23 なんだみんなドリアン嫌いなのか?

『ステラ、何個用意せなあかん?』

『五十ですね。ファイト!』


 ステラに念送って、何個用意せなあかんか確認する。おぉ……。俺一人じゃほんま無理。さ、パパッと作ろ。


「ほな、俺は調理場いくわ。なんかあったら呼びにきて。西の国戻るのはもうちょい待ってな、ステラが営業権問題なんとかしてくれたサラちゃんにお礼したい言うてたから。おっさんにもお礼せなあかんしな」

「気を使わせて悪いな坊主。ところでステラ嬢はどうして俺じゃなくサラ嬢に聞きに行ったんでい?」


 不思議そうに聞いてくるおっさんやけど、俺にはわかる。なんで騎士団長のおっさんやのうて副のサラちゃんに聞きに行ったんか。


「おっさんそういうのあんま得意そうじゃないからやろ?」

「ぐっ……た、確かに得意じゃねぇなぁ」


 せやろな。そう思うわ、得て不得手があるから気にせんでええでおっさん。ぐ〜っと悔しそうなな表情を浮かべるおっさんを温かい目で見てから、俺は調理場に向かう。


 ***



 ガシャガシャ調理器具が騒音を奏でる。なぜなら――


「――魔王様! プリン飴ちゃん六十、用意できました! そちらはどうですか!?」

「やべぇもうへろへろや! さすがにプリン六十個はしんど。念の為多く用意しとるけど心折れそう」


 プリンの用意に追われてたから。これはレベチすぎんのよ。今からでも応援よぶか? でも呼びにいく時間勿体無い気もすんな。どないしよ、めっちゃしんどいしな。応援よぼ、そうしよう。


「――カナタ、どういう状況?」


 超絶ナイスタイミングで、調理場のドアが開く。その場におったんは、すっかり存在を忘れてたアリアちゃん。まだ寝ぼけてるんか、寝癖もそのままで目の焦点が若干定まってない。


「アリアちゃん!? もう大丈夫なん? じいさんにぶっ飛ばされて気絶してから、長いこと見かけへんかったけど」

「あれからずっと気を失ってたみたいなのよね。目が覚めたら部屋にいたのよ、私が寝てる間なにかあったの?」

「世界征服進んだで。今はプリン作ってる」


 キョトンなアリアちゃん、なんやどないした。


「カナタ……ここまで頭が悪いなんて……可哀想ね」

「やかましわ! ちょいこっち来て、記憶流し込んだ方が早い」


 流れるようにディスられたけど、俺に言われるがまま従うアリアちゃん。毎日乗り込んできてた頃に比べたらめっちゃ素直な子になってってる。もうちょいツンツンしててええんやで?


 俺はアリアちゃんの頭をがしっと掴んで、手のひらから魔力を流し込むイメージで記憶をアリアちゃんの脳に書き込んでいく。いっけん危険そうに思えるこの行為。でも安心してください、ちゃぁんと安全なんです! なぜならご都合魔法だから!


「ちょっと? 婚約って?」

「なに、そこは絶対ひっかからなあかんとこなん?」


 なんかことごとく婚約について聞かれてる気がする。アリアちゃんは、止めに入る料理長を振り切って俺の肩をぐいっと掴む。


「引っかかるでしょ! あえて今!? って感じよ?」

「まぁ細かいことは追い追いってことで! 今はプリン! 手伝って?」


 話を強引に逸らす。そしてしれっと手伝ってもらえるようお願いする。あざと可愛い男子を憎んでた俺やからできる、この可愛いお願いの仕方。合わせた両手の指先で顎に触れて、頭の角度は四五度。上目遣いを意識して、唇をちょっと前に出すアヒル口も忘れずに。


 このポーズで、疑問符つけてお願いされたら抗えるやつおらんやろ。俺の勝ち確。


「わかったわよ、手伝う」


 ほらぁ、やっぱこのあざと可愛い戦法は無敵や。これ生前にやっとくべきやった、モテモテ間違いなしやったやろうに。


「でも、その顔は気持ち悪いから今すぐやめて」

「はにゃ?」


 シンプルに優しい子やった。あざと可愛いからじゃなくて、アリアちゃんが優しい子やから通用したんか……なんか、うん。わかってたけどね!? 俺は可愛いというよりは勇ましいもんな!? 勇ましすぎるからアヒル口は似合わへんってことやんな!? わかる〜!!


 ――俺のあざと可愛さが惨敗した数分後。


「ほな、卵液流し込んで蒸し器にほりこんでってもろてええ?」

「わかったわ」


 頬にヒリヒリした痛みを感じながら、アリアちゃんに指示を送る。え? なんで頬がヒリヒリ痛むかって? そりゃもちろんビンタよ、バチーンっと打たれた。


 俺が生まれた国には、伝統的な衣装があるっちゅうて裸エプロンの説明しながらふりふりのエプロン渡したらおもっきりビンタされた。なんでやろう。なにか間違ったことしたのだろうか。不思議やな。


「料理長、もう休んでな。急に手伝ってもろてごめんやで」

「いえいえ、とても光栄でございます! またなにかありましたらお呼びください!」


 料理長は爽やかな笑顔を浮かべて、深々と頭を下げる。そのあと、スッと調理場から出て行く。おつかれさん、ゆっくり休んでな。


「カナタ、入れ終わったわ」


 急いで俺が作り上げた、バカデカ蒸し器を覗き込むアリアちゃん。透明になってる覗き口から見える六十のプリンはそりゃもう壮大。プリンプリン。


「おおきに! めっちゃ大変やったやろ?」

「ええ、でもいい経験になったわ」


 こういうなんでも前向きに考えれる子が世の中に溢れかえったら、戦争なんてもんは起こらんのやろうな。ま、アホな人間はどんな世界になっても一人は沸くやろうな。んでそれが伝播してって腐敗が進んでく。もうね、その中でどんだけクズになれるかが人生輝かせるコツか? とすら思う。



 ***



 一通りやること終わったあと。


「とりまお疲れー! みんなありがとうな!」


 俺の部屋に集まるサラちゃん、おっさん、アリアちゃん、蛇女ちゃん、リラ、ステラ。

 お礼兼ねてのタコパ開催! サラちゃんは営業権ので助けてくれたし、おっさんはいろんな雑用してくれてた。

 蛇女ちゃんはプリンの最終調整付き合ってくれたし、さっきリラは店の看板作ってくれた。店の名前は『甘いお店』になった。リラが決めたならこれが一番いい、最高にいいネーミング。


 みんな協力的でありがたい。面倒な細かい作業はステラがこなしてくれてるし……このままでええんか俺!? ま、いっか。


「今日は私とカナタくんが、皆さんに最高のたこ焼きを振る舞いますね!」

「めっちゃ材料用意してるからじゃんじゃん食ってな!」


 ローテーブルのど真ん中に置かれたたこ焼き器の周りを囲むように置かれた、生地とぶつ切りされたたこやらネギやら生姜やら。やっぱ家でたこ焼きやるっちゅうたらいろんなんぶち込むんが醍醐味よな。チョコレートとか塩からとか。


「カナタ……たこ焼きにいろんな物を入れて楽しむって方針はわかったけど、これを入れるのはどうなの……?」

「あーこれは俺も初めて試すな」


 アリアちゃんが指さすのは、一口くらいに切られたドリアン。正直失敗する未来しか見えへんけど、何事も挑戦する精神が大切。


「パパ! これはさすがにダメだと思うなの!」

「カナタ、さすがに小官もダメだと思うぞ」

「カナタ様? これは本当にやめませんか?」


 おっと総スカンやん、これはやっぱあかんかったか。仕込みの段階でステラにも止められたな、この世界きて見つけたから買ったもののどう食べるか迷ってた食材。ちょうどええ機会やおもてんけどなぁ。


「せやなぁドリアンはまた別の機会にしよか。おっさんに不意打ちで食わすとか」

「なんだみんなドリアン嫌いなのか? 美味いのになぁ、それにドリアンは疲労回復に役立つんでい。食べて損はないぞ?」


 正気か!? この激臭キングが、食べて損ないやて? 匂いだけで損失大やろ!! 疲労回復ならりんご食えばええんや。ドリアンは罰ゲーム的な立ち位置でええんや。ドリアン好きな人ごめんやで?


 ドリアンを美味い発言したおっさんを、全員がジト目で見る。どんな人生歩めばドリアンが美味いってなるんや。みんなのジト目をもろともせず、カットされたドリアンをひとつ口にほりこむおっさん。


「臭いからしまおか」

「ですね」


 おっさんの前に置かれたドリアンが入った皿を、サッと持ち上げたステラがキッチンの方へ行って、ラップを厳重にした上でジップロックに入れてから冷蔵庫にほりこむ。臭いもんな。

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