つけるや否や、うねうねと近寄ってきた。


「……こんにちは。待ちました?」


「待ってたわよ。あと少しでも遅かったら外に出ちゃってたかも」


 約束を守ろうとする道徳は持ち合わせているらしい。


「最後にもう一度だけ聞いてもいい? ……やっぱり食べるのを我慢することはできませんか?」

「あなたたちがそれを言うの?」

「……分かりました。それじゃあ本当に最後に一つだけ。リサは本当に何をしても死なないの?」

「いずれは寿命で死ぬでしょうけど、まぁ死なないでしょうね。ポーションもたくさん飲んだし」

「……それは良かった」


 みんなに視線をやる。


 準備を始める。


「外に出ていく前に……一つゲームをしませんか?」

「げぇむ?」

「はい。今から大体三時間、一秒に一回の早さであなたを切り続けます」

「最後の一太刀の瞬間まで、元気いっぱいだったらリサの勝ち。そのときはどうぞ、思う存分召し上がってください。リサが寝ている間に地上は様々な生命で溢れています」

「それはお腹が鳴るわねぇ」

「ですが万が一、再生するのにヘトヘトになって触手の一本も動かせなくなってしまった場合……僕のお願いを聞いてくれたら、僕の勝ちです」

「お願いっていうのはつまり、食べるのを我慢しろってことでしょう? だったら……もう負けてるんじゃない?」

「大丈夫です。とっておきの方法がありますから」

「方法って?」

「その時のお楽しみということで」

「……まぁいいわ。何にせよ無理だと思うけど」

「確かにそうかもしれません。ですので……もう少し色々とさせていただこうかと思います」


 リサから距離を取ったエステルに結界を張ってもらう。

 自分とリサの周りを囲うように数重の薄い膜が出来上がる。


「まず一つ目。これは魔力と物理的な力を遮断する結界です」

「こんなのすぐに壊せちゃうわよ?」

「目的は外部からの魔力の供給を防ぐことです。瞬間的な力の干渉でこの結界を壊すことはできません。つまり……切られた身体を再生するのに、ご自身が持つエネルギーだけで頑張ってもらいます」

「なるほどね」


「二つ目。……これは魔力を切断することができる刀です。あなたにどれほど有効かは分かりませんが、多少は再生し辛くなると思います」


 ふんふんと聞き入っているリサ。


「そして三つ目。Drunk Monkeyというスキルを使います。僕がお酒を飲んで酔っている間、飲んだお酒の度数分だけ早く動くことが可能になるスキルです」


「このスキルは違う種類のお酒を混ぜることで、スキルが参照するお酒の度数を倍々にすることができます。因みに倍々になるのは三種類までです」


 酒瓶を取り出して見せる。


「これにはエール、サーキ、ビーノをそれぞれ蒸留して均等に混ぜたものが入っています。正確な度数は分かりませんが……それぞれが七十度から八十度ほどでしょうか」


「これをここにやって来る直前に飲んで、ちょうど今酔いが身体に回り始めている状態です。このスキルは任意に発動することができる方法があるのですが、今は説明を省きますね」


 残っているお酒を飲み干す。


「……ふぅ。……一秒に一回というのは、このスキルが発動している僕の時間で、ということです」


 刀を抜く。

 

 ……借り物なので、鞘はスイレンに渡して預かってもらう。


 全ての準備が終わる。


「……やめておいた方がいいんじゃない? あなたがスキルと呼んでいるそれは、あくまで理を曲げるだけのものであって、一生分の時間を過ごしたという因果は必ずあなたの元へと帰って……あなたの命を終わらせるわよ」

「全て承知の上で、です」

「……そう。ならいいんじゃない?」


 仁王立ちになり構えるリサ。


「それじゃあ……いきます」


 ラベルを見る。


 スイレンが名付けたのであろう、しかし言い回しはマリーが考えたものと思われる名前を読み、スキルを発動する。

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