45 エロ同人か!
***
魔都、ステラの部屋。
ピンクの椅子に座らされ、手足拘束と目隠しをされたアリアちゃん。その横に鞭を片手に嗜虐的な笑みを浮かべるステラ。
「エロ同人か!」
「これカナタくんのベッド下にあった本のシチュですよ」
「エロ同人や!」
状況が分からずテンパるアリアちゃんを急いで解放していく。っちゅうかなんで俺のバイブル勝手に読んどんねん。
目隠しを取られて、急に明るくなった視界を慣らすために瞬きを繰り返すアリアちゃんの目はちょっと潤んでる。
「ごめんなアリアちゃん、このアホが乱暴して」
「捕まえといてって言うからぁ」
「加減知らんのかこの死神女は」
唇を尖らせるステラやけど、やりすぎたってのは自覚してるらしく、アリアちゃんにちゃんと謝った。
「こんなことをした理由はちゃんと話してくれるのかしら?」
「モロチンよ。俺らはアリアちゃんが東の内通者やって疑ってる」
「「直球!?」」
もうちょい回りくどく聞くべきやった? でも回りくどいのは真意が伝わらんかもやしなぁ。
『それは事実だよ、バレたことだし戻ってこいアリア』
「めっちゃええ声」
「カナタそこじゃない。まずはどこから喋っているかを突き止めるべきだ」
どこからともなく聞こえる声は、低く伸びのある声にも関わらず、透き通って聴こえる。男か女か分からんけど耳元で囁かれたい。
『僕の言ってることが分からないかい? 魔王を斬って戻ってこいってことだよ』
「……っ」
耳を澄ます、声の元を辿る。どっから聞こえてる? 全体的に音が拡散しとるけど、なんか一箇所だけ声がおっきい気がする。
「そこか」
アリアちゃんのスカートの左ポケットを弄る。
「ちょっと、な、なにすんのよ……えっち!」
「太ももやらけぇ」
「カナタくん……」
ポケットから、五百円だまくらいのサイズのスピーカーが見つかる。これから声出してたんやな?
「聞こえてるか? やっぱ魔王討伐が目的?」
『まぁそうだな。おいアリア、早くこの俗物を斬れ』
「私には……」
『斬れないなんて言うんじゃないだろう?』
唇を食いしばるアリアちゃん。腰に付けた剣を悔しそうに睨む。
「斬ってええで。なんかあんねやろ? ザクッとやっちゃって」
「え……なに言ってるのよカナタ! 私が斬れる訳ないでしょ!」
「ええか、よう聞けよ! 誰か知らんけどお前は絶対呪殺したるからな!」
スピーカーに向けて言葉を吐き捨てた俺は、上着を徐に脱ぎ出して、上半身を露出する。
「んじゃよろしくなアリアちゃん」
『ステラ、サラちゃん、とりあえず致命傷は避けてから心臓一旦止めるから、出来るだけ早く俺とアリアちゃんを別々にしてな』
『了解です』
『承知した』
脳内でステラとサラちゃんに語りかける。流石に傷は残るやろうけど、この場を乗り切るにはこれしかない気がする。
アリアちゃんをとりあえず東に戻したい。そっから作戦を立てやなあかん。
「カナタ私には出来ない!」
「アリアちゃん、カナタくんはアリアちゃんのために考えて行動してるんです。理解してあげてください」
「……ごめんなさい、カナタ」
涙を流し、剣を振りかざす。
「ったく、最後くらいかわええ笑顔見せてぇな」
「…………笑え……ないわよ……」
俺の体に、斜めの傷が深く入る。傷口が熱く燃え盛るように痛む。え、まって俺この状態で心臓止めんの!? キッツゥ……。
***
魔王の部屋。
「カナタくん……」
「カナタ様……」
「魔王様……」
「カナタさん……」
「カナタ……」
「坊主……」
口々に俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺の心臓がドクンと一回、大きく跳ねる。次第にドクンドクンと正常に動いていく。
「っはぁ!! 死ぬかとおもたぁ」
「死んでましたよ……カナタくん」
「十分息してないだけで死んでたわけやないわ。まぁ……その、心配かけたな。ごめんやでみんな」
ベッドに横たわる俺に、大粒の涙を浮かべながら身を寄せるステラ。
そんなステラの涙を指で拭い、そっと胸に抱き寄せる。
「さ、俺はもう東行くから、留守は頼むでステラ」
「一人で行くんですか?」
「カナタ、流石に無茶ではないか? 小官はもう少し様子を伺う必要があると思う」
「アリアちゃんがやりたくてこんなことしてるなら俺は放置するし、なんなら滅ぼしてもええと思う」
俺は一呼吸おいて、ゆっくり話していく。
「でも、そうには思えんかってん。泣いてたやろ、謝ってたやろ」
「そうですね……」
「男ってのはほんま、女の涙と謝罪に弱いねん」
ベッドから立ち上がり、半裸の体を見下ろす。
見てわかるほどの強度の胸筋と、しっかり割れた腹筋には、割とデカめの傷跡が残ってる。
「坊主、その傷跡……ステラ嬢の魔法でも消せねぇみたいだ」
「はい……傷跡は消せませんでした」
「俺なら消せるから大丈夫やで。まぁかっこいいからしばらくこのままにしとくけどな」
フッと呆れたように笑うみんな。
みんなを部屋に残し、俺は服を着て魔都を旅だった。
***
「本日より騎士団長様の下で働かせていただきます、タロウ・オオサカです」
「変わった響きだな。だがいい名だ。よろしく頼む、タロウ」
「はい!」
俺は今、タロウとして容姿を変えて騎士団に潜伏してる。
目の前におんのは恐らくアリアちゃんを利用してるであろう騎士団長、アリス・イースト。
スラっと伸びた背に、キリッとした顔立ち。顔の左半分に縦の傷が入っとるけどすごいイケメン。多分アリアちゃんの兄貴、顔似とるし。
「タロウ、君は養成学校で最優秀の成績だったと聞いている。期待しているぞ?」
「必ず役立ってみせます!」
養成学校の主席。そんな設定にして、東の国全体の記憶を書き換えてる。こんな行為は非人道的やけど、緊急事態やから勘弁して欲しい。
「頼もしいな、そうだ。王と王女に挨拶しに行こうか」
「よろしいのですか? 王様にお会いしても」
「ああ、君は僕の右腕だからね」
ゆるくね? 俺が魔王やったら一瞬で殺せちゃうで。
「では早速行こうか。おいでタロウ」
言われるがままに、着慣れへん鎧をガシャガシャ鳴らしながらアリスに着いていく。こんな重いもん着て戦うとか非効率過ぎん?
煌びやかな廊下を抜け、しばらく歩く。
「――ここだ。緊張してるのかい?」
「え、ええ。それは勿論ですよ! 王様と会うのに緊張気ない人なんていません」
ドアの前にいる警備兵二人の間を抜けながら、アリスはドアをくぐる。
「よく来たな、話はアリスから聞いておる」
「はっ! お目にかかれて光栄であります!」
背もたれが長く、ゴツい玉座に座る髭貯えた筋肉質なおっさん。その横に並ぶように置かれたすこし背もたれが低い玉座に、ピンクのドレスに身を纏った女がおる。
「うぬは腕が立つと聞いておる。せいぜいこの国のために身を粉にせよ」
「はっ!」
「…………」
王の隣に座る王女は、そっぽ向いて機嫌悪そうにブロンドの髪をいじってる。あの子なんか見覚えあんねんなぁ。
「アリア、人の前だ。しっかりと相手をみんか」
アリアちゃん!?
「まぁまぁお父様、アリアは魔王を討伐して疲れているんでしょう。ゆっくりさせてあげましょうよ。僕たちはもう行きますので」
お父様!?
「……うむ」
アリスの言葉に頷く王様。頭を下げて部屋から出て行く。
「嫌な感じだったでしょ? あのクソ親父」
「え? それは……その、なんというか……」
正直くっそイラッとした。人を駒としか思ってへんような発言にふんぞり返った態度。権力を盾にやりたい放題やってる感が漂って俺の嫌いなタイプや。
「ごめんね意地悪な質問だった。父親だから実感ないけど、あれでも王だもんね」
「アリスさんは王族……ということになるんでしょうか?」
「一応そうなんだが、色々あってね。今は騎士団長を務めてるよ」
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