51 ……私の彼氏ですね……

「神下さんなんでおんの」

「彼女の上司だからだよ」


 手を広げ、さっとステラを指すように伸ばす神下さん。


「「え?」」


 その発言に驚くのは、俺だけじゃなくて、ステラもやった。


「いやなんでステラもびっくりしてんの?」

「初耳ですよ!?」

「ステラちゃんは正式に死者職員って訳じゃないし、知らないのも無理ないよ」

「「え!?」」


 いやだから、なんでステラも驚くねん。

 っちゅうか、どういうことや? ステラが死者職員じゃない? そういえば他の職員と連絡取ってるのステラより俺の方が多いな。……てことは俺が死者職員か!?


「ステラ。本名、寺坂すもも。君はあの日死ぬ運命じゃなかった。だから救済措置として鈴木叶太との第二の人生をプレゼントした。だが、無条件では暴動が起きる。よって死者職員という肩書きだけ与えて転生させたんだ」

「待ってください! 私の未練が叶太くんともっと過ごしたいだったから死者職員になったんじゃ?」

「君にはそう説明したね。実際未練はあったし。だがあくまでも形式が必要だったんだよ。上がうるさいから」


 神下さんとステラだけでなにやら会話が弾んでる。俺はよう分からんからお菓子食べ続ける。


「ちょ、ちょっと魔王様!? 今なんか重要っぽくない?」

「せやんな。でも俺分からんしな」


 重要さは俺も分かってる。多分話的に俺とステラに関してやと思う。


「神下さん俺にも分かるように説明よろしゃす」

「分かったよ。脳を柔らかくして聞いてね」


 神下さんは、馬車を操りながら話した。


 俺の親友が寺坂すももを殺したこと。

 親友の死因は、寺坂すももを階段から突き飛ばした時に道連れにされたこと。

 俺の記憶がそれを隠蔽するように無意識的に記憶改竄したこと。

 寺坂すももの救済措置、俺の精神が崩壊寸前なことも兼ねて転生が決まったこと。

 俺の様子見を兼ねて神下さんが学校に潜伏してたこと。

 俺らの転生先に手違いで親友が待ち伏せるように転生してたこと。

 転生先の国を乱す親友を止めるって使命を大まかな目標として与えて俺らを転生させたこと。

 中央国は親友が治めてる国ってこと。


 そして……。


「うっそまじ!? 俺とステラ付き合ってたん!?」

「そうだよ辛すぎて記憶から消してたんだ」


 まじかよ……。

 俺の記憶やと、階段から落ちそうになった女の子かばってあいつは死んだ。


 よう人のために動くやつやった。東京に転校して孤独な俺に声かけてくれたんもあいつが最初や。気のええやつで尊敬してた。そんなあいつがステラを殺した? 信じられへん……けど。信じるしかないんやろな。神下さんがその証拠やろ。


「……くそ!」


 自分の顔に拳を打ち込む俺を、ステラが驚いた目で見てる。


「ステラ、俺をぶん殴ってくれ。恋人を忘れ去った挙句、その恋人の前で婚約。その他諸々やらかしてる。俺は男失格や」

「カナタくん。私は、カナタくんのそういう一直線なところが大好きですし、男らしいとおもいます。婚約したときは少しおちこみましたけど……ここは日本とちがって一夫多妻制です! 割り切っていきましょう!」

「でも……」


 弱気な俺を断つように、パチンと軽く俺の頬がステラの両手に挟まれる。


「強いオスがモテるのは自然の摂理です! 私はカナタくんといれるだけで幸せですから」


 本心からにじみ出るような笑顔を目の当たりにした俺は、気付いたらステラを強く抱きしめてた。


「カナちゃん。ラブラブ中大変申し訳ないんだけど、そろそろつくよ」

「お、おう。了解……ってみんななんで泣いてんの」

「坊主、ほんと苦労してんだな」


 目頭を押さえ、かみしめるように言葉を絞るおっさん。その横で、サラちゃんがステラに話す。


「ステラ、小官もカナタのそばに、ステラのそばにいていいんだな?」

「もちろんですよ!」


 満足げに笑ったサラちゃんは、俺に言う。


「正妻の許可が出た、この戦いが終われば婚姻が立て続くなカナタ」

「僕の責任を取ることも忘れてないよね? 全て片付いたらたのしみだ」

「盛大なフラグ立てるのやめよ? まぁ、フラグなんて関係なしに全部丸く収めたるけどな!」


 俺の決意を実現して来いと言わんばかりに、ぴたっと馬車が目的地で止まる。


「カナちゃん、その心意気を実現しておいで」

「おう! 神下さんありがとうな、いろいろ気ぃ遣ってくれて」

「そうだね、いくら仕事でも興味のない男にここまでしないね。ちなみにいうと自分は女の子だよ?」


 謎のタイミングやったけど、気になってたことが知れて気分が晴れるおもいで中央国に潜入した。



 ***



 全体的に広々とした印象を与えるすっきりとした並びの街。

 ただ、そんな街の真ん中に建てられた噴水がひときわ目立ってる。


「ステラ……あれ」

「……ですね」

「どうしたのよ?」


 噴水の真ん中には、たこ焼きを手に持った男の像が建てられてた。像が建てられた台座からは水が流れる。

 その上で能天気にたこ焼きを食おうとしてるポーズの男。ステラと俺にはこの人物に心当たりがあった。


「坊主、あの英雄像がどうかしたのか?」


 噴水のそばに立ってる看板には、『勇者の心を支えし、真の英雄の像』と書かれてる。

 おっさんの質問に答える余裕がないほど困惑する俺に代わって、ステラが答えた。


「……私の彼氏ですね……」


 みんなが呆然とした。そりゃそうや。

 俺が像として建てられてるんやから。まあ正確には転生前の俺やけど。


「あれが坊主……?」

「美味しそうに何かを食べる姿は変わらないけど、顔が少し違うね」

「あれが転生前のお姿なんですね? 素敵ですカナタ様」


 やめて恥ずい……居た堪れへん。

 てかなんでよりにもよってあのポーズなん!? もっとカッコいいシーンなかったんか?


「ステラ、これどういうことなん」

「分かりませんが、きっとカナタくんの親友が建てたんでしょうね」


 あいつなに考えとんねん。絶対アホやろ。


「ハハッ! 気に入ってくれた?」


 後ろから声が聞こえる。明らかに俺らに向けて掛けられた声。しかも聞き覚えがある。


「よう、久しぶりやん。ちょい聞きたいことあんねん、積もる話もあるやろうしツラかせや」

「やっぱり魔王は叶太だったんだね。仕入れた情報から色々考えても、たどり着く結果は転生した叶太がやりたい放題してるとしか考えれなかったんだよ」


 その男は、柏原勇也。俺の親友で、相棒でもあった男。転生したっていうのに、見た目はそのまんま。


 ハニーフェイスに、爽やかな笑顔。全てを見透かして受け止めるような眼差し。久々に見たけど、こりゃ学園の王子様って言われてもおかしないわ。


「勇也、この国めちゃくちゃにしたこととかも聞きたいけど、まずは寺坂すももを殺したってどういうことや?」

「僕の心の拠り所だったんだ君は。なのにその女が奪っていった。忌々しい! そしてまた君の隣にはこいつがいる……僕じゃなくてこいつが!」


 豹変したように剣を抜き、瞬時にステラに襲い掛かる。


「おいちょい待てや。俺そこらへんの記憶ないねん、分かるように説明しろやボケ」

「へー? 人間、辛いことは忘れるっていうもんね。思い出させてあげるよ。ミカサ、頼んだよ」


 ミカサと呼ばれたその女は、突如現れ、俺の側頭部をなんか硬い鈍器で強打する。


「坊主!」


 意識が飛びかける。けど、おっさんの呼び声で引き戻された。どうせならステラとかサラちゃんに呼ばれたかった。


「大丈夫、大丈夫、なんの問題も……」

「カナタくん?」


 なんや? これ。脚が、腕が震える。全身がゾワってする。


「その様子だと、記憶戻ったよね?」


 記憶? あぁ……。最悪や。全部分かる、どんだけすももが好きやったか、あの日どんだけ勇也を憎んで、それ以上に自分自身を憎んだか。


「あかん……ちょっとしばらく動かれへん」

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