42 ニャャャヤヤヤン!!!
「トップツー? 笑わせるなニャン! 俺は全て知っている。所詮貴様らは偽物、本物の魔族に勝てると思うなニャ――」
鼻で笑いながら先制してくるオオカミくんくんを。
「ニャャャヤヤヤン!!!」
「……グァアアッ!」
「カナタくん!?」
右ストレート一本で片付ける。
「よし、帰ろ」
「バカですか!? オオカミくんから色々聞き出すためにも残ったんじゃないんですか?」
「あ、そっか。聞き出せばええんか。単に暴れたいから残ったんやと思ってた」
ん
それはお前だけやろ、みたいな目で見てくるステラ。
冷たい視線を背に、意識を飛ばしてるオオカミくんへと近付いて、頭を鷲掴みにする。
「ふむふむ。なるほど?」
エレナちゃんの固有魔法、オムニシエント。あれを参考に、触れるだけで記憶を読み取る。
どうやらオオカミくんは、チンピラたちの、「優遇するアテがあるから逃げたふりしてくれ」って言葉を聞き入れたみたいやな。
優遇するアテってなんや?
そのアテを知るために、すでに生き絶えたチンピラの記憶を読む。
「はっはーん! そういうことかいな」
「……? どうしたんですかカナタくん」
「要するに、今回の件は領主がやりたい放題やったツケが回ったってこっちゃ」
元々この領主は、チンピラに弱み握られとったみたいやな。
無茶無謀、力で押さえつける政治の隙をついたチンピラが、魔物発見の事態に便乗して利用した。「魔族を討伐した者への報酬としてエレナちゃんと権力を与えろ」って感じで。
「領主さん、もう国のトップは務まりませんね……」
記憶を共有したステラは、表情を顰める。
「せやな、気に入らんやつは潰すし、税金は無駄にとるし、果てには美人を寝取るし。救いようないなこの色ボケジジイ」
「どうします? もうどさくさに紛れて乗っ取りますか?」
「いやいや、国のトップが消えたなら、新しいトップ作って、平和的に征服させて貰えばええんよ」
***
魔王城、俺の部屋。
「――というわけやったんよ」
大雑把に、ことの経緯を説明した。
みんなは、エレナちゃんを気遣ってか沈黙を貫いてる。
「エレナちゃん、俺の記憶を共有したならわかると思うけど――」
「ええ、なんとなく。カナタ様が攫いに来てくださった時から覚悟は決まっております」
まだ幼いに分類されるであろう少女は、年相応とは言い難い顔つきで俺を見る。
「そかそれなら話は早いわ。ちっちゃい子に国を纏めろ、なんて無茶かもしれんけど……俺は信じとるで。俺らが全力でバックアップするし」
「心強いです。ですがご安心ください。私はカナタ様に攫われました、なので私の所有権はカナタ様にあります」
ガチトーンでそんなことを言うエレナちゃん。
「私は、カナタ様の所有物として、支えていただくのではなく、支えさせていただきたいです。だめでしょうか? ご主人様」
「……まじ? そんな気軽に所有権渡してええんかいな、数分前の親父への啖呵台無しなんで?」
「いいんですよ、これは私が決めたことなので」
「本人が言ってることなんだしいいじゃないですかカナタくん!」
いやぁせやねんけど……なんかこう法に触れそうというかなんというか。
「カナタさん、女の子の決意を無碍にするのはダサいと思わね?」
「……確かに」
リエルちゃんの一言で、俺はエレナちゃんを受け入れる。
「カナタ様!」
慌てて入ってきたのは、蛇女ちゃん。その表情から、焦ってることは明白やった。
「どないしたん? そんな焦って」
「実は……」
息を整えながらも、説明を続けていく蛇女ちゃん。
説明を聞いて、場におるみんなの表情が険しくなっていく。自分ではわからんけど、多分俺も険しくなってる。
「まずは店に行きましょうか」
「せやな、怪我してる子もおるみたいやしな」
いつもに比べて低いトーンで話すステラに、内心怯えながらも部屋を出ていく。
にしてもマジクソやな。
蛇女ちゃんに説明された話は、すぐには消化できんレベルで腹たつ。
どうやら巷で、『魔族が作った食べ物』としてプリンがバズったらしくて、西の一番でかい村の奴らが攻めてきたらしい。
事実やけど、なんもボロ出してへんはずやし、証拠もなしに武力行使は納得いかん。
***
「ローラちゃん大丈夫か?」
「カナタさん、私は大丈夫ですがみんなは……」
ローラちゃんが見据える先は、バキバキにへし折られた店の看板に、アザや傷だらけの従業員ちゃんたち。リラも気絶させられてる。魔族ってバレへんように反撃せんかったんやな。
「ステ――」
「一番大きい所でしたね?」
俺が言うより先に、ステラが瞬時に現場を元通りにしてた。
今までにないほどの圧を感じる。これあれや、流れ的に力で村ねい伏せるやつ。
「お、おう……なんせ自分らで名乗ってたみたいやで」
「カナタ様、ステラ様! まさか……」
「「乗り込む」」
ステラと同時に答えた俺を、やっぱりかと言う目で見るエレナちゃん。でも今回はちょっと違う、いつもなら多分総戦力で乗り込んでた。
「けど、今回は俺ら二人で行くから、待機しといてな蛇女ちゃん」
「え?」
ピキってる蛇女ちゃんは、すでに臨戦態勢。だからか、拍子抜けな反応になってる。
「ほな行くで、ステラ」
ステラは無言で、俺が手渡した薙刀を回す。これ死人でやん? 大丈夫?
***
廃村って言った方がいいようなボロさの、敷地だけはバカでかい村。ここ丸め込めたら、他の村はちっこいから、西の国完全征服って感じやな。
「ステラ、ええか? 一応自動蘇生する結界をイマジネーターで張るけど、殺しそうなったら俺が止めるからな」
「……はい。お願いします」
特に会話することなく、村の中心へと歩いていく。すると、男三人が話す声が聞こえる。
「おい、あの店の女ども全員レベル高くなかったか?」
「だな、一人くらいさらってもよかったんじゃないか?」
「村長がボコるくらいにしとけって言ってたろ、まぁ俺もめぼしいやつは何人か見つけたからなぁ。今度攫いにい――」
「あなた達に “今度" は訪れませんよ」
俺の隣で盗み聞きしてたはずのステラが、いつの間にか三人に詰め寄ってた。
そのまま薙刀で切り刻むんかと思ったら、ステラは薙刀を投げ捨てて、素手でボコボコにしていく。
「うちの店を襲撃した理由はなんですか?」
「なんなんだよテメェらは!?」
眉間に皺を寄せるステラは、「質問に質問を重ねるなクズ」と吐き捨てると同時に、相手の腕をへし折る。
悲痛の叫びを上げる男を投げ捨て、もう一人の男の腕を掴むステラ。
「うちの店を襲撃した理由はなんですか?」
「し、しらねぇ……! 村長に聞いてくれ――グァアアア!!」
今度は足をへし折ったステラ。腕掴んだ意味あった?
「カナタくん、村長しばきに行きましょう」
拾い上げた薙刀で、逃げようとする一人のアキレス腱を斬りつけながら俺に言うステラ。
「はいよ、でもちょっと待っててな? 俺もこいつらに躾しやなあかんから」
バラバラに横たわる三人は、そろそろ結界の効果で全回復する。その前にまずはロープで縛り上げる。
「……カナタくん? なぜに亀甲縛り?」
「まずは辱めるのが先決かなって」
シュババっと縛り上げた俺のスキルに感心しつつも、疑問を抱くステラ。亀甲縛りを瞬時にこなすのは男のロマン。
「やいクソども、俺らの店襲ったんは村長の指示やねんな?」
「そ、そうだ! 俺たちは指示に従っただけなんだ! 何も悪くない、見逃してくれ!」
「「頼む!」」
亀甲縛りされてる上に、背後には薙刀を構えた死神。流石にヤバイおもたんか、必死に罪を否定する三人衆。せやけど、返答は……。
「「断る!!」」
力強くステラと言い切る。そりゃそうやろ。
「村長の指示でも、従業員ちゃん達ボコった事実は変わらんし、うちの娘が作ってくれた看板壊して、娘自体も傷付けた」
任侠映画の主人公になりきって、最大限の威厳を放ちながら、決め台詞を言う。
「この落し前、しっかりつけてもらおか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます