26 なんか賑やかすぎね!? パーティーでもやってる感じ? テンション上がる! うぇーい!!

「スープ入れて〜、麺ドーン! トッピングバーン! かーんせい! セイセイセイ!!!」

「おー! 無駄にハイテンションやけどちゃんとラーメンや」

「そりゃそうじゃんっ! さ、早く食べて! まじうまたんだから!」


 ラーメン鉢にそそがれた、綺麗な色のスープ。だしは鰹か? ほんのり魚介風の醤油ラーメン。麺も、雑に湯切りしてたのにちゃんと切れてる。チャーシューは手作りみたいやな、分厚目に切られたチャーシューの存在感がやばい。三センチくらいのチャーシューがドドンっと二枚、もはや障害物やろ。


「チャーシューはウチ特製なんよ! ステちゃんに聞いたレシピをアレンジした感じ! この厚切り二枚のせが邪魔すぎてまじウケるよね」


 腹抱えて笑うメア。わかってんのに乗せんのはエンターテイナーやな。さっすがやわ。


「でもインパクトあってええな! いただきます!」


 まずはレンゲでスープをすくう。ふわっと醤油の香りが鼻に届く。口の中でじんわり広がっていくスープで、俺の食欲にエンジンがかかる。こんな時間やのに。ステラにバレたら、「炭水化物の過剰摂取は禁止です!」って言われそうやから内緒にしとこ。


 スープをもう一口含んでから、豪快に障害物チャーシューに食らいつく。箸で持った時の重さと、かじった時の満足感がすごい。


「うま! このゴツさのチャーシューやと脂がドン! ってくるおもたらめっちゃスッキリした味わい」

「脂マシマシだとこの時間マジきついじゃんって感じでさ? あっさりした感じ追求していったらこの蒸すスタイルになった的な! ウチの、胃への配慮やばくね?」


 客のニーズに応える店主の鏡。あれこっちのチャーシュー色違うな。

 色の違うチャーシューに、なんかこのラーメンの必殺技めいた何かを感じる。興味津々で持ち上げた瞬間、二枚目のチャーシューの凄みに気圧される。めっちゃ手ぇ込んでんな。


 俺が驚いてんのに気づいたんか、メアがにやりとわらって。

 

「気付いたっしょ! 秘密兵器!」

「燻製はチートかよ! こんなん匂いにワンパンされてまうわ!」


 言いながら、チートチャーシューに一口挑む。持ち上げただけで香りが暴発してたチャーシュー、そりゃ噛んだら爆散しますわ。俺の舌は、チートチャーシューに成すすべなく完敗した。


「ウチの自信作うまいっしょ! 燻しすぎないようにするのがコツなんよ、あくまでほんのり燻してるのがわかればいいかんね」

「スープとの相性もいい、ここまで調整すんの大変やったやろ。頑張ってんな」

「まぁじで大変! 特に麺がやばたんなんよ」


 そう言うメアは、麺を啜るジェスチャーしてからラーメン鉢を顎で指す。自信に満ち溢れてるんやろうな、めっちゃニコニコしてる。これは期待値高いな。なんやろ麺のコシに自信あるとかかな。

 麺をスープから掬い上げて、軽く空気を纏わせる。スープの風味をより味わうため、持ち上げたらすぐに口に運ぶ。猫舌やったら自殺行為。


「……んん? なんやろこれ、もしかして柚?」

「ピンポーン! そう! 魔王様さすがだし! 柚をちょーっと練り込んで風味を楽しめるようにしてんの」

「これうまいな、スープのあっさり醤油がこの麺を引き立ててんな。これは人気なん納得やわ」

「やった! 褒められちった!」


 ばるんと胸を弾ませながら、喜びを飛んで表現するメア。


「で、結局豊胸は?」

「だからしてねぇっつの! しつけぇ! 成長期なんだよ! つか、ちょっっとしか変わってねぇじゃん!」

「そう? でも最初に会った時から比べたら大分でかなってない? まな板やったやん」


 アリアちゃんに匹敵するレベルの貧乳ちゃんやった。普段は怒られるからアリアちゃんには絶対貧乳関連の話しやんけどな。一回ぽろっと言うたらガチギレされた。


「うっせ! そりゃ前はちいさかったけどさ……ほら、その……毎日……あの、あれ。してる……から」


 赤面しながら、ゴニョゴニョ言うメア。俺の聞き間違いか? やっぱあれは迷信じゃないんか。


「大胆やな、胸でかくするために毎日おせっせしてるって。聞き間違えかと思ったわ。胸って揉まれたらほんまにデカなるんやな」

「言ってねぇし! 聞き間違えだし! どんな思考回路してるし! バストアップマッサージだし! 言わせんなし!」


 語尾がうるせぇ。なぜ"し"で終わらせたがる。てかバストアップマッサージってそんな効果あるもんなん? あ、おもろいこと思いついた。


「こんどアリアちゃんにバストアップマッサージ教えたってや。どんだけ成長するか興味ある」

「アリアってあの騎士っしょ? 別に教えてもいいけど、どれだけ成長するかなんて絶対本人に言っちゃだめだかんね!?」


 念を押してくるけど、関西人にそれは逆効果なんやで。でもさすがに相手がアリアちゃんは身の危険あるな。やめとこ、ノリは大事やけど命の方が大事や。


 スープまで綺麗に飲み干した後のラーメン鉢を下げてくれるメア。ふー、満腹やわ。そろそろ城戻ろかな。


「店何時に閉めんの?」

「んー、もう閉めよっかな。五時前だし」


 こういう屋台って閉める時間は、日によって変えてんのかな。大変そうやな、夜中に店開くってのも。


「手伝うわ、さっさ片付けてはよ城もどろ」

「え、あれ冗談じゃなかったの? マジで戻ってオケな感じ?」

「そんな冗談は言わんわ。ほらはよ片付けんで」


 メアは笑顔を浮かべて、「まじ神!」って言い放つ。魔王なんですが。



 ***



 案外スッと終わった後片付け。鍋とか食器は洗って直すだけ、テーブルは拭くだけ。そして驚くべき点は、屋台そのものはどうするか。俺は引っ張って移動させる式やとおもてた、タイヤ付いてたし。


「吸血族って影操れるんやな。屋台消えた時びびったわ」

「ちっちっちー! 吸血族全員が出来るって訳じゃないんよ、ウチがやばたんなだけっしょ!」

「実際すごいんやろうけど、メアのノリが軽すぎて大したことないんちゃうって錯覚してまう。不思議やな」

「不思議で済ますなし!」びしっと俺の前に指を突き出し、「ウチはやばたん! どぅーゆーあんだーすたんど?」


 そんなんどこで覚えたんや。ぎこちない発音やけどこれ英語やんな、この世界に英語とかいう概念なさそうやしステラが教えたんやろうな。頭ええし。これなんて意味?


 英語の意味はわからんけど、こう言うてたら大体どんな状況も乗り切れる。


「はいはい、すごいすごい」

「適当すぎんじゃん! ウケる」


 わははと豪快に笑い声をあげるメア。なにがおもろいねん。最近のわかもんの思考は理解できんのぉ。


「あ、せや他の連中って今どないしてんの?」

「あー、それな? それぞれ散ったんじゃね? って感じなんよねー。ウチが最初に去ったからさぁ。あ、でもマギちゃんはいっしょにきたよ。途中ではぐれたけど」


 ぐいーっと伸びして、過去のことはどうでもええや的な感じで話す。マギって確か、竜族のマギー・フォーゼやったっけか。ほぼ全裸みたいな子。


「まぁ追々探すか」

「り」


 ふらふらと魔物ストリートの見物しつつ、城にもどってたら違和感に気付く。城周りがなんかやかましい。なんかが動き回る、ごごごごぉって感じの音が響いてる。何事!?


「なんか賑やかすぎね!? パーティーでもやってる感じ? テンション上がる! うぇーい!!」

「はーい、ちょっと黙ろな〜」


 明らかにおかしい。敵襲か? どうする、ステラまだ寝てるやろうし蛇女ちゃんも流石にまだ寝てるか? 念送るのも無意味そうやしどないしよかな。

 メアが操る影に潜みながら、どうするべきか考える。何人おるかわからんし、それ以前になにが動き回ってるかすらわからん。人ではなさそう。

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