43 我が魔王! 総勢二千名、只今参上いたしました

 ぽぽぽんと軽く三人の頭を叩いていく。

 

「……? な、何を――っぐあああああ!!!???」

「悪夢の始まりや。楽しみや〜」


 服従するまで終わらん悪夢を見せる俺のとっておき。

 苦しむ三人は、目に涙を浮かべる。若干かわいそうかなって思うけど、それはあんたらの罪やから潔く受け入れてくんなまし。


「カナタくん、何したんですか?」

「勝ち確の超必やで」

「そんなのあったんですか? お相手苦しそうですね」

「名付けるなら……『ラパラカリカ』やな」


 なんで名付けたか、それは簡単な話。


「いずれカッコよく技名叫ぶシーンあるかもやしな! まぁ……適当に語感が好きなん選んでんけどな」

「いいじゃないですか、カナタくんらしいですよ!」

「え、それ褒めとる?」


 ニコッと笑って、歩みを村長へと進めていく。ぱっと見、機嫌直ったように思えるけどあれは絶対怒ってる。


「褒めてますよ? ほら、そんなことより早く行きますよ〜」

「へいへい。パパッとどついたろかぁ」



 ***



 広い敷地に不釣り合いな、こじんまりとした小さい建物。ここに村長がおるらしい。


「とりあえずドアノック――」


 言い切る前に、建物が消し飛んだ。

 横を見たら、ステラの周りを薙刀が優雅に舞っていた。いや、ステラが軽やかに振り回してた。


「ナニシテンノ」


 一瞬にして建物が消し飛んだ状況を理解できへんのか、目をパチクリさせる老人が一人。瓦礫の中央に佇んでた。


 ティータイムやったんか? 半壊した机のそばに散らかるティーセットから、透き通る紅色の液体が溢れ出してる。


「な、なんだおま――」

「しゃべんな、ネタは割れてんだよ……今すぐ詫び入れろ」


 薙刀の先端部分を掴み、刃をひたりと村長の首元に当てる。


「おいステラ、ムカついてんのはわかるけどキャラは保と? 困惑するから」


 いつもの丁寧な口調は、遥か彼方へと飛んでったんか、今目の前におるステラは、さながら何かの若頭。おっかねぇ……。


 ネタは割れてるなんてハッタリまでかまして、えげつない剣幕で責め立てる。割れてんのは村長が仕向けたってことだけやろがい。


「ちょ〜っと失礼?」


 ステラの薙刀のせいで動かれへん村長のハゲ頭を、ポンっと一回はたく。


 なにしたって? 超必の応用や。


「ぐ……ぐぁぁぁぁ!!」

「ラパラカリカ+情報を共有するやつ!」


 便利な固有魔法オムニシエントを使って情報を盗み見て、同時にラパラカリカで悪夢を見せて屈服させる。これぞ超必。


「よしステラ、帰ろ。従業員ちゃんの心のケアせななぁ」

「ですね、この人もさっきの人たちも放置でいいんですか?」

「よきよき、後で魔都にくるように体に叩き込んどる」


 話は、みんなが揃ってるとこでってな? これは、西の国の今後に関わる大事なことやからな。



 ***



 魔都、俺の部屋。


「さぁさぁお集まりの皆様! これから重大な話を――したかった」


 大事な話がある。そんな雰囲気を醸し出した俺は、願望という形で発表した。


 これ関西ではテッパンよな?


「カナタくん、まさかあの人たちまだ来てないんですか?」


 そうやねん、まだ来てへんねん。おっそいなぁおもててん。でもな? よう考えたらな? 魔都に来いって命令をラパラカリカに仕込んでたけど、魔都の場所を示してなかったんよなぁ。困ったね。


「カタナ、小官たちは重大な話とやらを聞きに来たんだが……これは宴か?」


 俺の部屋に用意された、粉もん三種の神器、たこやき、お好み焼き、焼きそば。俺のお手製や! ジャンボにも勝る! と自負してる。あくまで自負。


「粉もんコンボを楽しむ会」

「違いますよ? カナタくんのドジによる時間のロスを埋めるための粉もんパーティーです」


 俺のドジって決めつけるステラ。せやけど事実やから反論できへんのがつらい。


「ちょっと待ってな? 全力で探す!」


 目ぇ閉じて、意識を深く深く何かに沈めていく。何に沈めてるんかは自分でもわからんけど、さっき行ってた村の様子が頭の中で鮮明に流れ込んでくる。


「あー、そゆことね。把握」


 誰に話しかけるわけでもないけど、俺は一人発声した。


 頭には、村の入り口で片膝をついて頭を下げる村長と、三人衆。その後ろにはおそらく村人全員がおる。待って人数おおくね? そりゃあんなでかい敷地やったらそうか。


『ごめんな、場所言うてなかったな。目の前の空間からこっち来て』


 完全に俺に服従してるのが、ポーズからわかる。これあれや、王様とかが味わう優越感ってやつやな。


 あれ? でもなんで村人まで?



 ***



「我が魔王! 総勢二千名、只今参上いたしました」


 空間から出てすぐのところで、また片膝ついて深々と頭を下げてる。


「カナタ様! すごい慕われてますね! さすがです!」

「エレナちゃん、さすがにこの人数から頭下げられたら困惑するんやで」


 空間を覗き込んだら、大量の人々が、村長と三人衆同様に頭を下げてた。


「なぁ村長、あんたと三人衆は俺が屈服させたからわかるんやけどなんで村人まで?」

「ハッ! 村の長を務める私が忠誠を誓うお相手、当然村人も忠誠を誓います」


 村長が言うとる理屈はわからんけど、この流れはあれやな。


「私は、急に栄える村に何かがあると疑いました。そこで可能な限りを調べ上げ、貴方様が魔王だということ、そして世界征服を目論むことを知りました」


 思い返すように、悔い改めるように話していく村長。


「西の国をいいようにされるのは気に食わない。私はそう取り繕い、私の村より栄えそうなこの村を潰そうとしました」

「まぁありきたりよなぁ、でももう別に気にせんでええで? 村をくれるならな。あそこ抑えたら完全に西は征服完了やろ?」


 俺の言葉に頷くステラとサラちゃん。


「勿論です! ……差し出がましいようですが、貴方様の望みを私たちにもお手伝いさせていただけないでしょうか?」


 様子を伺うように俺を見上げる村長。


「ええで、頼むわ」

「軽っ! 魔王様軽すぎるっしょ!」

「メアはちょっと黙ってよなぁ」

「扱い雑くね!?」


 手を額に当て、空間を覗き込むような仕草をするメア。


 まぁともかく、これで平和的に世界征服に近づいたな!!



 ***



「くぅぅん」


 魔物ストリート。薄暗い街灯が怪しく灯る夜道を徘徊する


「お、キャンディー! えらい久々やない? どないしとったん?」

「本当ですね、今までどこに行ってたんですか?」


 俺とステラは、メアのラーメン食いに白を抜け出してた。お互い部屋着やしこれ蛇女ちゃんに見つかったら怒られるわ。


「材料調達じゃ」

「あ、そうなん? なんの材――」


 口を開いた一匹のもふもふ。


「「ええぇぇぇえええ!!!」」


 いつも鳴くくらいしかせんキャンディーが、言葉を発した。語尾は気になるけど、喋れるようになった。さすファン。


「ステラ、飼い犬が話せるようになるってこんなにも感慨深いもんなんやなあ」

「そうですねカナタくん……きっとアーちゃんも喜びますね!」

「せやな! まだ傷の件は分からんけど、これは喜ぶやろなぁ!」


 まだアリアちゃんが隠してるであろうことは判明してへん。なにを抱えてるんか知らんけど、飼い犬の成長は絶対喜べる。


「早く伝えてあげたいですね!」

「せやな! 空間歪めてここに連れてくるか? 多分部屋おるよな、俺らみたいに抜け出してなかったら」

「おそらく居ると思いますが、流石に寝てるのでは?」


 現在は深夜二時。普通ならおねんねのお時間、寝てるやろうな。


「せやな、アリアちゃんに伝えんのは明日でえっか! まずはメアに見せよや、店行くでー!」

「飲食店にペットはまずくないですか!?」


 キャンディーを抱き抱えて進む俺を思わず止めるステラ。確かに言われてみればそうか? でも魔族にはペットみたいなナリのやつもおるしなぁ、迷いどころやな。


「まぁキャンディーは魔獣やし、いけるやろ。メアにあかん言われたら店の前で待てしてもらお」

「ですね」

「お主ら……妾をシカトして話を進めるでない。それに妾を愛玩動物と同様の扱いをするなど何のつもりじゃ? カナ坊」


 愛玩動物。その言葉が、愛玩動物の口から放たれる。なんかシュールやな。

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