54 主人公とヒロインのお通りや!

 世界征服から二ヶ月。

 壊した中央国の修繕とか、結婚式の準備とかで、なんやかんや時間が経ってた。


「叶太くん、愛してます」

「俺もやで、すもも。めっちゃ愛してる、今更感あるけど、結婚してくれ!」

「ほんとうに今更ですね。準備してるのに」

「ほら大事なことは何回も言わなあかんやん?」


 ベッドの上で壁にもたれかかるように足を開けて座る俺の上に、だらっともたれかかるステラ。


「それにさ」


 後ろから抱きつくようにステラに近付いて、左手を持ち上げる。


「ニアスに頼んでた婚約指輪完成したから、形式としてな」


 白く輝く大粒のダイヤの指輪を、そっと薬指にはめる。


「叶太くん。ありがとうございます! 嬉しいです」


 ステラの声は、涙で少し掠れたような感じがした。ギュッと抱きしめて、ポンポンと頭を撫でる。


「結婚指輪も完成してるらしいで。まだデザイン見てへんから後で一緒に見にいこか」

「はい!」


 そんな会話をしてると、コンコンコンと俺の部屋がノックされる。


「はいよー」

「イチャイチャしてるところ失礼するね」

「いらっしゃい神下さん」


 訪ねてきた神下さんの手には、転生前にステラが使ってたスマホと、ペアのネックレス。

 俺このネックレスずっと付けてたんよな。すももの記憶なかったのに。


「ミコちゃん、データ残ってました?」

「ばっちりだったよ! 上に怒られたけど、死者職員辞めてきたし怖いものはなかったね」


 ハハハと笑う神下さんの目には泣いた後があったけど触れへんことにした。


 そんな神下さんが出したのは、すもものスマホに入ってた写真をまとめたデータが入ったパソコン。


「二人のデート写真、いっぱいあったからまとめるの苦労したんだよ?」

「うわ、懐かしいな」

「ほんとですね、これ叶太くんが話しかけてくれた日に入ったカフェですね」

「東京案内してもらったやつやな」


 モニターを流れていくのは、数々の思い出。パフェ食ったり、遊園地行ったり色々してたなぁ。


「これを編集して、結婚式で流すね。楽しみにしてて」

「はい! ありがとうございます!」

「おおきに!」


 編集があるからって出ていった神下さんが残していったすもものスマホで、まだ写真を見てる。


「これ叶太くんが不良にカツアゲにあったやつですね」

「待ってそれ写真撮ってたん!?」

「五千円渡してましたね」

「だって怖かってんもん……」


 俺あん時はガラ悪い兄ちゃんが、ダチの治療費たらんから募金してくれ言われて渡したのに、ただのカツアゲやったとか衝撃よなほんま。


「あ、これは猫カフェでデレてる叶太くんですね」

「横に映ってるすもももデレデレやん」

「いやぁ楽しいですね、こういう時間」

「せやなぁバチバチ戦闘もしばらくないし、平和でええなぁ」



 ***



「本当に機能なしでよかったのかい?」

「うん指輪にそんなん求めてへん」

「機能があるとアクセサリというより、装備って感じですもんね」


 目の前には、ニアスが造った銀ピカの結婚指輪。裏にはイニシャルが刻まれた、ごく普通の指輪。ニアスはなんか隠し武器を展開できるようにした方が良くない? とか言うてたけど全部却下した。


「で、どうだい? 出来は」

「凄く素敵です! シンプルなのに綺麗です」

「めっちゃええな! シュッしてて!」

「カナタ少年……語彙力なんとかならないのかい?」


 ならへんから困ってるんやで。


「ニアスさん、調合終わりました!」

 

 そう言うてラボに入ってきたんは、白衣姿の勇也やった。

 罪滅ぼしも兼ねて、今はニアスのラボで補助をやってるらしい。


「やぁ叶太にすもも。指輪、とても綺麗だね」

「素材集めに行ってくれたんやろ? ありがとうな」


 希少ななんかから成分抽出するところから始めたって聞いた。


「親友の晴れ舞台だからね。これくらいどうってことないよ」

「勇也さんなんだか爽やかになりましたね」

「ニアスさんにしごかれてるからかな」

「助手くんはまだまだ甘いけどね、ほら次の作業に取り掛かるよ」


 今この世界全体は、俺とすももの結婚式のために動いてくれてる。地味に身内だけでする言うてんけど、みんな盛り上がってもうてありがたいことにどんどん盛大になっていってる。


 チャペルは中央国のどでかいところ。飯とかは料理長が各国の料理人と協力して作るらしい。ケーキ作りは従業員ちゃんも手伝ってくれる言うてた。


 牧師はメアがどうしてもやりたい言うから、メアにお願いした。


 バージンロードでは、おっさんが父親代わりとして歩いてくれるらしい。


 その他諸々の段取りはみんなで協力してやっていく。なんか中継とかもするらしくて、ニアスが一番動きっぱなしやと思う。


「エレナちゃんのところにカメラとか配置しに行くか」

「そうですね。招待状も渡しに行かないとですし」


 中継するために配線したりとか、技術を現代まで引き上げるのにもうちょい時間かかるけど、神下さんがおるからスムーズに事が進んだ。さすが元死者職員。



 ***



「やっほーエレナちゃん」

「配線しに来ました!」


 作業着に身を包み、器具を色々と引き摺った俺らは、エレナちゃんの元に来てた。


「そのお洋服可愛いですね!」

「着てみますか?」

「いいんですか!?」


 こうしてすももは、しれっと作業員を一人獲得した。

 こやつ……やりよる。


 ――配線を順調に進めて、数時間後。俺のスマホには、各地で配線が終わったと、マギーたちからの連絡が入ってる。


「すもも、中継の段取りとかも済んだらしいし、予定通り三日後くらいには式できるで」

「みなさんのお陰で順調に進みましたね!」

「お二人とも、当日楽しみにしてますね!」


 和気藹々と話す、すももとエレナちゃん。

 当日をたのしみにしてるのは、俺も一緒や。まさか二十歳なるまでに結婚するとは思ってなかったけどな。まぁもう年齢止まってるんやけど。



 ***



 時間ってのは早いもんで数日なんて、なんかしてたらあっちゅうまに過ぎていく。


 チャペルがある中央は全体的に賑わい、各国から人々が押しかけてる。そん中には当然、魔族もおる。


 獣の見た目してたり、液状やったり。いろんなやつがおるのが魔族。今まではそんな魔族を恐れて攻撃してた人間は、魔族を受け入れ、笑顔で語り合ってる。


「いやぁ、世界平和って最高やな」

「そんなことを言う魔王は叶太くらいだね」

「せやな。そんな気がする」


 グレーのタキシードを眺めながらそんなことを言う俺に、ネイビーのスーツを着た勇也がツッコミを入れる。


「というか早く着なよ」

「これ来たらもう俺既婚者になるんよな」

「もう西の国で手続きは済んでるんだしもう既婚者じゃん」

「あ、そっか」


 結婚した日から既婚者になるんやおもてたけど、書類出したその日から既婚者なんか。盲点やった。


「というか勇也、おっさんどないしたん?」

「恩人の晴れ舞台に、転けたりして泥を塗らないように緊張してるらしいよ」


 タキシードに袖を通しながら、おっさんに視線を向けてあえて口角を上げる。


「そんな緊張せんと、気楽に楽しもうぜ。お義父さん」

「き、緊張なんてしてねぇよ!?」

「ジークさん、後日には実の娘のバージンロードも歩くんだしそんな緊張してたら、『お父さんほんと頼りない!』とか言われるかもしれないですよ?」


 キリッと表情を作るおっさん。


「よし、気楽に行こうかい。我が息子よ」


 ザクザクと部屋から出ていった。


「にしても叶太、ほんとに全員と式をあげるの? 提案した僕が言うのもなんだけど」

「あげるで! みんな平等に愛す。それが漢!」


 この式の翌月にはまた数回式がある。国民みんなが待ち望んでるらしいし、俺自体そういうのはしっかりしたいからな。


 着替え終わった俺は、新婦の元に移動する。


 ――目の前に広がるのは、純白のドレスに身を包む、まるで天使みたいな美少女。

 主張するように派手な赤のリップが、白のドレスをさらに映えさせてる。やっばすげぇ綺麗。


「叶太くん、カッコいいです!」

「すももこそ、めっちゃ綺麗や」


 みんな気ぃ遣ってか、部屋には俺ら二人。


「すもも、なんか夢みたいやな」

「ですねぇ。夢みたいに幸せです! 愛してくれてありがとうございます!」


 ツーっと一筋の涙が頬を伝う。


「ステラ、泣くのは今夜のベッドまで取っとき。化粧崩れるで」

「やっと食べてくれるんですね?」


 涙をそっと拭うと、お互いニヤリと笑い合った。


 バチバチ戦闘から友情ドラマで終わる転生物語があるなら、全て丸っと強引に収めて結婚で終わる転生物語もあってええんちゃうかな。なんて思ったりする。


 俺たちの物語はこっから始まるんやな!


「よし、そろそろみんなのとこ行こか! 主人公とヒロインのお通りや!」

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魔王に転生してもうたし、ちょっくら世界征服にでも行きまっか! 真白よぞら @siro44

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