33 トリックオアトリートを使ってゴーストを退治する

「――カナタくん、いえ……その状態はベルちゃんと呼びましょうか?」

「もしかして鈴木の鈴が原案?」


 ステラが展開した魔法陣で、魔都に戻った俺たち。そして俺はなぜかベルちゃんの状態でおる。

 ステラいわく、切り替えが自在やねんからもしもの時のためにサブ垢も鍛えとけってことらしい。ちょっと森あるいただけで遭遇した魔獣三匹は瞬殺できた。てかさ、なんで魔獣は魔王襲うわけ? ばかなん? 前にステラが、魔獣は勝手に湧いてくるし自我ないから使い魔にせな、従わすのは無理言うてたけど、魔王襲うのはいかれてやがる。

 

「そうです! ベルちゃん! さ、女の子らしく振る舞ってくださいね」


 え? なに? パワープレイの習得じゃなくて、女子力向上が目的? 


「女の子らしくっちゅうてもなぁ、じゃあまず聞いていい? 下見えへんねんけど。脂肪の塊のせいで、これはどうやったら解決できんの?」

「慣れるしかないですよ?」


 バインとわざとらしく揺らすステラ。そういや、ステラたまに小石でつまずいてんな。女性モードの時はいつも以上に足上げとこ。


「なぁ、これみんなにどう説明すんの? てか説明せなあかんの? 多分大混乱のち、一人笑い死ぬと思うで」

「きっと二人だと思うんですが……そうですね、モード変更が可能になったって伝えればいいんじゃないですか? 普段がウィザードモード、この状態がバーサーカーモードってことで」


 うーんと考えるステラ。確かに二人やわ。

 ステラが言う通り、モード変更って感じで説明することに決めた。ウィザードモードは、イマジネーターメインで戦うスタイル。バーサーカーモードは、ひたすらパワープレイ。


「それでいこ。さっさと城に帰ろ、歓迎会の下準備あるし」

「ですね、さいっ! こう! の串カツを食べてもらわないとですね!」


 その調子や! 相手を思いやる心こそ、これからの魔界に必要な心や!


「今は元に戻っとくわ、みんな集まってからまとめて説明する」

「その方が効率的ですもんね」


 せや、効率厨万歳!



 ***


 なんやかんやで時間が過ぎていき、みんなを城の宴会場に招く。

 流石に大人数やと、俺の部屋は手狭やからな。いつもカウンターキッチンにスタンバってるのは料理長やけど、今回は俺とステラが乗っ取ってる。料理長にも振る舞いたかったけど、食材探しの旅に行ってもうたしな。


「これカナタさんたちが作ってくれたんですか!?」

「せやでせやでー!」

「ローラちゃんたちの歓迎会なので、おもいっきり楽しんでくださいね!」


 ついさっき揚がったばっかの、串カツ第一陣を眺めてワクワクした顔でローラちゃんが言う。それに同調するように、他の従業員ちゃんたちもわいわいしてる。言うまでもなくメアもわいわいしてる。


 店建てる場所の下見はもう済んだらしく、えらく上機嫌。スマホ渡したんも結構喜んでたし、いつもよりやかましい。

 そんなメアに比べて、アリアちゃんはテンション低めやった。まぁトレーニングの最中に怪我したからやと思うけどな。

 こけた拍子に、そこらへんの枝で顔切ったらしい。ステラが治癒して、今はテンション普通に戻ってる。子供か。


「この量作るの大変だったんじゃないのか? 坊主。言ってくれたら手伝うのに」

「下準備ほぼステラがやってくれたし、本人は楽しかった言うてるし気にせんでええで」


 こんな気遣いするとこはやっぱ大人って感じやけど、視線はずっとローラちゃんに向いてるのはどうにかしたほうがいいと思う。


「食材に串を刺すだけで、カナタくんの筋肉写真が手に入る簡単なお仕事でしたよ!」


 な? 気にせんで良かったやろ? ステラはこういうやつなんすよ。


「よっしゃ! みんな楽しむ準備はできてるやんな!?」


 でかいジョッキ片手に辺りを見渡す。みんなもジョッキ構えて俺に注目してる。カウンターキッチンで揚げながらではあるけど、しっかり盛り上げていく。


 ジョッキになみなみ入れられてんのは、ホップドリンク。いわばビールっすね。え? 未成年やろって? ちゃうねん聞いて、この世界は十歳で成人やねんてさ。すごいよね。


「ほな今日はいろんなこと忘れてはちゃめちゃに騒ご〜! 乾杯!!」

『かんぱーい!!!』


 会場が揺れるレベルの大ボリューム。出だしは上々。

 そして……やっとこれが言える。


「はいみなさん! テーブルをご覧ください! そうそれ銀色の入れもんのやつ。それは串カツ用のソースです。そして、美味しく楽しく串カツを食べるためにそいつにはルールがあります。それは……」


 みんながソースに釘付けになったのち、言葉を溜める俺に視線を移す。

 

「二度漬け禁止やで!! このルール守れる人〜?」

『はーい!!』


 謎のノリで、歓迎会が開催される。さ、ジャンジャン揚げてくで〜!

 サクッと軽い音が広がって、ふわっとソースの香りが漂う。従業員ちゃんたちも満足そうに、「おいしい」言うて食べてくれてるし大成功や!


「魔王様〜! これどんな油つかってるの? めっちゃ軽いんだけど! 胃もたれ知らず!」

「せやろ? これはな、油っちゅうより揚げ方に秘密があんねん。教えへんけど」


 揶揄うように言う俺と悔しがるメアを、みんなが笑いながらみてる。普通に喋ってるだけで笑い取れるのはすっげぇ価値あると思う。俺は嬉しいです! いっつあエンターテイナー!!


 ワイワイ騒ぎ続けて、時間経った頃。サラちゃんがこう溢す。


「ゴーストたちはもう見れたか? カナタ」

「なんそれ」


 急にホラー? やめてや、怖いやん。

 俺がちょっと怯えてんの察したんか、ステラが串カツ食いながら割り込む。


「ハロウィンみたいなものですよ」

「おーハロウィン! トリックオア……なんやっけ?」


 脅迫してお菓子ぶんどる愉快なイベント。この世界にもそんな文化があってんな。ん? でもゴーストって? もしかして脅迫する相手はお化けってこと? 怖いもん知らずかよ。

「トリートだ。トリックオアトリートを使ってゴーストを退治する。そして、菓子をいただく。それが霊伐祭のならわしだ」


 脅迫よりどえれぇ野蛮。


 なんや知らんかったんか? みたいな風につぶらな瞳でみてくるサラちゃん。てかトリックオアトリートを使うってなんや。 


「なぁ? ステラ、俺が知るハロウィンとだいぶちゃうみたいやねんけど?」

「トリックオアトリートは魔法の言葉みたいなものですよ。今日だけ効力があります」

「なんそれ詳しく」


 ステラ、サラちゃん、おっさんに詳しく聞いたらなんかえらい楽しそう。


 成仏できへんかったお化けが、五時頃から彷徨う十月末。そんなお化けを、「トリックオアトリート」って言いながら攻撃したら強制的に成仏させられる。んで、成仏させてくれたお礼にお化けがお菓子を落としていってくれるらしい。


「戸締まりしてないと、建物の中も入ってきますよ! なので、みんなで楽しめると思って全開放しておきました!」

「嘘やろ!?」


 ステラの気遣いはたまに大胆。お化けってデフォルメのやつよな!? リアルなんやめてな? ガチで頼む!

 

「パパ! 来たなの!」

「心の準備が……」

「情けないわね。攻撃なんてしてこないんだから怯える必要ないわよ」


 そうは言うてもアリアちゃんよ。不可思議な存在は怖いんやって! 助けてぇぇええ!!


「キュイ!」


 目の前にくりんくりんのお目々が特徴的な浮遊物が現れる。みんなが、「ほら、早くトリックオアトリート!」って言うてるから多分これがゴースト。なんやかわええやないの。


「トリックオア……」


 ――言いかけた瞬間。


「バァアア!!!」

「ぎゃあああああ!!!」


 デフォルメフェイスから、急激なリアルフェイス。ほんまに勘弁してほしい。寿命縮んだぞ。こいつマジいてこましたる。


「あら、カナタ様。お可愛いですわね」

「やかましわ。トリックオアトリート!」


 俺のビビる様を見た蛇女ちゃん。怖いもんは怖いんや! 勢いでトリックオアトリートしてみたものの……。


『ありがとう、優しき人間よ。あなたに幸あらんことを』

「え、あ……あざす…………?」


 いかつい見た目のおっさんの姿になったおもたら、綺麗な声でお礼言われた。あかん脳みそパニック。


「カナタくん! 急いでその場から少し離れてください! 怪我するかもしれません」

「爆発でもすんの?」

「違うぞ、坊主が成仏させたのは高位の存在なんでい。だから――」


 おっさんが言い切る前に、超大量のお菓子が頭上から降り注ぐ。


「……大量のお菓子が降ってくるんでい」

「うん、とりま助けてもろて?」

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