31 美人な青い髪の子

「お、早速使ってくれてるやん。たこ焼きさんスタンプ」


 腹立つけど憎まれへん顔がついた、たこ焼きのイラスト。そんなたこ焼きさんがペコっとしたスタンプが、従業員ちゃんたちから送られてくる。スマホ持ち始めあるある。


「俺ちょっと騎士領いくわ。おっさんとサラちゃんにスマホ渡さなあかんし。ローラちゃん、おっさんに顔見せたってくれる?」

「ですね……」


 ちょっと嫌そうな顔で返事する娘ちゃん。まぁそんな会ってないわけじゃないけど、おっさんは寂しがってそう。

 おっさんにスマホ渡しに行くだけやから、一人でいけばええんやけど、娘ちゃんのことめっちゃ聞いてきそうやからな。本人連れてって満足させる作戦。


「さ! 善は急げや! ぱぱっといこかー」

「えっ……! あ、はい!」


 シュバッとローラちゃんを姫抱っこで抱え上げた俺は、歪めた空間に飛び込む。飛び跳ねた時の浮遊感にびっくりしたんか、俺の肩に回したローラちゃんの腕がぎゅっと締め付けられる。

 必然的にくっつけられるおっぱい。これは不可抗力や、だから怒らんといてやおっさん。



 ***



 西の国、騎士領。

 俺は今、圧をプレッシャーと読んで、「なんて圧だ!」って状況にある。


「ありがとな坊主、娘を連れてきてくれて!」


 いつも通り明るく言葉を放つおっさんやけど、


「おう、ありがとうの気持ちあるなら圧かけるのやめよ?」

「なんの話でい?」


 あくまでとぼける真顔おじさん。原因はわかってる、俺がローラちゃん抱えて現れたからや。そんなことでガチの圧をかけられてる、娘溺愛パパ怖い。


「いや……その……」

「娘が嬉しそうに、幸せそうにニコッと……俺以外に……俺に見せる笑顔以上の笑顔で……会話してる……! ローラの天使要素をここまで引き出せるのは恐らく坊主だけだ! ありがとう! だが、だがな! ローラを抱えるなんて……抱えるなんて……」


 真顔のまま、一筋の涙を流すおっさん。情緒どうなっとんねん。なんとかしてって目線をローラちゃんに向けるものの。どないしよって感じで困ってる。


「お父さん、これカナタさんが作った機械。いつでも連絡できるから、もう醜態晒さないで」

「おっさん横のボタン押してみ」


 ローラちゃんは強引に話変えることを選択した。それに便乗した俺に言われるがまま、電源入れるおっさん。使い方を瞬時にマスターしたおっさんは、目ぇ輝かしながらローラちゃんにメッセージ飛ばしてる。目の前におんのに。


「醜態とか言われてたのにめっちゃ笑顔やん」

「父は少し間抜けなので……」


 ぽんぽんなるスマホ握りしめるローラちゃんの目は、おっさんと反比例するようにハイライトが消えていく。可哀想に……。ローラちゃんのために、「ここスライドさせたら通知音切れるで」って教える。


 細かい使い方まで教えたるべきやったな。この子には特に。


「そういえばさ、俺ここの騎士一人スカウトしたいなっておもててんけど、すっげぇ美人な女の子」

「そういうのはサラ嬢に聞いた方がいいかもしんねぇぞ?」

「確かに、ちょっと聞いてくるわ。スマホ渡すついでに」


 話しながらも、目の前におる娘にメッセージ飛ばしまくってるおっさん。この行為は嫌われても文句言われへんぞ、やめとけ。


 あ、娘ちゃん電源落とした。ついに、増えていく通知数が煩わしくなったか。おっさんの魔ットは送信制限つけるわな、ってローラちゃんに目線でアピールして、副団長がおる部屋に向かう――


「――やっほ! 俺降臨! はい、プレゼント」

「カナタ、急用か? それとも……小官に会いに来てくれた……のか?」

「うん、サラちゃんに会いに来たで」


 サラちゃんだけに会いにきた訳やないけど、否定するのもなんかちゃうから肯定する。嘘はついてない。なんか嬉しそうやしそのままでいいと思う。


 理由を深掘りされへんうちに、スマホの電源ボタンを押すように強要する。当然の如く瞬く間に使い方をマスターしたサラちゃんは。


「これでいつでも、どんなに離れていてもカナタと連絡できるわけだな」


 目の前におるのに、たこ焼きさんがハートマーク作ってるスタンプと共に、『届いているか?』ってメッセージを飛ばしてくる。返信する間もなく、次の文が秒刻みで送られてくる。三通目くらいで目ぇ通すのやめた。

 なに? この国の騎士たちはかまちょ集団なんですか?


「目の前におるときは口で言ってくれたらええんやで? それと、今日来た理由やけどご飯誘おおもてな。おっさん連れて六時過ぎくらいに魔都来て……」


 言いかけて気付く。サラちゃん空間歪められへんやん。


「六時過ぎくらいに迎えいくわ。今日は従業員ちゃんたちの歓迎会みたいなんも兼ねてるから派手にやるで〜」

「そうか、それは楽しみだ。従業員の皆も喜ぶだろう、辛い思いをした子たちだ。盛大に盛り上げないとな」


 せやな、楽しみにしてる。なんて相槌打ちながら、別件について切り出す。


「相談やねんけどさ、騎士領におる騎士を借りることってできる? 最初ここ乗り込んだ時気になるこのおってな?」

「構わないぞ。特徴などは分かるか?」

「美人な青い髪の子」


 ――言うた瞬間、サラちゃんがムッとした表情を浮かべる。ちゃうちゃう、美人やから借りたいとかやなくて! いや、それもあるけど! 


「なんか不思議な感じしたんよなぁ、隙だらけやのに隙がないって言うか。俺の奇行にも動じへんかったし」

「ここの騎士たちは皆、相当な鍛錬を積んで――」


 サラちゃんがなんか言いかけた時、ドアが三回叩かれる。コンコンコンと小気味よく鳴った音から推測できることがある。この会話中に、このタイミングでのドアノック。十中八九、あの美人さんやろ。知らんけど。


「失礼します、北で目撃された魔族の件ですが……」


 やっぱあの美人さんやった。途中まで話しかけた美人さんは、俺の存在に気づいて言葉に詰まる。


「サラちゃん、この子! この美人さんを仲間に引き入れたいんよ」

「カナタ……」


 残念そうな目で俺を見るサラちゃんと、苦笑いを浮かべる美人さん。


「……こいつは、」


 言いかけるサラちゃん。それを遮るように美人さんが――


「――あなたと同じ、男だよ……僕は……」

「ふぇ……?」


 首を傾げながら耳に残る甘い声で、衝撃の事実を告白する。おかまちゃんか……?


「カナタ、こいつはグレイ・シルビア。騎士団員の中でも五本の指に入る実力者だ」

「魔王様って呼んだ方がいいのかな? よろしくね」

「カナタでええよ、美人とか言うてごめんな? グレイ」


 見た目の問題や、本人は女の子っぽい見た目気にしてるかもしれんからな。


「謝らなくて大丈夫だよ? 美人って言われて嬉しい。この前も嬉しかったよ、唐突だったけど」

「そ、そかそか。まぁええや、俺と一緒に北行ってくれへん? 団長とか副団長やと顔バレしてるし」


 腰まで伸びる青い髪を、クネクネと人差し指で回しながら照れてみせるグレイ。なに、ほんまに男?


 疑う俺にサラちゃんが、


「顔バレ? してたらまずいのか? というより、北の国に行くのか? 警戒しておくだけと言ってなかったか?」


 質問をいくつか飛ばしてくる。うん、警戒するだけって言うてた気がする。でもなぁ。


「暇やから行こおもてな。店は従業員ちゃんらだけでまわせるし俺の出番ないんよなぁ、よくよく考えたら他の国も支配しに行かなあかんし。あ、顔バレは絶対まずいで、北ともある程度親交あるやろ? そんな関係のやつが、魔族が目撃された現状に出向いたら共闘してとか言われかねへんやん?」


 共闘なんてなったら絶対まずい。問題が何個か出てくるからな、サラちゃんたちと一緒におったらお前誰やねんって思われるし。なんなら俺も戦え言われるかも、そもそもオオカミくんと遭遇したら魔王てばれて大問題やわ。

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