40 どうぞ! コンディションは最強です!
「……ふぅ、把握しました。複雑だったので、ディープになってしまいました。お許しください」
ハンカチで俺の口を拭いてくれるエレナちゃんは赤面しながら、「まさか私の初めてがあんなにも淫乱な……」って呟く。うんあれは淫乱だ!
「びっくりしたけど……あれがエレナちゃんの固有魔法ってことか? 流れ的にそんな感じやろい?」
「ええ、私の固有魔法オムニシエント。相手との接触で記憶を共有する魔法です。軽度の接触で発動するのですが、細部まで知りたい場合はしっかりと接触をしないといけない不便なものです」
手ぇ強く握り続けるとかでもええきがするけど、まぁええか。
横からの圧が凄いけど、俺は気にせんと話を進めていく。
「にしても、驚かんねんな? 結構めちゃくちゃな経歴やと思ってんけど」
「楽しそうで羨ましいです!」
「お、おう……」
俺の返事は、煮え切らん感じになってもうた。
理由は、エレナちゃんの記憶を知ったから。多分オムニシエントは、相手には使用者本人の記憶が共有されてる。接触の深さによってそれは変わるんかもやけど、エレナちゃんの態度からは気付いてないように思える。
「ステラ、二手に分かれてたけど合流しやん? そろそろ先攻部隊がオオカミくん追い詰めてるとこちゃう?」
「この子はどうするんですか? 本当に様子を見に来ただけなんですか? 私はてっきり誘拐して魔都で面倒を見るっていうパワープレイをすると思ってました」
うん、最初はパワープレイしようと思ってた。
リエルちゃん達に、オオカミくんの拠点で暴れて注目を集める役してもらう。
んでその間に俺らが娘を誘拐してメンツを丸潰れにしたろおもてたけど、それやと罪を重ねるだけでなんの解決にもならん。それに、エレナちゃんが前に進まれへん。
「クソ親父ぶっとばさな気ぃ済まんのちゃう? 流れてきたエレナちゃんの記憶からそう感じた」
「えっ!? 私の記憶も共有されてたんですか!?」
「ざっつらいと!」
やっぱ知らんかったか。大袈裟に思えるほど驚いてる。多分胸のサイズ気にしてることとかも共有されてる? とか不安なんやろうな。大丈夫や、アリアちゃんよりはある。
「エレナちゃんって実は気性荒かったりですか……?」
「いえいえ! リエルさんのようなことはないので安心してください!」
ビシッと言い切ったエレナちゃん。そんなとこまで共有されてるんやな……待って!? 俺の恥ずかしい記憶とかも知られてる!? セクハラなったりしやんかな? それだけが心配。
「カナタくん……他の挑戦者に先を越されたらしいです……」
「まじで!?」
スマホを持つ手が震えたステラに突然聞かされた。いやこの国にオオカミくん倒せるほどの強さのやつおんの? 多分結構強いで?
焦るようにスマホを操作するステラ。じきにここに迎え来るな、報酬のお嬢様を求めて。だから焦ってんのやろうな。
「ど、どうしましょうカナタくん! 作戦狂いましたよ!」
「落ち着きぃな作戦なんて狂ってなんぼやろ。エレナちゃん、また来るわ」
華麗な絨毯が敷かれた床の空間を歪める。
その空間に、ステラを抱え上げてから飛び込む。この国のトップ潰して、国を抱え込むいい作戦思いついたわ! さっさと終わらしたる!
***
宿の一室。
魔都から来た俺ら四人に加えて、リリもその場に集まってる。
「――後ろからの襲撃してまで自分達が手柄を上げたかったとはな」
「クソみたいな連中やでほんま」
リリが、冷静に言う。
「ごめんねカナタ、不意打ちにやられちゃった」
「カナタさん……期待に沿えれなかった……」
そこらじゅうを傷だらけにしたグレイとリエルちゃん。二人とも顔面もボコられたみたいやな、頬にでっかいあおたん作っとる。
ここまでやる必要あったんか? でも……。
「気にせんとき。生きてるだけでも儲けもんや!」
「カナタくんの言う通りですよ! 無事でよかったです」
無事……か?
俺のそんな怪訝な視線に気付いたんか、瞬時にステラが二人の傷を完治させる。
痛そうなあおたんも綺麗に消えて、さっきまでのボロボロが目の錯覚かのように思える。
「カナタくんどうかしましたか?」
「いやぁ……無事でよかったなぁって」
ステラは、「ほんと無事でよかったです!」って言葉を続ける。俺より力技多い気がする。
「本当にめちゃくちゃなんだな、お前らは……だが。魔族とはいえ正義の味方とはな。面白い!」
「まぁ正義の味方っちゅうか、やりたいようにやっとるだけやけどな」
合流してしょっぱなにリリに説明を済ました。騙し通そおもたけど、俺とステラが変装してへんかったから誤魔化されへんかった。
ご乱心して切り掛かってくるかと思ったけど、仲間になりたい言い出した時は衝撃やった。だんだんハーレムになりつつある気がする。ちょくちょく男おるけど。
「で? カナタさん、この後どうする? 倒されちまった以上……娘さんは」
「あんなクズどもにいいようにされちゃうよ!」
息ぴったりなリエルちゃんとグレイ。
「もう決めてあるで! 今夜、祝賀会って名の引き渡し会がある! の――」
「ので! そこに乗り込んで堂々と攫おうと思います!」
対抗するように息を合わせようとする。えぇ俺が最後まで言いたかった……。
「攫うならこっそりでいいんじゃねぇの? 領主様に処罰されちまう」
「いや、リリ。勘違いしてるで? こっそり攫ったところでなんの面白味もないやろ?」
俺の意見にはてなって感じのリリに、わかりやすい説明をしていく。
「攫うのなんて、こっそりでも堂々でも犯罪や。許されることやない。なら! どうせ犯罪に手を染めるなら! ド派手にやった方が楽しいに決まってる!」
冷たい視線を感じる。三つも。
「「「うわぁ……バカだ」」」
完全に素のリアクションやん。
なんでリエルちゃんとグレイもひいてるんやろ。お前らはもう慣れたやろ、こんなノリには。
「さすがカナタくん! 言ってることがバカ丸出しですね! 隠そうともしないその態度、さすが魔王です」
食い気味に褒めてる……? ステラのおっぱいがばるん、と揺れて自己主張する。
「おいこら乳揉むぞ」
「どうぞ! コンディションは最強です!」
あかん、アホには話通じへんかった。
でもとりあえずワンタッチはしとこ。俺がいつまでも口だけの男とは思ってはならぬ!
「ひゃんっ!」
軽く触れた指は、ステラ自らが前に出たことによって、深く沈んでいく。おぉ柔らけぇ柔らけぇ。
***
「さ、みんな準備はええか?」
溢れかえる人の中、俺たちは祝賀会の会場に潜伏してる。
魅惑的なドレスを身にまとった女性三人と女性もどき一人。
四人とも、背中がやけに空いたドレスを着てる。てかグレイがリリよりダントツでエロく感じるのなんなん?
「カナタさん、奥で浮かない顔してるのが領主の娘か?」
「せや、エレナちゃん。あの子は昔っから親の言いなりやったみたいやで」
「権力者を親に持つのも大変そうだね」
会場に設けられたビュッフェを堪能しながら、ちょっとずつ奥へと、エレナちゃんへと距離を詰めていく。
会場のど真ん中のステージ前に、俺とリエルちゃんとグレイ。ドア付近にはステラとリリ。
引き渡しになった瞬間に俺がエレナちゃんを攫って、リエルちゃんたちは、襲撃してきたやつらにリベンジ。
逃げようとした時の対策としてステラとリリがドア付近に待機してる。
『お集まりの皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより領主様、お嬢様が登場なされます。どうか盛大な拍手でお迎えください』
ステージに立っている司会進行役のお姉さんが、嬉々として話した後に、領主とエレナちゃんが奥からステージにやってきた。
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