010. 謎の安い酒の正体は
収容所で見つけた安そうな酒でスキルを発動し、港町まで戻る。
……ろうとするが、何故かスキルが発動しない。酔っている感覚はあるが……。
ギルドカードを確認する。
発動してないだけで、スキルが消えたわけではない。
落ち着くために手持ちのサーキを飲み直し、しばらくすると無事発動。
スイレンを背負って港町まで飛ばす。
港町に到着。
明日はスイレンのギルドカード、装備の新調、謎の安酒の身元割りなどの用事を済ませるつもりなので、早々にベッドに横になり、じっくりと疲れを取ることにする。
翌朝。
ギルドカードは夕方以降に取りに来てくれとのことなので、それまでに他の用事を済ませるべく出店通りへと繰り出す。
まずは装備を新調する。
見た目ではったりをきかせるため、少しでも熟練冒険者に見えるよう高価で良い装備を買う。赤豚討伐の賞金があるので懐は暖かい。
スイレンとペア感を出すために、おそろいのマントも購入しておく。
買い物の最中スイレンから話を聞く。
今からひと月ほど前に、山の中の集落で暮らしていたところを軍に見つかり、まるごと収容所に連れていかれたらしい。
収容所に着いてからは、小人たちの維持管理以外のことは考えられないよう洗脳されていたそうだ。
同胞と別れて心の区切りがついたのか、あれが食べたいこれが食べたいと遠慮がなくなってきた。――これが本当のスイレンなのだろう。
謎の安い酒の正体は酒屋に行くとすぐに判明した。
原材料の果物にちなんだ名前や、主に流通している地域、伝統的な飲み方から合うつまみまで、若い店主が色々と教えてくれた。
Drunk Monkeyの検証のために、スイレンだけが名前を聞いたお酒を一本購入し、ギルドに帰る。
夜。
受け取ったカードをくるくると見ているスイレンを横目に、スキルの検証を始める。
スイレンに「ちょっと速くなるけど気にしないでね」と断りを入れてから、身元が判明したお酒を飲む。
推測していた通り、酔いが回るとスキルが発動した。
スキルが解けるのを待ってから、今度は名前を伏せて買ってきたお酒を飲む。再び酔いが回るが――やはりスキルは発動しない。
そして予想通り、スイレンからこのお酒の名前を聞いた瞬間、スキルが発動した。
スキル発動時の『自分の早さ』は飲んだお酒の度数なりだろう。酔っている途中に発動したとしてもそこは変わらないらしい。
酔いが醒めるまで待っているといい時間になりそうだったので、手書きのメモでおやすみなさいを言い、ベッドに入る。
翌朝。
ちょうど王都の方へ向かう隊商が町を出るというので、便乗させてもらうことにする。
この港町はスイレンが居た収容所から離れてはいるが、最寄りでは最大規模の町でもあるので、長居しないに越したことはないだろう。
出発する前に、この町を離れてしまうことをイレーヌ嬢に謝罪する。
治安上の不安がある程度解消したとはいえ、Cランクを認めてもらったからにはギルドに対しそれ相応の貢献をするべきであり、そこをすっぽかしてしまうからである。
イレーヌ嬢の「気になさらないでください」という言葉に、「あなたがピンチになったときには必ず駆けつけます」と約束をして、スイレンと共に町を後にする。
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