48 ほらカナタ少年、あーん
シンプルに褒められて、天狗になるニアス。いや、うん。もう何も言うまい……。
「カナタ、これ食べていいのかしら? すごく美味しそう……!」
「ええんちゃう? 毒入ってるかもやけど」
「入れてないよ!? ミーは決して羊羹を愚弄したりしない! 信じてくれ! 自信作なんだ!」
羊羹に惹かれるアリアちゃんの頭をよしよしと撫でながら、俺に全力抗議するニアス。これ手作りなんや。
「見たまえこの完璧な艶を! 右に置いたのが定番の練り羊羹」
右から左に指を動かすニアスの笑顔はめっちゃ輝いてた。
「そして左が粒あんを使用して、製法を変えたシャリシャリ食感の羊羹さ!」
「美味しいですニアスさん!」
説明を終えた頃には一通り味わったアリアが、敬語、さん付けでニアスを褒め称えた。
「アーちゃんの言う通りすごく美味しいですねこれ!」
「これが手作り……凄すぎるよニアス」
「ふ、ふふふ……これくらい簡単さ」
ドヤるニアスだが、その視線はぐりんぐりん泳いでる。
「カナタくん食べないんですか?」
「食うで」
「せっかくだから美少女のミーが、あーんをしてあげよう」
「結構です」
断ったものの、問答無用で俺の口元まで羊羹を運ぶニアス。
正面に構える羊羹を壁にして覗くように俺の顔を見るニアス。正直、くっそかわええなぁって思ったけど、ポロッと言ってまう前にマッドサイエンティストってことを思い出した。
「ほらカナタ少年、あーん」
「……ん」
唇に触れるギリギリまで運ばれた羊羹は、上品な甘味を乗せた香りを放つ。
つい、パクりと頬張ってもうた。
「……どうだい? 美味しい……かい?」
「めっちゃ美味いやんこれ!」
「やった!」
ガッツポーズをしたニアスは、ハッと我にかえり、さっきみたいに目を泳がせながらドヤる。
「ま、まぁミーが作ったやつだからね!」
「この甘さは俺が転生前に食べてた羊羹とはちょいちゃうな。なんていうか、豆臭さ? というか小豆独特の甘みがいい意味で消えてて……」
言葉にしづらい。小豆の癖が完全に消えてるけど、完全に羊羹。なんやろこれ。俺が苦手やった部分が消えてめっちゃ食べやすい。
「俺、羊羹を好んで食べたことないけどこれは毎日でも食いたいレベル!」
「そ、そうか……ラボに来たらいつでも振る舞ってあげるよ。あ、実験とかさせてなんて言わないから! 気楽にくるといい」
「ほんま!? おおきにー!」
「カナタくんが物に釣られた……」
小刻みに肩を震わすステラ。多分こいつちょっろいなぁ! とでもおもてんのやろな。俺もそう思う。
「……こほん! さて本題だねカナタ少年」
「せやな、俺はこの二人の装備を作ってもらおおもて来たんや」
「ふむ、ふむふむ。ふむふむふむ」
ジトーっと舐め回すようにイーストズを観察するニアス。たじろぐアリアちゃんやけど、「君たちのことを理解しないと装備を作れないからね。我慢してくれたまえ」とニアスに言われて、視姦を受け入れた。
「アリアは胸のボリュームがない分の身軽さを殺さないような装備が良さそうだね」
ピクリとこめかみが動くアリアちゃん。
「逆に、アリスはある程度あるから、鎧を重めにしてどっしりと構える装備かな」
「たしかに、胸あったら動く時痛いやろうし、そこら辺も考えといたって。今まで布で押さえ付けてたらしいから」
「了解したよ。ユーの目から見てアリアの装備には何が必要だと考えるか聞かせてもらっていいかい?」
アリスちゃんの胸の話題の時、またピクリとこめかみが動くアリアちゃん。
そんなことに全く気付かんニアスは、装備の設計図を大まかに書き上げていく。
「必要……か。あれやな露出――」
「肌の露出は無しよ!」
全力スイングで近くにあった木材で攻撃してくるアリアちゃん。
「露出とはどのようなイメージをしてたんだい?」
「ビキニアーマーやな! 俊敏さはピカイチやろ、裸に近いし」
「そ、そんなの着れる訳ないでしょ!?」
「胸小さくてもビキニ似合う人は似合うやろ」
俺の肋に鉄拳が捩じ込まれた。
「張り倒すわよ?」
「堪忍して」
「まぁ分かったよ、露出は無しだね。代わりにカナタ少年の装備を露出度高めに作ろうかい?」
「どこ需要やねん」
俺のツッコミに、嬉々として大きい声を上げて目を輝かす人物がおったけど、めんどいからシカトした。
「とは言ってもカナタ少年の装備は出来てるんだけどね」
「それマ?」
「マ」
言ったニアスは、怒ったような顔のドクロマークボタンを取り出した。
「え、それ押す訳じゃないよな?」
「ニアスちゃん、流石にその物騒なボタンは……」
ニンマリと嗜虐的に笑うと、
「ぽちっ」
軽いノリで押して見せた。
四方が分厚めの鉄の壁で覆われていく。四つの壁がくっついて長方形の箱になる頃、天井が降ってきて完全に閉じ込められた。
「みんなどこかに掴まりたまえ、揺れるぞ」
そうは言うても真ん中に机がボーンとあるだけで、揺れるなら多分机ごと揺れる。
「……っ!」
なんやかんやで机に掴まって数秒。思いのほか揺れたものの、机はびくともせんかった。
「壁が吹っ飛ぶよ、衝撃に備えたまえ」
「衝撃……?」
なんのことか理解できへんのに、急に轟音と共に四方の壁と天井が吹き飛ぶ。そしてどこかに消えた。
「「「「ええ……」」」」
場におるニアス意外の全員が唖然とした。だって考えてみ? 壁ぶち飛んだおもたら、その壁が急に消えるんやで? ホラーやん。
「さ、見たまえ」
「なんやこれ?」
どうやらここは地下のさらに下のラボらしい。俺これしらんかってんけど。上司への報連相をしっかり教えるべきか。まぁそんな些細なことどうでもよくて、この秘密スペースに置かれてるケースに注目する。
「マネキンですね」
目の前にあるのは、俺の背丈くらいのマネキン。そのマネキンが着てるんは俺が今着てる服をリメイクしたような服。
「これがカナタ少年に作った新兵器さ」
「ただの服に見えんねんけど……」
「カナタくんこれ質すごいですよ」
じろーっと服を観察して、そっと質感を確かめる。
俺には違い分らん。デザインが若干ちゃうなとしか思わんねんけど? これは俺が無能なんか、ステラがすごいんか。
「これはマギーに頼んでた材料で作ったんだよ。彼女は本当に材料集めの天才だね」
「あー材料集めってこれのためやったんや。てかキャンディーがマギーって知ってたん?」
「逆に気付いてなかったのが驚きだね」
「やかましわ」
しれっとディスってくるニアスやけど、これはからかってるやつや。
「とりあえず着てみてくれるかい?」
「おう!」
服を取ろうとする俺に、ひとつのネックレスを渡してくるニアス。
「これはユー専用のバトルスーツみたいなものでね?」
「つまりこれは変身アイテムっちゅうやつか!」
テンション上がってきたぁ!! 男のあこがれやん! 変身アイテム!
「その通りだよ。しかも、バーサーカーモードにも対応してるんだ! ステラがユーの身体情報をすべて把握してたから、比較的簡単に作れた」
「ステラにプライバシーとかは通用しやんと思ってる」
「私はすべてを見抜きます!」
秘密スペースを自由に散策するイーストズ。楽しそうやな俺も散策したい。
「カナタ少年。とりあえずそれ付けたら、側面を押してくれたまえ」
「りょ」
長方形みたいなデザインのネックレス。それの側面にはなんのギミックとかもなさそうやけど、これで服が変わんのか?
何が起こるかわからんから、恐る恐るネックレスを首につける。「付けてあげるフリして筋肉に密接すればよかった……」と漏らす一名を無視して、そっと側面を押してみる。
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