35 これさえ覚えればカンペキ! 今日から君もモテ道を歩もう!!

 ――リエル一家の店去った俺は、お土産にもらった唐揚げをパクッとつまみながら魔王城に帰還した。


「メンバー決めたで〜! てことで明日早速行こ!」


 自室のドアを開けると同時に、なんの前置きもなく言い放つ。奇行に見えるこの一連の動作、せやけどこれは全然奇行やない。なぜなら……。


「もう決めたんですか? 私を連れていくんですね?」


 当然の如く俺の部屋でくつろぐステラがおるから。そして流れるように、俺が手に持つ爪楊枝から唐揚げをパクッと攫う。「これおいひいれすね」やないねん、幸せそうに食いよって。


「魔都から俺とステラ。西の国からはリエルちゃんと、騎士のグレイ連れてく」


 唐揚げ頬張るステラのほっぺをモニュモニュ揉みながら人員を告げる。口ちっさいし飲み込むの遅いのに一口でいくからそんな小動物フェイスなんねん……写真撮っとこ。


「おかわり」


 スマホを向けられて、若干キメ顔しながら言う。


「まだ食うか」


 もぐもぐし続けるステラをよそに、俺はサラちゃんに明日出発することを魔ットする。グレイに伝えといてもらわんと。向こうで別行動なるかもやし、リエルちゃんとグレイのスマホ用意しとこ。


「カナタくーん! 出発する前に、メアちゃんのお店建てません?」

「ナイスアイディア!」


 ステラの考えが一瞬にしてわかった。あれやろ? 店舗だけ用意して、俺らが北に行ってる間にメアが開店してたらええなってことやろ? 帰宅後食えるから。その案には大賛成や! 疲れて帰っても、あれが食えるならモーマンタイ!


「そうと決まれば呼び出しやな」

「ですね」


 さっとスマホ取り出して、メアに連絡を入れる。

 っちゅうわけで! 魔物ストリートにしゅうごー!


「――おっそいよ魔王様! はよはよー」

「呼び出しから五分しか経ってへんで? 早すぎんか? てかその紙切れたちなに?」


 遅い、ってぷりぷりぷるんぷるんしてるメアの後ろには大量の紙が控えてる。なんか嫌な予感しかせんねんけど。


「設計図ですね、いろんなパターンがあるみたいです」

「そう! ステちゃんに言われた通りに、ニアスにお願いして書いてもらったよ!」


 げ、嫌な予感的中や。ほんまに勘弁して欲しい。本人は……来てへんよな?

 キョロキョロあたり見回す俺をみるステラ。


「カナタくん、本人はラボに籠ってますよ。安心してください?」

「魔王様ほんとニアスのこと苦手じゃんね〜! なんかあったの?」


 魔王城地下の開発ラボの主、ニアス。俺が適当にイマジネーターで生み出した製品を分解して研究、そして独自に改造してより便利にする係。ここまでなら最高の研究者と言えるんやけど……あいつ人体実験もしよるからなぁ。元人間って明かしてから、しつこくて困ってる。


「あのマッドサイエンティスト女は恐怖でしかないんや。ま、そんなことは置いといて設計図見せて」


 あのマッドは、脳みそイカれてるけど、発想は奇抜でおもろい。どんなぶっとんだ設計考えたんかな。

 設計図の山を、どさどさっと俺に渡すメア。ニアスが力入れてる設計図は、一目でわかる。大半が丸めて紐で止めてるだけやのに、何個かは丸めんと丁寧に封筒に入れられてる。


「この封筒、材質が違いますよ? これが自信作なんじゃ?」

「ぽいな」


 材質というか、そもそも紙の封筒やのうて革やねんけど。どんだけ自信作やねんこれ。

 早速封筒から紙を取り出す。この世界では、羊皮紙が主流らしい。なめらかな触り心地の紙に、丁寧に書かれた設計図を見る。


 必要面積は自販機二台程度? ミニマムな建物の設計が紙一面に広がってた。

 ぱっと見何考えてんのやおもたけど、裏面に書かれたメモ書きをみて完全に理解できた。


 ――やぁやぁカナタ少年。見ているのだろう? これを読んでいるということは、ミーの設計図に少なからず疑問があったんだね? だけど君ならすぐにどうすべきかわかるはずだ。ステラから聞いているよ、あるのだろう? こんなラーメン屋が。君が元いた世界に。


 追伸――そろそろラボに来たまえよ。スマホというものを生み出したのだろう? 早く持ってきたまえ。もちろんだが、君以外からは受け取らないからね――


「…………」


 ……追伸は見やんかったことにするけど、店の内装は決まった。要は、店自体は地下に作れってことやな。地上には小屋と券売機を置いて、地下への階段をつければ完成や。簡単やん。


「メア、とりあえず建ててみるから気に食わんとこあったら言うて。徐々に変えていこ」

「り!」


 イマジネーターあるからこそ気軽に出来る、合理的建造。


 ストリートの入り口付近の土地に、どどんと建てる。ニアスの設計図ではちっこい建物やったけど、普通サイズの店を建てた。そこに、券売機と椅子を適当に並べる。


「ここが券売所兼待合室。店混んでたらここは絶対いるスペースやと思う」

「厨房なくね?」


 まだ説明してへんから、地下店舗についてわかってないメア。まぁ焦るな、追々わかる。


「そこの階段降りてみ?」

「おっけー」


 言われるがままに降りていく。


「カナタくん、これ完全にあれですよね」

「あれですね。特許のカウンターは設計してないからセーフやろ。ここ異世界やし」


 そう、これは行きつけのラーメン屋を模した設計。店舗によってはいろんな構造があるけど、俺がよく行ってた店舗はこんなんやった。


 階段降りて、券売機で券買って、カウンターに案内される。店員とほぼ会話しやんスタイルの店。


 まぁ? メアに喋んなっていうのは無理やから店内は全然真似てへんけどな。


「ひっろ! やば! ちょーきれい! カウンターオシャレ! 調理器具の種類やば! 待って!? これがステちゃんから聞いてた電気のコンロ!? 二種類のコンロ使い分けるのなんかプロっぽい!!」


 地下に降りて、テンション爆上げのメア。IHコンロの火力だけやと不安やから、ちゃんとガスコンロも用意してる俺の心意気。料理は繊細な火加減が命。


「スープあっため直す時とかならIHでちゃちゃっと出来るやろうけど、火加減がシビアな工程はやっぱガスないと困るやろ?」

「さっすが魔王様! 優しさの極地!」


 褒めるメアやけど、興味は完全にコンロにいってる。


「カナタくん、こういう細かいところによく気が利きますよね。モテ道ですか? やはり、高校時代に必死で勉強したモテ道ですね?」


 ぐいぐい迫るステラ。やめろ。『これさえ覚えればカンペキ! 今日から君もモテ道を歩もう!!』なんて本知りません。この配慮の天才度は、俺の生まれ持ったもんです。


「なんの話してるの? 混ぜて混ぜてー」

「お話はおしまいや! さっさと店完成させんで」


 コンロを眺め終えたメアに深掘りされそうやから、話題変えろって俺の脳内占い師が言ってる。ので、強引に切り上げる。


 ――メアの要望通りに、改築したりインテリア置いたりして数時間。もう夜明けが近い、最近こんなん多いきがする。夜更かしは美容の大敵やのに! んもう! あたち困っちゃう。ま、イマジネーター使えば肌荒れ問題もチョチョイやねんけどな。


「えらいガラッと雰囲気変わったなぁ。イタリアンレストラン言うても通用するやろこれ」

「カウンターを活かすならこの内装がよきよき! 最初のデザインの部屋に黒いカウンターは浮いてたしね」


 そう、現在では活かされ、シックに馴染むカウンター席。だが、改築前はどえれぇ浮いてた。なんで和風な店内にあんなんぶっ込んだんやろ俺。


「ですね。カナタくんのセンスはたまにぶっ飛んでますから」

「…………」


『これさえ覚えればカンペキ! 今日から君もファッションリーダー!!』も買っとけばよかった。

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