53 なめんなよこら

「楽しいよ、だって今から君たちを潰すんだから」

「ほぉ出来ると思ってんのか?」

「出来るよ、最強だから」


 口角を上げ、剣を構える勇也。


「最強? その程度じゃ俺には勝たれへんで。敵無しのカナタさんなめんなよこら」

「「「なめんなよこら」」」


 俺に続いて、みんなも勇也を煽る。ノリええなぁ。ステラはいつのまにかミカサを治療してニアスに拘束させてる。死人は一人も出さんってな。


 俺と勇也の拳がぶつかる。あたりが爆風に包まれる。


「魔力は使えないはずだけど?」

「これが素の力じゃ!」


 お互い疲弊してきてる。俺は内臓ボロボロやしだいぶやばい。


「これで終わりだよ叶――」

「終わるのはお前らだにゃん」


 急に地面が砕ける。真ん中には、もふもふが一匹。


「オオカミくんやんけ。なんや殴られ足らんのか? 邪魔すんなよ」

「今度は俺の番にゃん!」


 そう言うとオオカミくんは、ポケットからビー玉サイズのなんかを取り出した。ん? 中になんか入っとる?


「これは冥界の魔王、真の魔王のコアにゃん。今この魔王はコアに体を封印し目覚めの時を待っている」

「そいつ復活させたら俺に勝てるって思ったんか?」

「復活させる? バカ言うなにゃん」


 ぽんと宙に舞わした玉を、大きな口に放り込む。


「え? 食べた?」

「取り込むことで、俺が真の魔王にゃん! 爆ぜろ偽りの魔王」


 体に爆弾が取り付けられたように、おもっきり爆発する。


「叶太!」

「……なんや、敵の心配か?」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ、僕の魔法があいつに通用しないんだ。魔力を下げれない」

「俺に小細工は通用しないにゃん!」


 もふもふな見た目から、白髪ロングのイケメンに変化を遂げるにゃんさん。どゆこと? 魔王のコアをとりこんだから?


「今の俺は完全体にゃん。体が思うように動く!」


 目で追われへん速度で繰り出される猛攻。みんなを庇うように直感で動き予測して受け止めてるけど、流石にちょいきつい。勇也も攻撃食らっとるし――いや? こいつも庇ってないか?


「勇也……どういうつもりや」

「虫が良いとは思うけど、共闘して欲しい。もちろんこの戦いが終われば、あの子には謝罪するし責任を取って自害する。だから、あいつを……ミカサを脅かす脅威を倒すのに力を貸してくれ!」


 四方から繰り出される攻撃に耐えるのが精一杯。

 そんな状況でみせる真剣な眼差し。俺こう言う目に弱いんよなぁ……。


「まじ虫が良すぎるけど、その頼み乗ったるわ。けど! 自害はさせへんで。国を修繕して俺に献上しろ。中央とったらこの世界は俺のもんやねん」

「君にとって僕は恨むべき相手だろ? 生きてるのは嫌じゃないのかい?」

「クッソほどイラついたけど、その分はさっきぶん殴ったしチャラや。結局すももとはまた会えたしな」


 猛攻を受け続けながらも勇也に視線を送って。


「それに、お前が俺の相棒やった事実は変わらんやろ。お前の過ちはこれから挽回していけばええ。まずは目の前のカス潰すぞ」

「ありがとう叶太……! 君とあの子のコンビネーションを見せられた後だと不安だけど、僕も叶太に合わせれるって証明しよう」


 お互いに背中を合わせる。それに魔力が高まってるのを感じる。その高まりは止まることを知らん。常に上がり続ける。


「キタコレ!」

「小賢しいにゃん! 雑魚どもがぁぁぁああああ!!」


 ミニオオカミみたいなんがゾロゾロと湧いてくる。ザッと見たところ百は越えてるか? 魔力もそこそこ高いと思う。厄介やな。


「カナタくん! 小さいのは私たちにおまかせを!」

「おおきに!」


 薙刀を構えるステラは、俺から勇也に視線を移した。


「勇也さん。しっかりカナタくんの役に立ってくださいね? 今の相棒の座は譲りませんが!」

「うん、叶太の隣は君しかいないね」


 改心したように、柔らかな笑みを浮かべると、身を深く沈めた。

 釣られるように、俺も姿勢を低くして、一気にオオカミくんに飛びかかる。


「「はぁぁぁあああああ!!」」

「小賢しいって言ってるにゃ――」

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああんんんんん!!!!」


 直線で蹴りがくると思ってたオオカミくんは、俺の見事なフェイントに騙されて、真横から膝を蹴り付けられる。


「こいつ硬いね。斬り落とすつもりだったんだけどな」


 体勢を崩し地面へと倒れこむオオカミくんの右腕からは、ドクドクと赤い鮮血が流れる。


「おいこらオオカミくん。膝砕けてるし、利き腕はもう動かんやろ? 降参してぇや」

「コア無事な限り、こんな傷はいずれ回復するにゃん!」

「てことは回復する前にコアを潰せばいいんだね?」

「その通りにゃん! だが、コアは俺の中にある、壊すなんて不可能にゃん!」

「だってさ、叶太」


 こいつ俺の魔法知ってんのか? 色々調べてそうやし魔王の魔法はバレてるんやろうな。


「コアげっちゅ」


 俺の手の中には、ビー玉。もといコアがある。目を丸くするオオカミくん。それこそビー玉みたいに丸くしてる。


「さすが敵なしだね」

「なぁこれ壊した瞬間さ、ボワっと元通りに毛皮復活すると思う?」

「多分そうなんじゃない? コアがあったからこの姿になった訳だし」


 ふふふ。ええこと思いついたで。プライドの高いオオカミくんにとって、敗北自体が許されへんと思う。

 その上ドヤった挙句コアを取られて、姿が元に戻った日には一刻も早く記憶から消したいやろうなぁ。


「ステラ、撮影ターイム!」

「鬼畜じゃないですか」


 瞬時に察したステラは、俺に一喝浴びせながらも、スマホを取り出し構えた。


「叶太、スマホ作ってたの? もうほんとめちゃくちゃだね」

「ふっふっふ! ならこれはもっと驚いてくれるのかな? 元相棒くん」


 不敵に笑うのは、大きな何かを持ったニアス。

 その何かには、布がかけられてて正体は分からん。けど、このタイミングであの形状。となると、ある程度想像はできた。


「じゃじゃーん!!」


 テレビ撮影の裏側とかでよく見る、ゴッツイカメラ。レンズデカくて、もふもふのマイクついてるやつ。予想通りの展開やった。


 というかよく見たらアリアちゃんが持ってるのって音響さんとかが使ってるやつちゃう? 長い棒の先にもふもふついてるマイク。


「ニアスいつのまに作ってたんそんなん」

「カメラというのは以前ステラから聞いていてね。スマホを元に、アリアが武器を慣らしている最中に作ったのさ」

「時間の有効活用レベル百やん。さすがやわ」


 ささっと俺の元に近付き、カメラを構える。


「え、そんな作ったん?」


 ニアス、メアとマギーが俺と勇也とオオカミくんを三角形を描くように囲む。そして、アリアちゃん、グレイ、おっさんが音声さん御用達マイクを持たされてた。


「これ私要らなくないですか!?」

「ま、まぁ一応撮っとこ?」

「な、なにをするつもりにゃん……?」

「おもしろ動物映像でも撮ろっかなって」


 俺はコアを持ち直し、大きな声でカウントダウンを始める。


「三!」


 ピクリとオオカミくんが動く。


「二!」


 コアを奪い取ろうと力を振り絞るオオカミくん。


「一!」


 勇也に取り押さえられ、悔しさからか雄叫びを上げるオオカミくん。


「〇!」


 ボフッと勇也に拘束された状態で毛皮が復活する。


「うわっ! こんな勢いよく戻るんだ」

「はいカット!」


 声を上げるニアスが、続けて言う。


「カメラ班、映像を確認次第ミーに報告!」

「「了解!」」

「ミーが面白く編集してステラとの挙式で流してあげるよ」

「結婚式では見たくないかなぁ……」


 血まみれの毛玉の映像が流れる結婚式なんて嫌や。


 すっかり抵抗する気力を失ったオオカミくんは、ニアスに拘束された。


「オオカミくん片付いた! ……っちゅうことは?」

「問題が全て片付きました!」

「中央落としにきたのにめっちゃ棚ぼた展開やったな! うぇーい!」


 世界征服完了やし、反乱してるやつも潰したし。もう平和しかない!


 よっしゃ! あとは結婚式やな!

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