37 また捕まったよーん
どこからともなく現れた、ウィッグとネット。
「どっからだした!?」
「忘れたんですか? 私物ならどこからでも出し入れできたり、瞬時に着替えたりできるんですよ!」
死者職員の特権やったか? 今持ってるもんも、生前に持ってたもんも出せるって前に聞いたような? 聞いてないような? まぁなんでもええ。どうせすぐ忘れてまう。
ステラは流れるように、ネットで髪を押さえて、赤毛の短髪ウィッグを被る。待って? それ私物なん!? コスプレでもしてたんか? そこには触れやんといた方がええんやろか。
「なんか楽しなってきた! 性別逆転旅行!!」
一瞬にしてバーサーカーモードになった俺を見て、名案と言わんばかりの笑顔でグレイが話しかけてくる。
「もうこうなったらリエルも男装するしかなくない?」
変な絡み方に見えるけど、グレイはめっちゃ純粋な顔で言うてる。だからか、「嫌だわ!」ってツッコむものの、キレが悪いんやろうなぁ。
「こらこら強要したりな。ステラ、ウィッグなおしとき」
緑のウィッグを片手に、ジリジリと近づくステラ。
「えー! 絶対萌えますよ? ジャンルはクーデレ系ですかね? 俺様系?」
「ぐっ……それは……」
俺様系のリエルちゃんは見てみたい気もする。でも無理強いはあかん、こんなノリ苦手な子もおるからな。
「せっかくだし、男装してみよ?」
「人生思い切りが大切ですよ! それに、カナタくんも見たいですよね?」
おい俺に振るな。つい、見たいです! って言うてまうやろ。
「恥ずかしく……なったら、やめるからな……」
頬を赤らめるリエルちゃんに、間髪入れず襲撃するステラ。ぱっと見、性犯罪の現場なんよ。
ステラがぽぽんと服変えて、流れる手捌きでウィッグをつける。おいここで生着替えなんて! って心配はする必要なかった、だって一瞬で変わんねんもん。チラッとすら見えへんかった。別にガッカリとかはしてへんけどな?
「オオカミくんはそもそもリエルちゃんらのこと知らんし、俺とステラも姿変わってるしこれで完璧にバレへんな!」
美少年になったリエルちゃんを見て、グレイに視線を移す。この二人ポテンシャルたっけぇなぁおい。
「だね、でも目立たないようにしないとダメだよ!」
そう言うたグレイは、俺だけを見て付け加える。
「副団長から、カナタは奇想天外なことをするから気を付けろって言ってたよ? 実際初対面の時なかなか目立ってたし」
天井抜けてった時のことやろうなぁ。
「カナタさんは突拍子もないからな」
「カナタくんほんと気を付けてくださいね?」
俺的には最善を尽くしてるだけなんやけどな。大人しくしとこ。
***
馬車に揺られて、ケツの痛みにも慣れてきた頃、北の国に到着した。
「着いたぁ! いかにも貴族が治めてる国って感じやわ」
「キラキラしてるな」
綺麗に敷き詰められた石畳、小綺麗なレンガで建築されたオシャレな建物。国民も心なしか輝いててなんかハラたつ。
高そうなカップでコーヒーを楽しむ婦人二人組を、「あれが淑女か……」なんて呟くリエルちゃん。単にセレブなだけやろ、ギャハギャハやかましいし。見てみ? 周りの客に冷めた目で見られてんで。
「ほんとキラキラだね〜」
辺りをキョロキョロ見るグレイは、通りがかる紳士たちの視線を集めていた。
「カナタ、これって僕たちが見られてる?」
「せやろな、俺ら美人さんやからしゃーない。パンツでも見せたる?」
コソコソと話す俺とグレイに、リエルちゃんがツッコむ。
「だから目立つなっての」
いや俺だけにやわ。
「まぁいいそんなことより、宿だ。あそこなんてどうだ?」
適当に流すリエルちゃんが指す指の方向には、小さい看板がさげられた宿屋があった。
「こじんまりしててええな」
「そうですね、あそこにしましょうか! 私予約入れてきますよ。各自バラけて情報集めといてください。私も予約済み次第集めます!」
ステラの指示でバラけた俺らは、それぞれ別の方向へと進んだ。
リエルちゃんは右、グレイは左に進む。俺は裏路地を探る。
「――ひとりになったんはええけど……えらい暇やなぁ」
心もとない街灯が数本立てられてる、薄暗い路地。
表の華やかさとは一変、ここはまるで人生の型に囚われへんやつらの吹き溜まりみたい。地べたに座り込んで酒飲むやつや、他の奴に絡んで金をせしめるやつ。自由やな。
こんな人生も楽しいんやろうなぁ苦労しそうやけど。と、ポッケから飴ちゃん出しながら考える。
舐め出したらなんかすごい路地におる人らに二度見されまくる。なんで? もしかして飴ちゃんの棒をタバコと見間違えてんのか? んでここは路上喫煙禁止やったり……いやそれはないか。
「なんや? ほんまごっつう見られるやん」
まぁええや。そんなことより、オオカミくんおりそうなとこ探さなあかんなぁ。
この国に滞在してるかは知らんけど、滞在してたとしたら好物があるとこに出没するやろな。ちょうど昼時やし、オオカミくんの好物なんやろ?
「肉かな? 肉かもなぁ、肉やろうなぁ」
オオカミはみんな肉好きやろ。肉やな、分厚くて食べ応えある肉提供してる店探してみよか。
腹の虫の鳴き声を聞きながら進む。裏路地にも結構店ありそうやし、穴場なんかな? 治安悪そうやけど。
「おいそこの女! 直ちに止まれ!」
俺の後ろらへんで、妙に荒々しい声が聞こえる。なんや、ナンパされてる姉ちゃんでもおんのか? にしても強引な誘い方やな。そんなんじゃモテへんで。
「止まれと言っているだろ! 今から貴様を違法薬物不当所持及び、無断使用の現行犯で連行する!」
「なんて!?」
声かけられとったん俺やったんかい! 性別変えてたの忘れてたわ。っちゅうか違法薬物? 人違いちゃうんかいな。
「ちょい待って! なんでお……ウチが薬物やってるって疑われてんの!?」
俺って言いかけて、咄嗟に誤魔化した末のウチ。なんか俺が通ってた学校だけかもしれんけど、関西の女子ってなんでああも自分のことウチって言うん? 可愛いから全国に推奨。
「まぁ落ち着け、話は屋敷の地下監禁所で聞いてやるから」
俺を貴様呼ばわりした男の後ろから、短剣を装備した女が現れる。女は、俺を安心させるような暖かい笑顔で近づいてくる。
「ならいっか……とはならんで!? 監禁されてもうとるやん!」
「とりあえず来てくれ、こっちも仕事でな。勘弁してくれ」
あまりにもすんばらしい笑顔に騙されかけた。まぁやばなったら逃げればええし、話だけでもしに行くか。
――簡素な机と椅子が二つだけ置かれた小さい部屋。俺と向き合って座る女は、短剣を壁にもたれさせる。
『また捕まったよーん』
女の目を見つめながら、脳内で報告する。この状況でスマホなんて出したらややこしなりそうやしな。
もしもの時は脳内に直接話しかける言うてて良かったわ。事前に言うてたら驚かれることはないやろ。
『またですか!? 世界征服を本格的に始め出してもう二回目ですよ!? 何したんですか!』
『カナタ! なにして目立ったの!?』
『カナタさん……あれだけ目立つなって……』
全員の小言を脳内で聞き流しながら、目の前に座る女の話を聞く為耳を研ぎ澄ませる。
一人づつに伝えるのだるいからって一斉にやるんじゃなかった。うるさぁてしゃーない。三人でやいやい会話し出したし。
「どうした? 辛そうな顔をして。腹でも痛いか?」
「いや、なんでもないで。てかええの? 容疑者と二人っきりで。危険とか感じへんの?」
先ほど見せた暖かい笑顔とは別の、大人びた笑顔を披露する女は、ずいっと俺に顔を寄せる。
「俺はわかってるぞ? 先ほど舐めていた物は、西の国に新しくできた店の飴ちゃんと言うやつだろ? プリン? を買えばおまけとして貰えると従姉妹が言っていた」
あれ? 男なんか? いやでも一人称が俺ってだけやもんな。俺っ娘? 細かいことはなんでもえっか。性別に関しては俺何も言えんし。
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