41 ストーップ! プリーズ! クソども!!

「諸君! この度はよく我が国の為に健闘してくれた」

「…………」


 堂々と言い放つ領主の横で、諦めたように沈黙を貫くエレナ。

 そんなエレナちゃんに、欲情の眼差しをぶつける男ども。恐らくリエルちゃんらを襲撃したと思われる三人衆が、ようやくかと言わんばかりに領主の前に躍り出る。


(へへへ……権力と上玉の女が両方手に入るたぁラッキーだったなぁテメェら)

(へい! 女どもに先を越されるところでしたがぁ、楽にたどり着けて逆にラッキーでしたぁ!)

(はやく女で遊びたいでさぁ)


 三人は、コソコソと話す。


「この者たちは、勇敢に魔族を退けた! よってここに栄光を讃える!!」

「「「うおおおお!!!!」」」


 領主の言葉に会場に集まってる参加者が雄叫びを上げる。えらい盛り上がりやな。祭りはこうでないと!


「ストーップ! プリーズ! クソども!!」

「な! なんだ貴様は!」

「なんだ貴様は! ってか? そうです私が白馬の王子様です」


 白と青の生地であつらえた、金の刺繍が入れられたスーツに身を包み、馬の頭がついた棒を片手に名乗りを上げる。ふふふっ! 決まったぜ!


「だっせ! それに正気かテメェ! 領主様の前でこんな派手なことしてよう」

「ええねん、どうせ今から罪犯すし〜! てことでリエルちゃん、グレイ! しゅうごーう!」

「カナタさん、いつの間に着替えたんだ? さっきまで黒のタキシードだっただろ?」

「結局目立つんだよねぇ!」


 ステージに上がろうとする三人の前に、それを阻止するべく俺たち犯罪者集団が立ち塞がる。


「おいチンピラども! やましいことは、小声でも人前で言わんほうがええで? 世の中にはごっつい耳ええやつもおるかもやからな」

「早速借りを返させてもらうか」


 パキパキと指を鳴らしながら近づくリエルちゃん。ジリジリと怖い笑顔で距離を詰めるグレイ。


 萎縮するチンピラどもをよそに俺は、ステージに上がってエレナちゃんの腕を掴む。


「攫いに来たで〜!」

「カナタ様……!? どうして?」

「また来る言うたやろ?」


 俺の行動に戸惑うエレナちゃんを、問答無用で引き寄せる。あとはこっから逃げてしばらく姿くらましたらええだけ。あ、待って? このままやとこの国征服できなくね? 武力行使しか選択肢ないがな! ま、いっか。


「ま、待て貴様! 何者だ! 無礼だぞ、目的はなんだ!?」

「俺は白馬の王子様、目的は美女の誘拐! まぁその前に……親父に一言文句言っとかんでいけるか?」

「そう……ですね…………」


 俯くエレナちゃんは、ゆっくりと領主の前に出る。


「エ、エレナ……早く逃げなさい。お前はもう彼らの所有物だ! 勝手に去ることは許されな――」


 その時、静まり返った会場に、肉を弾く音が聞こえる。


「っひょー! すっげ、ブルンブルンやん。やっぱ権力者はみんなデブったおっさんが多いんか?」

「カナタさん、静かに」


 頬を強く打たれた領主は、床に膝をつき呆然とする。


「お父様、私は見ず知らずの者の所有物でも、お父様の所有物でもございません。お父様に人生を決められる筋合いもございません」


 震える手を胸の前でしっかりと握り、領主の目を見据えるエレナ。


「私の人生は私のもの、私の所有権は私のものです! なので、もの扱いして、その権利を勝手に他人に渡されるのは不愉快です。金輪際しないでください!」


 ハッキリと言い切る。


「な……なんて口を聞くんだ! 父親に向かって! 傭兵団、しつけてやれ! 多少の怪我は構わん、顔は怪我させるなよ」


 父親はしからん発言に、まわりは唖然とする。

 だが、傭兵団たちはなんの躊躇もなくその場に登場した。


「お嬢様、領主様の命ですので――」

「我慢しろ、とでも言うつもり?」


 傭兵団の言葉を遮ったのは、つい先ほどまで傭兵団の一人だった人物。


「お前……! 護衛があるのにどこに行ったのかと思えばこんなところに! それになんだその格好は、職務を全うしろリリ!」


 傭兵団の一人が声を荒げる。

 それに対抗するように、ドアの付近から声が上がる。


「職務? 俺ら傭兵団は基本、仕事の前に報酬をもらって動く。だが今回俺は報酬を受け取ってない。分かるか? つまり俺に職務は無いってことだ!」


 報酬って前払い制やったんや。


「それに、もう俺は傭兵団として動くつもりはねぇよ」

「これは、国家への叛逆と捉えても異論はないな?」

「ねぇよ」


 傭兵団全員が、装備してた剣に手を置く。

 対して、リリは無防備。圧倒的に不利な現状、にもかかわらず余裕な表情で断言した。


「お前ら、やつを拘束しろ!」

「「「は!」」」


 リーダーみたいなやつを残して、傭兵団は全員リリに向かっていく。ここは心配してリリー!! って叫ぶシーンかもしれんけど、ステラがおる以上そんなシーンは訪れへん。


 傭兵団の足元に無数の魔法陣を表示したステラは、楽しげな笑みと共に、全員を消し去った。


「ステラ、ここに一匹残ってんで」

「今すぐ飛ばすので、気にせず話進めてくださーい」

「はいよー」


 ステラがああ言うてるなら、進めるしか無いな。いうても、誘拐するだけやねんけど。


「エレナちゃん、ちょっとは気ぃ晴れたか?」

「……はい! 言いたいことを言えました! カナタ様みたいに、自由に暴れた気分です!」

「そかそか、そりゃ良かったわ。さ、事態がこれ以上デカなる前においとましよか」


 リエルちゃん、グレイはもう片付いてる。ステラも飛ばし残しを処理し終えてる。もうここに用はない。


「よし、全員撤――」


 ――天井が砕け落ちる。


 なんか嫌な予感がする。こう、ゾワッとするって言うか、面倒ごとを押し付けられるイメージみたいな? 本能で察した的な。


「おいおい、話しが違うんじゃないかニャン? 人間どもニャン」

「ま……魔族……! なぜここに!」

「く、くそ……待ってくれよ! 手違いがあっただけで……グアァッ!!」


 突如現れたモフモフで、語尾がニャンのオオカミの魔族。こいつは、疑う余地なく反乱の首謀者。オオカミくんや。


 オオカミくんは、躊躇することなく三人のチンピラの腹を貫き、息の根を止める。


『オオカミくんがチンピラに気ぃ取られてるうちにさっさと帰ろ。バレたらめんどい』

『ですね、今テレポートさせますね。皆さん足元注意です』


 俺ら全員の足元に、魔法陣を器用に展開するステラ。


 せやけど……。


「おいおいおい、逃げんのかニャン?」


 この野生のバケモンはごまかしきれんかった。


「げ……バレてもうた…………」


 獰猛な牙を剥き出しにして、不気味に笑うオオカミくん。こいつこんなデカかった?


「強行突破しますか?」

「モロチン!」


 どうにもならんおもたんか、ステラは現状を逃げる形で打破することに決意した。


「させるわけ……ないニャン!」


「なっ……! 地面が割れた!? どうするカナタさん」

「カナタくん、魔法陣もついでに割れました! しばらくかかります!」


 リエルちゃんの声に続いて、ステラが叫ぶ。

 突然の乱戦状態。突然周りにおった人らはテンパる。我先に逃げようとする人たちの集まりは当然、更なる混雑を呼ぶ。


 が……。


「諦めろニャン! この、出来損ないの魔王ニャン!」


 オオカミくんの一言で、場が静寂に包まれる。

 この静寂は、シリアスな展開にも関わらずニャンの語尾に違和感を感じている静寂じゃないことは明白。


 魔王やのに出来損ないなん!? っていう驚愕の一歩手前の事実、俺が魔王ってことに対しての驚きと困惑からの静寂。


「あっちゃ〜、皆々様困惑されてらっしゃるやん」

「とりあえずもうひと暴れしちゃいますか? もうどうしようもないですし」


 急に投げやりになったステラ。せやけどもう暴れるしかないかぁ。


「リエルちゃん、グレイ、リリ! エレナちゃん連れてこんなか飛び込んで! 俺の部屋に繋がっとる」

「「「了解!」」」


 俺が捻じ曲げた空間に、リリがエレナちゃん抱えて先に飛び込む。その後を追うように、周りを警戒しつつリエルちゃんとグレイが飛び込む。


「さぁて! オオカミくんの相手は、魔都のトップツーがお相手しましょう!」


 俺の横に来て背中を合わせるステラ。

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