36 はーい魔王やでぇ!

 ***



「サラちゃーん! おはよー!」

「おはようカナタ。グレイはもう準備できているぞ、気を付けて行くんだぞ」


 ラーメン屋建設から一夜明け、ついに北への出発日。グレイを迎えに来た俺とステラは、サラちゃんに挨拶する。それとお願いも聞いてもらうつもり。


「ありがとうございます。サラちゃん、ついでと言ってはなんなのですが……アーちゃんを監視していただけませんか?」


 ステラが言う。お願いは、アリアちゃんの監視。蛇女ちゃんにもお願いしてるけど、勘付かれた時のための保険として頼んでる。


「なぜアリアを監視する必要があるんだ? 小官には理解できないな」


 当然の疑問やな。なんで仲間を監視する必要あんねんおもとるな。確かに、普通なら仲間を監視する必要なんてない。普通ならな。


「アリアちゃんがほっぺ怪我してたんは知ってるよな?」

「ああ、木の枝で切ったと言っていたな」


 そう、木の枝で切った言うてた切り傷。みんなは信じたみたいやけど、俺とステラは引っかかった。


「こけて木の枝で切るなんて確率ほぼないし、そもそも綺麗に切れへんはずや。推測やけどあれは、剣で傷つけられたんやと思う」

「確かに……言われてみれば、そうかもしれない」


 真剣な眼差しで遠くを見つめ、深く考え込むサラちゃん。表情を見るに、俺らが監視頼んだ理由が理解できてきたみたいや。


「カナタたちは、アリアが心配なのだな。監視なんて言うから、深読みしてしまった。見守ってくれと言ってくれればよかったのに」

「ほんとですね、言葉選びを間違えちゃいました」


 サラちゃんの言う通り、見守るって言えばよかったわ。なんか面倒ごとに巻き込まれてるなら助けたらなあかん。斬られたことを誤魔化すくらいや、多分ややこしいことなんや思う。俺らに心配かけんとこうとしとるんかも知らんけど、一人で抱え込むなんてのはこの俺が絶対許さん。強引にでも介入したる!


「まぁとにかく、アリアちゃんの様子見頼むわ。現状どないなっとるかわからんから、首突っ込むにも突っ込めん」

「わかった、任せておけ。おせっかいな魔王様」


 からかうように言うサラちゃんの笑顔はめっちゃ温かみを感じた。女の子の笑顔ってなんでこんなにも尊いんやろ。待てよ? 女の子から見たら男の笑顔も尊いんか? つまり……全人類みな尊し。


「――話は終わったかな?」


 ひょこっと現れたのは、美人な男代表のグレイ。爽やかな印象を与えるワンピースが異様に似合ってる。やっぱクッソ美人なんよなぁ。本人が知らんだけで、実は女とかのどんでん返し希望。


「すまんすまん! 待たせたな。ほないこか!」

「ですね、リエルちゃんも待ってると思いますよ」



***



 西の国、リエル一家が営む店の前。


「リーエールちゃ〜ん! あ〜そ〜ぼ〜!」

「カナタ、お店の前で叫んだら迷惑になっちゃうよ」


 大丈夫や、多分ここの人らは寛大やから。

 と、思いながら店のドアに手を掛けた時に。


「見て!! 魔王様よ!?」

「ほんとだ! 魔王様だ!!」


 俺の声聞いて、周囲からぞろぞろやってくるオーディエンスたち。迷惑どころか、大歓声やな! どやぁ!!


「はーい魔王やでぇ!」

「魔王様! どこかお出かけなさるのですか?」

「まぁな! しばらく留守にするから、従業員ちゃんら困ってたら助けたってくれる?」


 俺が背中にしょってるデカリュックを見て声かけてきた村民さん達は、俺のお願いに目を輝かせて承諾してくれる。


 俺って人望に満ち溢れてんのかな? いや、単にみんながええ人なだけか。


「カナタさんお待たせ、今用意できた。てか中入ってきたらよかったのに」


 騒がしい外を、何事や? って感じで、そろりと出てくるリエルちゃん。


「いやぁ入ろおもてた時に声かけてもろてな? いやぁ俺も人気もんなったもんやなぁ」

「村を救ったと言うのもあるんでしょうけど、性格の明るさのおかげですね」


 褒められた、わーいステラに褒められたぁ。照れるやん。褒められ慣れてないから不意打ちに弱い、堪忍してぇ。


「ま、まぁそんなことは置いといて! この二人が、リエルちゃんの代わりに店手伝う従業員ちゃんです!」

「よろしく。ごめんな、手伝いに来てもらって」


 不器用にニカっと笑いながら手を差し出すリエルちゃんに、従業員ちゃん二人はとろんとした眼差しを向ける。これはズッキュンですわ。いいよね、こういうそっけない感じの口調やのに笑顔って。イケメンかよ。


「きゃ〜! リエルちゃんカッコいー!!」

「ヒューヒュー!!」


 ステラと二人、イケメンリエルちゃんを讃える。赤面しながら、ささっと進むリエルちゃん。それを追いかけるようについていく。


 目的地まではこの村、ミレッジの入り口に、サラちゃんが馬車用意してくれてるからそれに乗っていく。運転はグレイができるらしい。ちなみに、ステラもリエルちゃんも運転できる。そしてもちろん、俺は運転できへん。


「お! あれやな、サラちゃんが用意してくれた馬車」

「みたいですね! 写真の通りです」


 スマホに写ってる二匹の馬。視線をちょいっとずらしたら、等身大の馬が視界に入る。キリッとした顔立ちで、大人しく待ってるイケメン馬。毛並みも顔も整ってるなんて反則よな。てかなんで、馬って美形多いん?


 よろしくなぁなんて言いながら、馬車に乗り込む。じわじわと進んでいき、次第にコトコトと、心地いいリズムで揺れ出す。流れる風景、それ見てはしゃぐ女の子たちを見る俺。……ひとり男って忘れるとこやった。

  

「着いたらまずどうする?」

「宿の確保が最優先事項じゃないですか?」


 満場一致で宿の確保が決まった。先調査して、ヘトヘトで宿探すのも辛いしな。


「ほな着いたら宿屋探して、あとは自由に探索しよー!」

「魔族の目撃情報についても詳しく調べましょうね?」


 ちゃんと目的忘れんなよって感じで念押ししてくるステラ。その横で、リエルちゃんがひとつの疑問をぶつける。


「目撃された魔族って何が目的で北の国に行ったんだろうな?」

「それは、襲撃する時のために偵察じゃないかな?」


 その疑問にいち早く答えたんは、グレイ。模範的な解答やとは思うけど、俺とはちょっと異なる考えやな。まぁオオカミくんのこと知らん子は行動パターンとかも当然知らんもんな。


「いや、多分ちゃうな。それ」

「カナタくんもそう判断したんですね」

「まぁな。目的はわからんけど、偵察を自分でするようなやつやないやろ」


 しっかりと俺の目を見据えるステラ。

 どうやらステラは俺とおんなじ考えやったらしい。オオカミくんは自分で絶対しやんやろうし、もししたとしても、目撃されるようなヘマはしやんやろ。


「念の為、カナタくんはバーサーカーモードで行きましょう。私は男装します!」


 名案思いついた感出して、パンと手を叩くステラ。男装て意味あるか? 男装したいだけかもしれん。でも、その胸はなんともならんやろ。サラシで抑えたら圧迫されまくるんちゃうか?


「ほっ!」


 ステラのテキトーな掛け声が聞こえた瞬間、元着てた服が姿を変える。元々の特徴は残しつつ、ピチッとしたズボンに上はダボっとした印象を与える服。


「胸大丈夫か……?」

「カナタくんが苦手なあの人に作ってもらった特殊サラシ使ってるので大丈夫です!」


 あぁ……あのマッドサイエンティストか……。たまにステラが会いに行ってるおもてたけど、こんなん作らせに行ってたんやな。


「それより見てくださいよこのフェミ感溢れるメンズ服」


 服の裾掴んでジャジャーンとアピールするステラは、「これカナタくんも似合いそうですね」なんて言いながらニヤリと笑みを浮かべる。


「服装はなんかそれっぽいな! けど髪の毛どうすんの?」


 服装は見ようによっては男って通用する。けど髪の毛は、ちゃんと女性らしい艶やかさを主張しながら背中で揺れてる。


「こうします!」

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