24 ステラ嬢、見事な早技でい!

「さ、気を取り直して焼いていきましょう! カナタくん最初は普通ので」

「せやな! 生地とか適当に流し込んでいくからいい感じでひっくり返してなぁ」


 目の前に置いたたこ焼きピックを手に取った各々が、わかったって返事する。シリコン製たこ焼きピックの初仕事、くねっと曲がんのにちゃんと機能するんか? 無理なら竹串使うか。


「坊主、これひっくり返すってどうするんでい?」


 ちょい焼き目ついた生地を不思議そうに見つめるおっさんに、俺とステラより先に口開いたんは。


「周りからピックで地道に外してから回すのよ」

「なるほどな! ありがとうアリア嬢。アリア嬢はたこ焼きってのを食べたことあるんだな」

「まぁね。無理矢理だけど」


 苦笑いするアリアちゃん。なんで知ってんねやろおもたけど、俺らアリアちゃんの前で何回かたこ焼きやってたからそん時みて記憶に焼きついたんやろか。記憶力ええんやな。


「あん時めっちゃ熱かったやろ? ちゃんとうまさ伝わらんかったやろうし今回はしっかり味わってな」

「そうね、味わうわ。だからもう放り込まないでよ? 熱すぎたんだから」


 スパッとたこ焼きひっくり返すアリアちゃんは、俺の顔を見もせずに言う。なんかほんまツン要素薄れてる気がするし、俺の扱いも雑になってる気がする。キャラ薄れてんぞい! サラちゃんの小官呼びのインパクトに負けてええんか。それでええんか! もっと頑張れ! 


「カ……カナタ、これはどうすれば?」


 本来綺麗な丸になるはずのたこ焼き。せやけどサラちゃんが持ってるピックが刺してる枠のたこ焼きは、すんげぇぐちゃぐちゃ。やばいほどぐちゃぐちゃ。もはやもんじゃやきかな? ってくらい。


 サラちゃん、これ以上キャラ付けしてアリアちゃんを追い詰めるのはやめたげて……! おっぱいもそこそこあって、一人称の癖も強いのにさらに料理下手やて!? しかも大した調理じゃないのに!? ひっくり返すだけやのに!? 弾丸替えるのバケモンの域やし、手先器用って自負してんのに。まさかのたこ焼きひっくり返すだけでここまで失敗? もしかしてドジっ子属性隠し持ち……?


「生地まだ緩かったんちゃうかな、次はもうちょい固まってから回してみ? 多分上手くいくわ」

「承知した、じっくり待つことが大切ということだな」

「根気があればこの失敗作も丸くできますよ」


 ステラは目にも止まらぬ速さで、もんじゃ焼きを球体へと戻していく。どうやった? あの惨状を打開するとか、本場生まれの俺でもできへん。負けた……。


「ステラ嬢、見事な早技でい!」

「ママすごいなの!」

「ステラ……どこでそんなスキルを」


 ふふん、と胸を張るステラ。どうやら答える気はなさそうや。秘密主義者め。

 

 ――わいわい騒いだり、リラが火傷したり、蛇女ちゃんの谷間にたこ焼き落ちて悶えたり。それ見たアリアちゃんが胸の大きさに嫉妬したり。色々あって数時間が過ぎてた。


「いやぁめっちゃ秒で時間過ぎたなぁ」

「ですね。楽しい時間はあっという間です」

「こんなに笑ったのは久しぶりでい! さて、十分楽しんだことだし。そろそろ国に戻ろうか」


 そう言うおっさんに同調するように立ち上がったサラちゃんが、


「そうですね、もう少し北の国と目撃された魔族について調べておきたいですし。あ、そうだカナタ。これを」


 懐から取り出した何かを、俺に差し出す。カードか? 免許証くらいのサイズ感。なんやろあれ。

 受け取ったカードには、俺の名前と見覚えのない単語が書かれてた。ミレッジ? 


「これなに? 初めて見る単語出てきてんけど。ミレッジ」

「それはこの国の住民だと証明するものだ。小官がぎぞ……作成しておいた。それにミレッジは拠点がある村の名前だぞ?」


 今偽造って言いかけたでこの副騎士団長。っちゅうかあの村名前あったんや、まぁ冷静に考えたらそうか。この国は村の集まりや言うてたもんな確か。何個あるんやろ。


「あ、私のも偽造してくれたんですね。ありがとうございます」


 ぴょこっと俺の後ろからカードを覗き込むステラ。こいつはっきり偽造って言いやがった。そこはぼかしとかな悪徳ななんかやと間違われんぞ。あながち間違いじゃないねんけどな。国に魔族匿ってる訳やし。バレたらほんまやばいと思うんやけど、なんかこの村ミレッジの人らめっさ歓迎してくれるよな。すんごい人らやわ。


「これがあれば、他の村の人間に疑われたとしても問題ない。安心して滞在できるぞ」

「色々あんがとうな! さっすが副騎士団長! 頼りになるわぁ」

「俺の存在意義ってなんだろなぁ」


 ボソリと呟くおっさん。わかるわかる、大体上が俺らみたいなふざけたやつなら下の人らが超人になってくんねん。ステラなんて最近、超人感にさらに磨きかかってきとる。


「おっさん、所詮団体のトップなんてお飾りや。だから俺らはこれでええんや、やるべき時に行動できれば。ま、おっさんはしっかり働いとるやん。サラちゃんが超人すぎるだけや」

「確かに、サラ嬢は超人だな。ステラ嬢も」


 お飾りトップ同士だべってたら、サラちゃんが「そろそろ行きましょう」っておっさんに話しかける。おっさんが返事したんを確認して俺は、空間をぐいっと歪める。


「あんま無茶しなや? オオカミくんなんか企んでるかもしれんし、深追い禁止やで」

「ああ、承知した」

「坊主、しばらく騎士領で調査を進めるからここにも拠点にも顔を出せねぉと思う。だからローラを頼む。俺に会えなくて寂しがると思うが、説得しといてくれ」


 おっさん、多分それ杞憂。絶対寂しがらんと思う、めっちゃ同僚おんのに寂しがるとか絶対ない。おっさんが娘の可愛さとかくどくどプレゼンしてるけど、サラちゃんは無視して騎士領戻った。おいサラちゃんこれ連れて帰ってくれよ。


「はいはい、可愛い可愛い。じゃ、おやすみー! 娘ちゃんにはちゃんと伝えとくから」


 歪めた空間におっさんを蹴り入れる。叫びながら空間にひきづり込まれていくおっさん。娘ちゃんも大変やろうな父親があんな熱狂的やと。


「余程離れ離れの期間が切なかったんですね、ジークさん。ローラさん愛されてますね」

「せやな」


 空間歪めてた方向見てしみじみする。俺も娘できたらああなんのかな、自重せな嫌われそうやな。気ぃつけよ。


「さ、片付けよか」

「パパッと終わらせちゃいましょう。明日は朝早いですし」


 ローテーブルに置かれた薬味やら食器やらをバッバッと片付けてく。キッチンとリビングを縦横位無人に駆け巡る。明日は整理券配った人ら用のプリンを開店時間の一時間前から販売する。せやから早めに魔都から拠点にプリン運んどかなあかん。従業員ちゃんらにプリンの作り方教えやなあかんし、明日は整理券分だけ販売したら閉店しよ。


「パパ、ママ、手伝うなの……」

「リラ、おおきに。でも片付けはパパらに任せて寝とき、良い子はおねんねのお時間やで」


 蛇女ちゃんのスカート掴んで、眠そうに目ぇ擦りながらきたリラ。もう十一時やから相当お眠やな。ふらふらしてる。ステラがリラに近づいて、「気持ちだけでありがたいですよ」って言いながら頭撫でてる。


「蛇女ちゃん、リラのことお願いしていける?」

「ええ、お任せください」


 そう言うた蛇女ちゃんは、流れるような動作でリラを姫抱っこする。さすが蛇女ちゃん、リラとずっとおってくれてるだけのことはあるわ。うとうとしてるリラを一切目覚めさせることなく俺の部屋を後にする。ベビーシッターなれると思う。


「もうちょいで片付きそやな」


 物が減ってきたローテーブルみてから、キッチンに視線を移す。さっき食洗機にぶっ込んだ皿そろそろ洗い終わるかな。

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