52 手ぇ伸ばせ! はよ!
消えてた記憶が甦る。脳裏に染み付いた過去がぐるぐるぐるぐる駆け巡り出す。
***
東京の高校。転校したばっかりでまだまだ不安な俺に最初に話しかけたのは勇也やった。
話していくうちにおもろいやつで、しかも正義感強いやつってのが分かった。
仲良くなるのに時間なんてかからんかった、気付いたら俺ら二人はお助け部のエースなんて呼ばれるほど人助けしてた。相棒やいうてもおかしくないくらいお互いを信用してた。
「叶太、来週ついに京都に修学旅行だね」
「せやな、でも関西やからなぁ」
「ご両親には会いにいくの?」
「いや行かん行かん! 姉貴には会いたい気もするけどな」
「父親ともめて強引に転校して行って……お母さん可哀想だなぁ。転校手続きしてあげたのに息子が会いに来ないなんて」
俺の中ではもう決別したようなもんやと考えてた。
「まあオカンは分かってくれるやろ。それに伏見稲荷で彼女と合流する予定やしこっそり大阪行くとかは無理そうやな」
「彼女!? いたの?」
「おるで、東京の子やけどな。引っ越してきた初日に一目惚れしてナンパした」
そう、それが寺坂すもも。俺が初めて本気で惚れて告白した人。初めての彼女やった。
「その子も同じ日に京都なんだ」
「らしいで。世間は狭いなぁ」
他愛もない会話して、その日は終わった。
そのまま、修学旅行まで彼女の話題になることはなく迎えた伏見稲荷を観光する当日。
「叶太くん! 待ちましたか?」
「待ってへんで! てか抜けて来て大丈夫やったん?」
「大丈夫です! 叶太くんこそ大丈夫でした?」
「おう! 俺には信頼のおける相棒がおるからな! そいつが何とかしてくれてるわ」
大量の鳥居の前で合流した俺らは、軽くお互いの心配をしつつ、ゆっくりとテッペンまで歩いていく。
道中であったこととか、テッペンでお揃いのお守り買いたいな。とか話してたら、疲労なんて忘れて、気付いたらテッペンに着いてた。
「あっという間でしたね」
「ほんまやな、話してたらあっちゅうまやったな」
俺らはそのあと降りてからまたお賽銭して、そのまま周辺の店で飯食った。
お互い解散して、ホテル戻った時やったか。すももの通う学校もおんなじホテルで話が弾んだ。
風呂入って飯食った後に合流して、就寝時間ギリギリまで話してたと思う。
んで、次の日の二条城で再開した。
「あ、叶太くん!」
「おぉすももやん! 今日も一緒なんてすごいな」
「ほんとですね!」
お互いの友人に紹介したりして、めっちゃ平和やった。俺の相棒って紹介してた勇也の顔だけが少し暗かった。
「……君がいなければ」
「え?」
それはほんま一瞬の出来事やったんや。すももの友人に、すももが好きな食べ物聞いたりしてる時に起きた。
「君がいなければ、叶太の隣は僕だった!」
階段から景色を眺めるすももが、俺の親友の手によって突き飛ばされた。
目撃者はそんなおらんかった。俺とすももの友達数人。
「「「すもも!」」」
全力で階段まで向かう。間に合うかわからん。けど俺は精一杯手を伸ばした。
「手ぇ伸ばせ! はよ!」
浮遊するようにゆっくりに見える世界の中で、ステラの手を握ろうとする。ほんまはめっちゃ短い時間やったんやろうけど、俺にとっては長く苦しい時間が流れた。
「叶太くんの近くにあなたみたいな危険な人置いておけません、道連れにします!」
ステラは、俺の手やのうて勇也の服を掴んでた。
「アホか! はよ手伸ばしてくれ! 死んでまう!」
「叶太くん、そのままの優しいあなたでいてくださいね。あとは頼みます!」
あと頼むって何やねん! お前おらんかったら俺はこの先どないしたらええねん!
「最後までこの女が大切なんだね」
「やかましねん! お前は今だぁっとれボケ! 後で絶対どついたるから覚悟せぇや!」
でも俺の手が届くことなく、二人は下に落ちていく。
段差で体を強く打ち付け、反発し合うように二人は離れた位置で止まる。
血が流れるほどの強打。遠くからでも、もう助からんことくらい誰でも分かる。だからか、すももの友達は奇声あげて地面に座り込んでるし、その奇声聞いた周りの人も状況を察して声を上げる。
でも俺は動かれへん。信じられへん。大事な彼女が、大切な親友に突き飛ばされた? いやいや、ありえへんやろ。なんであいつがそんなことする理由があんねん。
多分あいつは階段から落ちそうになった人を助けようとしたんや。最後まで人助けしてたんや、だから俺にあとは頼むって……あれ? これあいつに言われたか?
「――カナタくん!」
ステラの声が聞こえた。俺の体には激痛が走って、さっきおった場所からだいぶ離れたとこまで吹き飛ばされてる。何があった?
「叶太、次は確実にこの女を仕留める」
ガチの目や。いつもの優しい目つきやない。
ステラは強い。けどなんや、この気色悪い感じは。階段から落ちるのを目撃したみたいな時の感覚。
くそっ! 動けボケ! このままやったらやばい気がする、またあいつ失ってええんか!?
「目障りだ! 僕の前から消えろぉぉお!! この勇者が魔族を消し去ってやる!」
荒々しい口調で、剣を振りかざす勇也。そんな勇也に向けて俺は手をかざす。
「――ッ!」
勇也の剣は、後ろで傍観するミカサの背中を深く切り裂く。
「勇也さん……どうして?」
「違う! これは……どういうことだ!?」
急な事態に困惑する二人。
「勇也、あん時の俺の言葉覚えとるか?」
ステラを庇うように、前に出る俺はバトルスーツを展開させる。
「どついたるから覚悟せぇや」
「叶太の隣が僕の居場所だった。でもそれを僕から取り上げて、今も僕の右腕であるミカサを奪った。君のことは尊敬してるけど、少しお仕置きが必要だね」
「上等じゃアホ。お前の歪んだ思考叩き直したるわ」
視界から勇也が消える。と思ったら後ろから鋭く斬り付けられる。
「刃が通らない!?」
「フハハハハ! そんななまくらじゃ、ミーの発明品を壊すことはおろか、傷さえつけられないよ!」
そう言うたニアスは、どこからともなく取り出したロケランを構えて、躊躇なく放つ。
「『こいつは俺の敵だ!』なんて勘違い発言しないだろうね?」
「んなこと言わんわ。みんな援護頼むわ、俺はおいしいとこだけ持っていくって決めとるからな」
「坊主がトドメを決めれるようにあの兄ちゃんを疲労させればいいってことだな?」
「新しい武器にうってつけの状況ね」
剣を構えるおっさんの横で、アリアちゃんはなにか指令を出すように腕を上げる。
すると、宙に剣が浮いていく。それも分裂して。
アリアちゃんが手を振り下ろすと、勇也めがけて全速力で飛んでいく。
かわされても、弾かれても、しつこく追いかけ回す。
「剣を握れないなら、操ればいい。ミーの発想が凄すぎてもはや怖いね!」
「めちゃくちゃやん」
「ユーに言われたくないね」
ザッと足を肩幅に開いたマギーが、一気に空気を吸い込み、炎に変換して辺りに吹き荒らす。
「ニアス、魔法を吸収するように設定してるんじゃろ?」
「ご明察」
広がるかと思った炎は、アリアちゃんが操る剣に宿り、火炎剣と化す。
「カナタの相棒かなにか知らないけど! カナタが怒りを向けるなら、焼き払う理由には充分よね?」
「サラ嬢、グレイ! おっさんらもそろそろ我が魔王のために踏ん張るか」
「「はい!」」
勇也の周りを揺蕩う業火を利用するように、死角を作り攻撃を確実に当てていく西の騎士団組。
けど、勇也の顔には余裕が見える。
「子供騙しだよね」
勇也が指を鳴らすと、業火は消えて、浮いてた剣も落ちていく。
「僕の魔法はね、魔力の調整なんだよ。魔力を高め自分の身体能力を上げることも、魔力を極限まで下げて無効化することもできる」
「僕は魔法を使わずとも強い!」
急接近して斬撃を繰り出すアリスちゃん。でもその剣は軽く弾かれる。
「しゃーない、こっからは俺らの番やな」
「ですね、あの時の借りを返します」
「行くで相棒!」
「了解です相棒!」
ザッと真っ直ぐ走り、勇也の直前で両端に避ける。そのまま挟み込むようにキッツイ一撃を両頬にぶち込む。
「なっ……」
「うぇーい、モロ入った〜!」
「ワンパンやりましたね!」
メキメキっていうたから顔面の骨折れてへんかこれ?
「……勇也さんの……仇!」
「へ?」
絞り出すように放たれた言葉。その瞬間、ドス黒いオーラみたいなんが俺と勇也にまとわりつく。
「ごめんねミカサ、ありがとう……」
「……うっそやばい内臓握られてるんですが!?」
「嘘でしょ!?」
すっかり傷も消えて、ピンピンしとる勇也。それに比べて俺は今めっちゃやばい。内臓がぐわぁっと絞られてる感じ。
「ミカサの魔法はね、敵を呪い、味方を回復させるんだ。そのかわり本人が死んじゃうんだけどね」
「お前……仲間犠牲にしてまで生きて楽しいんか?」
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