50 メア、おやつは三百円までやで!

 ***



 ニアスとアリアちゃんが消えて、数週間が経った。


「二人とも消えるて何事!?」

「なにかに巻き込まれたりしてないことを祈ろう」

「魔都全域をくまなく捜索していますが、手掛かりは何もありませんね」


 あれ以降、二人が姿を現さへん。

 何が起こってんのか、まったく理解ができへんけど、なんかちょっと不安かもしれん。


「魔王様、今ニアスが人体実験してるかも! って考えたっしょ?」

「ばれてもうた?」


 俺の心を見透かすみたいに、ズバッと言うたメア。仲間を疑うなんてトップとして恥ずべき行為。でも、さすがに長期間見やんかったら不安になるわけで。


「きっと大丈夫っしょ! 信じよ?」

「せやな!」


 メアの言う通り信じるしかないな。さて、気分転換にプリンでも食いに行こ。自分の店に。



 ***



 綺麗で、艶のある木材で作りなおされた店の看板。もう二度とバキバキに折られへんように魔樹製。折られたとしても強度が増して再生する。


「おかえりなさいませカナタ様」

「ただいま、ありがとうな蛇女ちゃん」

「いえこれくらい大丈夫ですよ」


 店番の一人に加わる蛇女ちゃん。魔族を隠してても平気で戦える蛇女ちゃんが従業員ちゃんたちの護衛として働いてくれてる。まぁもう魔族バレの心配ないねんけど一応な。


「カナタ、アリアたちの情報は見つけられなかった。小官の力不足だ」

「いやいや、そんなことないってありがとうな」


 情報収集してくれてたサラちゃんとおっさんも、店に合流してた。従業員ちゃんたちもお客さんとかに書き込みしてくれてるけど全然見つかってへん。


 ローラちゃんに出されたプリンをみんなで食べる。それぞれの好みに合わせて出されたプリン。当然デラウマ。


 ステラとサラちゃんは固めの昔ながらのプリン。俺とおっさんはトロッとした液体に近いプリン。

 スプーンからこぼれ落ちるレベルの柔らかさが、口に入れた時にねっとり広がっていくのが最高。


「それで、カナタくん。正直この先どうしますか? ニアスちゃんの発明に賭けていましたよね?」

「え、バレてた?」


 俺のスプーンを口に運ぶ手が止まる。

 そう、俺はニアスに、装備品とは別に、化学物質を作ってもらおうと思ってた。


 まぁ化学物質いうても、中央国全域に広がるちょい眠なる程度の催眠薬やねんけどな。


「どう考えても無茶ですからね、乗り込むなんて」

「間違いない、どんな戦力が向こうにあるか分からんしな」


 みんなで作戦を立て始める。

 あーでもない、こーでもない。そんなことを繰り返していくうちに、外の景色は暗くなっている。


「しばらくはニアスちゃんたちを探すのに重点を置きま――」


 いろんな可能性を加味して導き出した方針。それを改めて言おうとするステラの声は、やつに遮られた。


「その必要はないよステラ!」


 店の外から聞こえた声。窓から覗くと、声の主はどこか誇らしげに、腰に手を当てて叫んでる。


「ニアス!」

「やぁカナタ少年、町中ミーたちの似顔絵が貼られてて困惑したんだが」

「ドアホ! 連絡もなしに何しとってん! みんな心配してんねやぞ! お前は報・連・相を知らんのかボケ!」


 思わず駆け寄って厳しく怒鳴りつけてまう。ジリジリと交代するニアスの目には少し涙が浮かぶ。


「カナタ、ごめんなさい。私が言わないで欲しいって頼んだの」

「……理由は?」


 ニアスを庇うように、深々と頭を下げるアリアちゃん。よく見たらアリアちゃんは、新しい装備になってる。


 なるほど? 武器を新しくしたからそれを慣らしてたっちゅうわけか? あながち俺の言いたいことを理解してたんやなニアス。


「武器を新調したの……でも上手く使えなくて」

「使いこなせるまで黙っとしたかったん?」

「そうよ……これ以上格好悪い姿みせたくなかったのよ。でも、心配かけてごめんなさい」


 アリアちゃんの目にもうっすらと涙が浮かぶ。


「心配をかけた分、しっかりカナタの役に立ちなさい、アリア」

「はい……お姉様!」


 アリアちゃんの涙を指で拭うアリスちゃん。これが姉妹愛か。


 若干オロオロしてるニアスに近付き、俺はニアスの頬に触れる。

 そして、涙を指で拭う。


「心配かけた分、しっかり俺の役に立ってな、ニアス」

「はい……魔王様!」

「こらそこ二人、茶化さないでくださいね?」


 ステラに怒られた俺らは、大人しく店に戻った。



 ***



「いやぁドキドキすんなぁ」

「怖気付いてんのかい?坊主」

「アホ抜かせ、未知なる世界にわくわくしとるだけや」


 今日俺らは、戦闘しやん従業員ちゃん以外の主要戦力全員で中央に乗り込む。


 ステラ、蛇女ちゃん、リラ、アリアちゃん、アリスちゃん、サラちゃん、おっさん、グレイ、リエルちゃん、メア、マギー、ニアス。


 エレナちゃんには俺らがおらん間の政治を任せてる。大変やとは思うけど、一人で大丈夫言うてたし信じてる。


「カナタくん、これ本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫や、どっからどう見ても観光客」


 現在地は、西の国。

 こっから馬車で移動して、中央国の門前まで行って、身分を提示してから通してもらう。それでようやっと国に入れる。

 世界の真ん中ってこともあってえらい厳重なシステム。

 正直バレたとしても、俺を仕留めるために国の中に入れると思うんよなぁ。


 私服に身を包んだ全員で、ザクザクと進んでいく。


「なんか遠足みたいでテンション上がる〜!」

「メア、おやつは三百円までやで!」

「ちゃんと三百円! って魔王様絶対、三百円超えてるっしょ!!」


 中央国から出てる、地方との往復馬車。めちゃくちゃでかい。

 そん中で、背負ってたリュックをお下ろしてお菓子を広げる俺とメア。


 俺が持ってきたのは、ポテチ十袋と徳用のチョコレート二袋、スティック状のお菓子に、おやつに含まれるバナナ一房、それに人数分のコーラ。え? リュックに入り切らんやろって? 俺のリュックは万能なんです。


「これまじで三百円未満やで。なんなら一円も使ってへんもん」

「そマ!?」

「マ! なんか街にお菓子買いに行ったら、応援してます! とか言われてめっちゃ貰った。みんなで食べようぜ」


 ガサガサとお菓子の袋をメアと二人で開けていく。

 緊張してるんか、こわばった顔のアリアちゃんの口にバナナをブッ刺してみる。


「俺のバナナでも食べてリラックスしいや」

「カナタくん、セクハラで訴えられても知りませんよ。私にもカナタくんのバナナください」

「この世界にハラスメントないやろ。はい、俺のバナナ」


 俺がなんのためにこんなに騒いでるか察したんか、ステラは意図的に軽くふざけ出す。

 そんな流れがみんなに伝わったんか、自然とわいわいしだす。どう見ても敵地に乗り込むシーンじゃない。


「御者さんもどない?」

「ではありがたく……」


 快適に運転してくれてる御者さんにも、お菓子を持っていく。

 前の方に座る御者さんはフード付きのローブを着用してて、そのフードを深く被ってるから、横や後ろからでは顔はおろか性別すらわからん。


 けど俺の感が言うてる。この人は美人。


「カナタくん、お仕事の邪魔しちゃダメですよ?」

「御者さんだって気楽に仕事したいよなぁ?」

「ふふっ。変わらないねカナちゃんは」


 え?


「お知り合いですか?」

「いやこっちに知り合いとか居らんはず」

「自分だよカナちゃん」


 落ち着いた口調で言いながら、ゆっくりとフードをとるその人は……。


「自分の名前は神下ミコ。久しぶりだね」


 フードを取れば性別がわかる。そう思ってたけど、まさかそもそも性別が分からん人なんて予想外。


 整った顔立ちに、小柄な見た目。ほんまに性別わからん。てかなんでおんの?

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