28 聞いた? オーナーやってさ、なんかむず痒いな
***
「拠点の厨房にでっかい冷蔵庫おいてるからそこにいれといて」
「り! まっかせて!」
軽快なステップで、魔王城の調理場からタタタと拠点まで歪めた空間に飛び込む。一箱にプリンが十個入った段ボールを二個持って。吸血族ってどちらかというと非力なイメージ合ってんけど全然そんなことなかったみたい。
「人手、一人増えてよかったですね。メアちゃんが力持ちだからか、作業スピードも心なしか早くなってますね」
「せやな、早なってる。知らんけど」
この会話の間に、バッバッと往復したメアはプリンを運び終えてた。ステラはええとして、男の俺一個しか運んでへんって由々しき事態やぞ。
「メアが四つ運んだから俺らが運んだん二個やん? でさ、一個ずつやん? 男として俺の存在価値なさすぎん?」
「まぁ……カナタくんはそれでいいんじゃないですか?」
どういう意味や。俺にはなんも期待してへんってか、悲しいです。鍛え直そかな、滝行とかトライしよ。まずはやっぱ精神面よな。
城の調理場から、飴ちゃんがどさっと入った段ボールを拠点まで運ぶ。飴ちゃんも六十個あれば結構ずっしりしてる。
「――おはようございますオーナー。本日もよろしくお願いします」
「おはようさん! 今日は整理券分販売したら店しめて、プリンの作り方教えるつもりやから覚えといてな」
「はい!」
拠点にたどり着いた瞬間、十名の従業員ちゃんが出迎えてくれる。眩しいくらい輝く美少女たちの笑顔。くっ! 目が……。
「聞いた? オーナーやってさ、なんかむず痒いな」
「彼女たちはほんと優秀ですね、教えたことをすぐ取り入れてくれます」
「ステラがオーナーって言葉仕込んだんかい」
キッチンに進みながら、オーナーって言われた嬉しさを共有してた。なんか、意図せず成り上がった感あってめちゃんこ嬉しい。
キッチンにつながる扉を開けて、飴ちゃんを机にどさっと置く。これで事前準備は完了、あとはプリンと飴ちゃんを紙袋に入れていく。保冷剤も。
パパッと終わる作業は俺がイマジネーターを駆使して、従業員ちゃんたちの負担を減らす。
「メア、ちょい冷蔵庫から離れててな」
冷蔵庫のそばにおったメアに一声かけながら、俺は右手をスッとふって一瞬で机の上に飴ちゃんを並べる。
「おお〜すっご! 魔王様さっすが」
「まだまだこっからやで」
さっきとは違う方向に手ぇふったら、冷蔵庫からプリンが出てきて飴ちゃんの横に並ぶ。まるで自我があるみたいな感じで。
俺のイマジネーターは使い方次第で、プリンを擬人化させることも可能なんちゃん? いずれプリンが、「私を食べて?」なんて言うてくる日も近いのでは? く〜! 自分の可能性が怖いぜ! いろんな意味で。
おっとこんなこと考えてる暇ないわ。
「よっこら……」
上に掲げた手を、ゆっくり下におろしていって。
「……せ!」
胸の前で軽く握る。指揮者みたいな感じで。すると、なんということでしょう! 机に広げられていたプリンと飴ちゃんが、匠の手によってスッキリと紙袋に収まりました。
プリン、飴ちゃんが一つずつ入れられた紙袋の上に浮かぶのは保冷剤。匠はここからなにをするのでしょう。
「当然入れる」
脳内ナレーションに合いの手を入れながら、指をパチンと弾く。無重力みたいな感じで浮いてた保冷剤は、重力が戻ってストンと綺麗に紙袋に入っていく。
俺の合いの手にキョトンとしてるステラとメア。そっか脳内ナレーションは周りには聞こえへんのか。俺独りごちってただけかい、恥ずかし。
「カナタくん、もうできました?」
「お、おう! できたで!」
恥ずかしなぁて考えてる時に、急に話しかけられたらテンパってまう。ま、なにはともあれ完成や! 店のショーケースに並べたら終わり! 早速ならべにいこか。
「魔王様やっべ〜! 超有能じゃんそれ!」
「俺は気づいたんよ、こうやってイマジネーターで浮かしたら効率よく運べるって」
そう、俺は悩んだ。プリン運んでる時に。男やのに一個しか持ってへん、メアがめっちゃ動いてんのに俺が省エネにしか行動してへんかったことに。
んで、さっき気づいた。無意識に保冷剤を浮かしてるときに。これを応用したら、省エネでも一気に物の運搬できることに。
「カナタくんたまに頭の回転速度早くなりますね」
「せやろせやろ〜?」
「たまにって言われてんのにめっちゃ喜ぶじゃん。ウケる」
褒められてるってことでええんや、たとえどんなに含みのある言葉でも素直に喜んどけば人生は円満に進んでいく。
ケタケタ笑うメアに、「楽観的に生きるのが人生の攻略法と見つけたり」って仙人風に言い放つ。「それな!」って共感するメア、そういえばこいつすでに楽観的やったな。
――キッチンから店に移動したら、従業員ちゃんたちがめっちゃ丁寧に床掃いたり、ショーケース拭いたりしてくれてた。
「オーナー、これここに並べるんですか?」
「そそ、ショーケースのドア開けてもらっていい?」
俺と真っ先に目が合った、おっさんの娘。ローラちゃんが、さっとショーケースのドアを開けてくれる、そこにすすすーっとプリンを入れていく。
「あ。そういえばおっさんが、しばらく会われへん言うてたで。寂しがると思うけど説得しといて〜とも言うてたわ。寂しい?」
「まさか、そんなことないですよ。お友達もいますし、カナタさんも来てくれるので」
さらっと否定する。もう他の従業員ちゃんとも仲良くなってるんやな、ええことや。従業員同士がギスギスしてたら、店の雰囲気悪なるしな。
「そかそか、でも、それおっさんには言わんといたってな? 多分めっちゃへこむ」
「ですね……」
苦笑いを浮かべるローラちゃん。過保護な親を持つ子供も大変やな。ま、嫌われてるわけじゃなさそうやしええか。
***
「本日分完売です! 明日からは十時からの営業で先着順です。販売数は十分用意しますが、売り切れになる場合もございます。ご了承ください」
「あと、いろんな人に食べてもらいたいからしばらくはおひとり様一つでオネシャース! ウチとの約束ね〜」
開店して十分で、整理券分プラス多めに用意してた分がショーケースから消えた。んで今従業員ちゃんたちが、明日以降の営業について帰り際のお客さんらに説明してる。一人従業員じゃないの混ざってるけど。
こういう営業時間についてとかはネットあれば楽でええねんけどなぁ。一応外出て割と大きい声で言ってもらってるから周りにある程度聴こえるやろうし、お客さんに広めといていうとるけどどんだけに広まるかなぁ。ちゃんと広まるかなぁ。
「もう少し言葉遣いを……」
「まぁええんちゃう? 言うてることはまともやし、フレンドリーな方が馴染みやすいんちゃう? 知らんけど」
メアの言葉遣いを心配するステラやけど、俺は全然ええと思う。なぜならこういう街のスイーツ店的な立ち位置の店は、軽く話せるくらいがちょうどええおもてるから。
「魔王様〜! お客さんみんな、明日も来るって〜! これは行列確定っしょ!」
「せやな、忙しくなるで! 従業員ちゃん達」
「頑張ります!」
元気に返事してくれる従業員ちゃん達の本音を代弁するみたいに、ステラが。
「オーナーが一番頑張るべきですね。ファイト!」
にっこり笑顔で言い放つ。ステラがわざとらしく笑った時はだいたい俺がふざけた時かやらかした時。無言の圧力的な感じで怖いんよなぁ。
「魔オーナーの活躍して期待してるし! ウチも手伝うっしょ!」
「造語のクオリティーが低い! まあなんでもええや、めっちゃこき使うから覚悟しときやー」
「シンプルでいいじゃん! 魔王なオーナー。てかほどほどで頼むし」
メアの雑造語にツッコミつつ、密かに気に入ってたりする。絶対調子乗るから、褒めたりはしやん。でもええもんは正当な評価受けるべきよな、でも真正面から褒めるのは嫌やから今度なんか親切にしてみよ。そうしよう。
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