29 んー? ノリっしょ!!

「お客さんみんな帰ったみたいやし、早速プリンの作り方教えよかな」


 辺りをざっと見渡して、人が帰っていくのを確認してから、物語を次のフェーズに移す。いざ! プリンプリン!


「お願いします!」

「よろろ!」


 勢いよく元気に返事する十人プラス一人。


「なぜメアも」

「んー? ノリっしょ!!」

 

 当然やん、何言ってんねんって感じの顔で答える。いや、うんなんとなく察してたけどね?


「はーい、君は大人しくステラと建てる店について話しててくださーい」

「えー、ウチもプリン作りたーい! 可愛い子たちとお料理したーい」

「ステラ、連行」


 俺がそう言うって予測してたんか、瞬時に魔法陣を展開してメアと一緒に魔都に帰る。魔法陣に姿が消える前のステラの目から、「しっかり教えてくださいね」って圧を感じた。


 ――拠点内、キッチン。


「ほい! 説明はこんなもんかな、とりま一回作ってみよか。レシピわからんかったら冷蔵庫のとこ貼ってるから見に行ってな。その他のわからんことは聞きにきて、遠慮せんでええでー」

「はい!」


 ざざざっとレシピと器具の使い方を説明した俺に、従業員ちゃん達がおっきい声で返事する。そのあとすぐに行動する、元気やなぁ。


 拠点用に新しく使った蒸し器に、ペロペロさん。結構、直感で使える仕様やとおもうから説明いらんかなおもてんけど一応しとかなステラにしばかれるかも知らんしな。


「ペロペロさん、可愛い名前ですね!」


 綺麗な茶髪を耳にかけながら覗き込むローラちゃん。よかったなペロペロさん、美人に覗き込まれて。


「せやろ、いい名前つけれてよかたわ。で、プリン作り順調に行きそ?」

「はい、手順は覚えました! 今は順番待ちです」


 全員で調理できるほどのスペースはないから、さっき順番決めのジャンケンで全負けしてたな。惨敗しすぎて笑えたわ。下手したら俺より弱いんちゃう?


「そかそか、キッチンの改築考えとくわ」

「ありがとうございます!」


 しばらく暇そうやし俺は魔都に戻ろ。

 瞬時に作った呼び出し機をローラちゃんに渡す。よくショッピングモールのフードコートで渡される形のやつ。これは俺製やから、ニコイチ仕様でボタン押したら片方がブーブー震える仕組み。こんなアナログな呼び出し方は今日でおさらばや。



 ***



 ステラの部屋。


「お早いお戻りですね、ちゃんと教えたんですか?」

「教えた教えた、今作ってはるわ。俺は暇やから呼び出し機だけ渡して戻ってきた」


 ジト目で疑いかけてくるステラに俺は、呼び出し機の片割れをひらひら見せながら説明する。俺そんな信用ない? 


「それに、俺はやることあるしな! 時間の浪費してる場合じゃない!」

「やること……?」


 なんのことか理解してへんステラに、俺はあるものを見せる。さっき届きたての最新兵器。


「作ったんですか!?」

「いや、これまだなんも入ってない箱って感じ。さっき死者職員から脳内に連絡あって、届いててん俺の部屋に。日本につながってないし既存アプリは使われへんけどな」


 俺の手の中にあるのは、一台のスマートフォン。最初から作んのは結構きつかったから、死者職員に送って〜って頼んだら一台だけ送ってくれた。アプリ開発とかはイマジネーターで頑張ってって言われた。


「なるほどこれを元に完成形に近づけるんですね」

「そそ! 連絡ツールとカメラぶち込んだら、複製して城のみんなと従業員ちゃんたちに配るわ」


 これで連絡スムーズなるし、動作の安定が確認できたら販売してこの世界の文明レベルも上げれる。これが俺のサクセスロード。

 俺は早速、ステラのベッドサイドテーブルにスマホを置く。


「ステラ、カメラの画素はええに越したことないよな?」

「ですね、連絡ツールも使いやすいのがいいです!」


 ステラの要望を、脳内で処理してからイマジネーターで実現していく。

 カメラの画素はよう分からんから最高画質をイメージする。連絡ツールは、某緑のアプリをイメージ。で、ここが迷いどころ。


「ここ電波飛んでないんよなぁ」

「まぁ異世界ですからね、イマジネーターで改変しすぎて異世界感はどんどん薄れていきますが」


 そう、ここは異世界。そもそもがスマホを使う環境じゃない。本来は異世界の生活スタイルに合わせるべき……。あ、そういうことか。

 俺は、手をスマホにかざしたまま電波問題の解決策を思いつく。よし、これでいこう。天才か?


「機能ぶっこむ作業はこれで終いや! ステラ、あれある? シムとおんなじ大きさの板的なあれ」


 機能ぶっこむ速度を早くするために、イマジネーターで使う魔力を倍増で直流ししてた手をスマホから離す。ちょっと魔力減ったかもしれん。


「プラ板ならありますよ? カットすればシムのサイズにできます」

「お! 助かるわ、ありがと」


 ステラが引き出しから取り出したプラ板をもらって、スマホから抜いたシムトレイにはまるサイズに切り抜く。


 その切り抜いたプラ板に、俺の魔力を込めたイラストを刻んでいく。かわいいかわいいたこ焼きのイラスト。普段目につかんとこもこだわるプロ魂、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 そういえばシムてスマホの熱で熱なったりするんかな、もしそれでプラ板縮んだら嫌やな。念の為耐熱加工して縮まらんようにしよ。


「よしこれで多分使える」

「プラ板にイラストをつけた理由って?」

「説明しよう! これは電波とか充電問題をまるっと解決してくれるたこ焼き様マーク。このたこ焼き様マークは俺の魔力で刻むことによりイマジネーターが発動し、電波の代わりに魔力で通信できたり、魔力を流すことで充電が完了する万能マークなのだ!」


 まぁびっくり! みたいな顔したステラが、「さすがカナタくんのイマジネーターですね」って頭をなでなでしてくれる。ねぇねぇ、さすがカナタくんだけでええんでね? その言い方やとイマジネーターだけがすごい的な意味合いなるやん! 実際そうやけどさ!


 いや待って、これは凄まじい想像力とか妄想力がいるから思春期拗らせた、妄想大好き童貞の俺しか使いこなされへん! ……って誰が妄想大好きや!

 

「でもカナタくん、必要魔力はどれほどですか? 私たちはある程度多くても大丈夫ですが、従業員ちゃんたちは魔力が少ない子もいるのでは」

「めっちゃ少量でいけるで。俺もその疑問あったからな、そこは配慮してるで」


 またステラは俺の頭を撫でる。今度はちゃんと俺を褒めてくれてる。

 俺のなにかじゃなくて、俺本人が褒められたことに安堵しながらシムトレイに、プラ板をほりこんでいく。


 カチッとハマる音を確認して、電源ボタンを長押しする。

 白く発光する画面、表示される歓迎のメッセージ。

 

 ――瞬間、ステラが吹き出す。


「ど、どうして最初に表示されるメッセージが、『こんにちわ』じゃなくて『まいど!』なんですか! 思わず笑っちゃいましたよ」

「いや、ハローとかこんにちわ。やとなんかあれやん。個性だしてこ?」


 パロってるだけやんけ! 的な視線を受けながら、俺は画面を上にスワイプしてホームを開く。紫に改変されたアイコンのチャットアプリに、カメラマークのアイコンのカメラアプリ、それとよう分からん花かなんかのマークのアイコンが特徴的な写真アプリの三つが並ぶホーム画面。


 まずチャットアプリがちゃんと開けるか確認する。アイコンの下に書かれたアプリ名、『魔ット』っていうネーミングセンスに感動しながら、


「お! ちゃんと開けた! 連絡先交換用のコードも一応ちゃんと出るな」


 アプリが正常に動くことを確認する。そんな俺の後ろから、ステラが不思議そうにひとつ質問を飛ばす。


「魔ットって?」

「よくぞ聞いてくれた! “魔” 王が開発したチャ “ット" アプリ。略して魔ット! シンプルかつわかりやすい略称。これぞ魔王クオリティー!」

「メアちゃんの、魔オーナーくらい雑くないですか? 実は魔オーナー気に入ってるでしょ? カナタくんとメアちゃん感性似てますし」


 頬を若干膨らませた感じのステラに、図星を突かれる。せやな、認めたくないけどメアと似てるんよな。笑いのツボとか結構一緒。

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