49 怖いんやろ? 誰かを斬んのが

 キュイーンって僅かな音と共に、『展開を開始します』ってアナウンスが小さく聞こえる。


「お、なんやなんや? 誰の声」

「ただの機械音声だよ。まぁ元はミーの声なんだけどね」


 ふふっと笑うニアスを見ながら、バトルスーツが装着された速さに驚く。


「なんやろ普通の服やのにピチッと感ある」

「体に密着するインナーでどっちのモードか判別して服を変更するからね」


 なるほど、これ脱いでも裸にはなれんってことか。

 

「体のピークパフォーマンスを常に発揮できるっちゅう訳やな?」

「そういうことさ!」


 確かに、ちょっと体動かすだけでも、いつもよりサクッと動く感じする。あとこころなしか魔法も使いやすくなってる気がする。


「魔法発動の補助もしてくれる機能付きで、服自体によく使う魔法の付与だって可能さ!」

「ショートカットキーみたいなもんか!」

「便利ですね。カナタくん、一度手合わせしてみましょうよ!」


 キラッと目を輝かすステラ。続くように、アリスも挙手する。


「っしゃ! まとめてかかっといで!」


 死ぬまでには言いたかったセリフ五位くらいにはランクインする台詞をドヤ顔で放った俺は、アリアちゃんを見る。


「アリアちゃんは手合わせせんでええん?」

「……ええ、私は」


 どないしたんやろ、なんて疑問は、俺の傷あたりに向けられる視線で察した。


「はっはーん? さては剣握るのトラウマなってるな?」

「なっ!? 別にそんなこと……」

「カナタくん、それ普通本人に言いませんよ?」

「え、じゃあ誰に言うん?」


 やれやれ、と明らかに呆れるステラは、俺の耳元でアドバイスをくれる。


「いいですか? こういう時はそっとしてあげるんですよ」

「俺はそんなダンディーなやり方無理やわ」


 俺は徐にアリアちゃんが装備する剣を横取る。そして、ニアスに渡す。


「なにするのよ!」

「怖いんやろ? 誰かを斬んのが」

「別に――」

「怖くてええねん。誰かを傷付けるのを恐れる、立派なことや」


 ぐっと下を向いたまま、拳を強く握るアリアちゃん。何か声をかけようとするアリスは、ステラに無言で止められる。


「今、大事な時よ。なのに私は剣を握れない……もうどうすればいいのかすら分からない……」


 めっちゃ悩んでるんやな。俺の選択ミスや、あそこで俺が斬らさんかったらこんなことにはなってへんかった。

 無抵抗のやつを斬り付けるのは、アリアちゃんにとってはすごい苦痛やったんかな。


「ごめんな、辛かったな」

「別にカナタが謝ることじゃないわよ。私が弱いから……」

「弱い、とは少し違いますね」


 痺れを切らしたように、ステラが言うた。


「アーちゃんは、弱いのではなくて、優しいんですよ。だから無理に戦力のために剣を握らなくていい。守りたい人がいる時に握る。くらいの気持ちでいればいいんじゃないですかね?」


 下がったアリアちゃんの顔を持ち上げるように、そっと頬を押さえて目を見るステラ。


 泣き崩れるアリアちゃんは、思わずステラに抱きついて泣き崩れる。

 そんなアリアちゃんを、ステラは優しく受け止める。


「ニアス」

「皆まで言う必要はないよ。分かっているさ」


 ニマっと笑うと、ステラからアリアちゃんを剥がしてみせた。


「泣き虫はもう終了だ。剣を握れないなら握らなくていい。だが、カナタ少年の力になりたまえ」

「ニアスちゃん!? 無茶は……」

「安心したまえよステラ。ちょーっと教え込むだけさ」


 どないしよ、剣以外の武器作ったってて言おうと思ったのに勘違いしてんのか……? あかんどないしよ。


「ニアス? 落ち着きや? なんか勘違いして――」


 俺が言い切る前に、非常階段のマークが書いてるドアに入って。瞬時に消えた。


「どこ行った!?」

「もうニアスちゃんを信じるしかないですね……」

「きっとアリアの精神を鍛えてくれる……そんな予感がするよ僕は」


 姉がこう言うてるならまぁえっか。



 ***



「ステラまだまだやな! もっと本気できいや!」

「様子見ですよ!」


 ステラの本気の蹴り。ですらこのバトルスーツには通用せえへん。


「様子見してたら怪我すんで!」


 俺は瞬時に体を前に飛ばすイメージで動いて、ステラとの距離を詰める。

 俺の繰り出した拳に応戦するように、ステラが拳をぶつける。


「いったぁあ!!?」


 うっそ!? え!?


「ふっふっふ……!」


 不敵に笑うステラは、ぐっと拳を突き出した。


「なんそれ」

「ニアスちゃんの自信作らしいですよ。以前いただきました! 使う機会がなかったので、今回が初お披露目です!」


 ナックルみたいな、グローブみたいな。なんか控えめの外装やのに、すっごい威力。バーサーカーモードの俺が完全に押し切られた。


「っちゅうか、いつの間につけたん」

「カナタくんのと同じで、このネックレスです!」


 バイン、と強調された谷間から姿を覗かせるのは、色は違うものの俺のとおんなじデザインのネックレス。


 どうやら、ステラには先渡してたらしい。にしてもステラは拳で俺は全身。

 俺はフルカバーせな弱いって思われてるんかしら……ぴえん。


「さ、続きやりますよ!」

「へい」


 グッと拳を構えるステラ。それをニッと見たアリスちゃんは、「そろそろ僕もいいかな」って参戦する。


 二対一。これ俺ボコられへん?


 剣を構えるアリスちゃんと、拳を握りなおすステラ。そんな二人に若干怯えながらも、俺は臨戦態勢に入った。


「ステラに視線送った瞬間かよ!」


 意識をステラの拳に向けた瞬間、アリスちゃんの剣先が俺の前髪をかする。


「よく見ないとダメだよ」


 上方向へ振り上げられた剣は踵を返すようにまた俺に降りかかる。


「あっぶ……」


 腕で受け止める。耐刃素材優秀。けど……。


「なぁぁぁ!?」


 背中に蹴りが入る。バッと体を衝撃がきた方に向けると、ステラが脚をあげてた。上段蹴りでもしたんか?


「カナタ、後ろががら空きになってる」

「あっぶな!」


 間一髪でかわせた。けど……。


「チェストーー!!」


 ステラの一撃が待ってるんよなぁ。鍛えるためとは言え、肉弾戦縛りにしたことをすでに後悔してる。

 アリスちゃんの斬撃をかわす、ステラにぶっ飛ばされる。またアリスちゃんの斬撃をかわす、ステラにぶっ飛ばされる。これが延々と続く。


「もうコツつかんだ! まずは……」


 振りかぶったその先、そこにはアリスちゃんの斬撃。後ろにはステラが控えてる。このままかわしたらまたステラにぶっ飛ばされる。だから。


「んん……パゥワァァア!!」

「な……!?」


 剣の側面を、全力で叩く。

 見事へし折れてぶっとぶ剣先。さっすがバーサーカーモード!


「で、このタイミングでステラやろ?」


 行動にワンクッション置く間にすかさずかましてくる強烈な一撃。斬撃をかわすって動きはなかったけど、今の俺には隙だらけ。に見えてるステラは絶対ここで攻撃してくる。


「回し蹴り……!?」

「腰……死んだわこれ」


 無理な体勢から繰り出した渾身の回し蹴り。カッコつけたつもりが腰痛めた。これは誤算。

 体に当たる寸前で防御したものの、衝撃で吹き飛ぶステラ。俺の腰を心配してか、白旗をあげた。


「二対一で負けましたね」

「さすがに強いな」

「腰死んでる状況でそないなこと言われても慰めにしか聞こえん」

「「卑屈」」


 やかましわ。


「でも、やっぱりニアスちゃんの発明はすごいですねカナタくん」

「せやな、このバトルスーツめっちゃ硬いし、めっちゃ軽い。そのうえ伸縮性もいい。これがあれば無敵な気分」

「実際、それに魔法を付与すれば敵なしだろうな」


 どの魔法を付与するか、しっかり考えやなあかんな。

 外で暴れよってことで魔物ストリートに来てたし、ラーメンでも食って帰るか。

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