008. そこをなんとかCランクにしてもらえませんか?
瓶に残っていたサーキを飲み干し、港町に向けて出発する。
途中でスキルが解けるも、なんとか日が暮れるまでに着くことができてホッとする。
ギルドに入ると人人人。珍しいことに繁盛していた。
イレーヌ嬢に訳を聞くと、どうやら山賊でキャンプファイヤーしたのが町から見えていたようで、「あの光は何だ?」「確かあそこには山賊のアジトがあったはずだ」「一体何が始まるんだ」と警戒を強めていたらしい。
ギルド長が不在だったので、親玉の首が入っている木箱をイレーヌ嬢に預ける。
少し匂うかもしれないと一言添えておく。
「女性が閉じ込められているってどういうことですか? 詳しくは箱の中を確認して欲しいって……中に何が入ってるんですか? ちょっとラリー君!」という声を背中で受けながら自室に戻る。
とにかく今は眠りたい。
追求はすれど、引き留めるまではしないでくれたイレーヌ嬢に感謝しつつ、ベッドに倒れる。
翌昼。
二日酔いにならなかったことに安堵しつつ、一階の食堂へ。
いつもの笑顔のイレーヌ嬢に薦められるがままに昼食をとる。
今日は一日部屋に籠ってゆっくりしようと心に決めていたが、「……ギルド長が話があるとのことなので、食事が済んだら受付の方まで来ていただいてもいいですか? 食後の休憩を挟んでからで構いませんので」というお願いがそれを阻む。
ギルド長との対話はむしろこちらからお願いしたいことだったので、二つ返事で了解する。
昼食を食べ終わり、部屋に戻ってしばらくボーっとして過ごす。
頃合いを見て受付に向かうと、すぐにイレーヌ嬢に発見され奥に通される。
ギルドの応接室に入ると、見覚えのある巨大筋肉屈強雄ミノタウロスがソファに座っていた。
巨大雄肉屈強筋ミノタウロスはこちらを見つけるとすぐに立ち上がり、「初めまして。当ギルトのギルド長、グレンを申します。急な呼び出しにもかかわらず応えていただきまして、ありがとうございます」と丁寧に挨拶をする。
見た目と礼儀に威圧感を受けつつ、こちらからも挨拶と建前を済ませて本題に入る。
「山賊と手配書の赤豚は僕が討伐しました。親玉の首以外は全て小屋に集めて火葬しました。一昨晩この町から見えた光はその時のものだと思います」
「アジトには女性が居ましたが、一緒に連れ出して山を下るわけにもいかず、ギルドに助けを呼ぶまでの間、民家の中で過ごしてもらうことにしました」
「山賊たちがしていた装備を一通り回収してきました。ご確認ください」
新兵になった気分でハキハキと答える。
一応装備を検めるギルド長。しかしそれほど興味がなさそうに見える。
「……ラリー君。今日君をここに呼んだのは、君に直接確認したいことがあったからなんです」
「昨晩イレーヌに報告を受けてから、女性たちの救助と事実の確認のため、今朝ギルドから早馬で人を出しました。明日の昼には現地に到着して、三日後にはギルドまで第一報が届くでしょう」
「山に光が見えたのは二日前の深夜。ラリー君がこの町に帰ってきたのは昨日の夕方。……イレーヌによると、君がここを出発したのは同じく二日前。それも昼を過ぎた頃だそうだね」
ギルド長の視線が鋭くなる。
「……ラリー君。君は一体どうやって東北の山からこの町まで帰って来た? それとも……赤豚を討伐したのは本当に君か?」
さすがギルド長。
何も悪いことはしてないはずなのに、何だかドキドキしてきた。
……この人ならDrunk Monkeyのことを話しても大丈夫だろう。というか話さないと納得してもらえそうにない。
その後、スキルのことをかいつまんで話し、証明してみせよと立ち合うことになり、顎に一発入れてギルド長が目覚めるのとスキルが切れるのを待ち……とりあえず信じてもらうことができた。
それから三日後。
今度は膝を突き合わせて話し合う。
最終的に二つの要望を聞いてもらえた。
一つは討伐者の情報を伏せること。
赤豚討伐の事実さえ伏せないのであればと、こちらはすんなり通った。
もう一つは討伐の功績として、Cランクに昇格してもらうこと。
これもスキルの実演が効いたのか、早急に手続きを始めてもらえた。
といっても、Cランク以下の認定であればギルドの裁量だけで行うことができるので、新たにカードを発行するだけの話なのだが。
話はそれだけで終わらず、ギルド長は自分の娘であるイレーヌ嬢をパーティーのメンバーとして薦めてきた。それも結構強めに。二人は親子だったらしい。
Drunk Monkeyの扱いの難しさを察して気を利かせてくれたのか、はたまた将来婿入りさせることを企んでいるのか知らないが……それは流石にお預かりするものの責任が大きすぎることや、彼女はギルドに必要不可欠な存在だということでお断り申し上げた。
全ての話が終わったのは深夜。
部屋に戻って一息つくと、赤豚討伐の疲れがまだ身体に残っていることに気が付く。
この世界に来てから初めて、何も考えない静かな気持ちでベッドに横になった。
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