22 なんか……一人で作業すんの寂しいな

「えーっとこし器どこやったかなぁ? お、あったあった」


 棚に収納されてたこし器を、別のボールにセットして卵液を流していく。まだ一回目やから結構荒いな。


「なんか……一人で作業すんの寂しいな」


 なんか、うん。一人ってこんな虚しいっけ? そういえばこの世界来てから、一人やったことほぼなかったもんなぁ。今からでも出禁解除しよかな、誰かと話したい。


「あ、通話すればええやん」


 俺としたことがうっかりしてたわ。そうと決まれば話は早い、颯爽と右手を後ろに回してケツポケからスマホを――


「スマホが……ない、だと!?」


 俺はあまりの衝撃に一瞬固まる。どこで落とした!? てかいつ落とした!? 

 思考を巡らせる。ここまでの行動を思い返してみたり、スマホ触ったんいつが最後か冷静に思い出してみたり……。


「……最後に触ったん、一年前くらいか……そーいやこの世界スマホなかったわ」


 盲点やった、まさかスマホ持ってなかったとは。ケツポケに入れてるって錯覚してた。数年で染み付いてた習慣って怖いな。活発的な征服行動も始まってるし、そろそろほんま作るしかないか。


 ま、その前にプリン完成させやな。

 用意した白い耐熱容器に、卵液を均等に割り振っていく。容器の八分目くらいが一番見栄えいいと思ってるから、八分目まで注いでいく。イマジネーターで、どこが八分目かを一目でわかりやすいように内側に浅い線入れた特別製の容器やからほんま楽でええわ。


 温度が上がった蒸し器に十個の容器を放り込んでいく。かため、やらかめ、なめらかの三つのボタン。その中のなめらかを選択する。これによりタイマーがいらんようになって、タイマーし忘れたりすることがなくなった。


 あ、カラメル作らなあかんわ。鍋に白砂糖ドバッといれて、中火で溶かしていく。時々鍋を揺らして均等に溶けるよう調整していく。


 ――鍋を火にかけて十分過ぎた頃くらい。


「そろそろやな」


 ええかんじに茶色くなった砂糖に、湯を慎重に加えていく。正直、この作業めっちゃ嫌い。初めて作った時、躊躇なく水ぶち込んだからもう大惨事。ほんまパニックやったよね、蓋してたらよかった。

 最初の失敗から学習した俺は、最高のカラメルを作り上げる。そのカラメルを十等分して、小瓶に入れる。プリンのカラメルは後からかけるのがなんか好き、謎の匠感があってよきよき。


「蒸し終えたら、カラメルと一緒に冷蔵庫に入れたら終いやな。さて、こっからは実験タイムや!」


 余った卵液持って見つめる先は、一つの小さい機械。透明な正方形の見た目のそれの中には、球体が三つ並んでた。

 この機械は俺の新作アイテム、その名もペロペロさん。ペロペロさんは名前で大体は察せる通り、棒付きの飴ちゃんを作る機械。卵液とカラメルを、それぞれ別のタンクに流してあとは電源入れるだけ。電源入れたあとは三十秒待つだけで完成する。


 電源入れた直後、自動的に機械の扉が閉まる。卵液とカラメルが、タンクから球体に流れ込んでいく。流れ込んだ後、上の穴空いたとこに、ズボッと棒が突き刺さる。

 その瞬間、なんか冷たそうな白いあれが正方形の機械内部に充満する。


「よっしゃ、できたな」


 機械の電源落としたら、機械のドアが開いて白いあれが機械からボワッと出る。ちょっと周りがヒヤッと温度差がる。冷凍する白いあれかと思う人もおるやろうけど、これは成分をパパッと変えて飴ちゃんに変える魔法の気体。決して冷凍プリンじゃないし、この気体も危険性はないので安心していただきたい。


 固まった飴ちゃんに刺さった棒を、真下に押し込んだら完成。包み紙がされた状態で、下のトレーに落ちていく。これをあと数回繰り返す。うまいこといってそうやからプリンの購入特典として提供する。



 ***



 翌日、西の国の拠点にて。


「カナタくん、これは……予想外ですね」

「ほんまやで。プリン十個しか用意してへん、客そんなくる思ってなかったから」

「ま、まぁ。急いで対処しましょう」


 店の開店時間は朝の十時。今はまだ九時。やのにすっごい人おる、五十人くらいか? おっさんが宣伝してくれた効果もあって開店初日から大盛況。


「よし、整理券つくろ! 幸いなことに何でか一列に並んでくれとるし、前におる十人は今日買ってもらって残りは明日用意するって感じで! そのための整理券」


 俺は、イマジネーターで改造した拠点内を歩く。拠点のドア開いてすぐのショーケース置かれた部屋から、奥のスタッフオンリーの部屋に行く。隣の部屋はキッチンになってる。スタッフオンリーの部屋のさらに奥は、従業員ちゃんたちの居住スペース。


 え? そんな広いのおかしいやろって? 俺の魔法忘れたん? ご・つ・ご・う・しゅ・ぎ!


「ごめんみんな! 急な仕事お願いしていける?」

「もちろんです!」

「何をしたらいいですか?」


 俺の問いかけに答えてくれる従業員ちゃんたち。おっさんがうまいこと話してくれたおかげか、なんのトラブルもなしに働いてくれることになった。


「この紙印刷して、番号書いて店前におるお客さんに渡してくれる? わからんことはステラに聞いてな」


 ステラがパパッと描いた、プリンの柄が散りばめられた紙を持った俺に、きっちり返事してくれる。なんかすごい店長っぽい、優越感。あれ、そーいえば。


「おっさんの娘ちゃんほんまにここで働いてええん? しかも住み込み。おっさんと住まんの?」

「はい。父が、騎士領だと物騒だからと……ご迷惑……ですよね?」

「いや迷惑やないで。確かに物騒やもんな、もし俺が魔族ってバレたらおっさんが非難受けて娘ちゃんにまで被害行くかもやし」


 娘ちゃんが住み込みで働いてくれんのは迷惑どころか大助かりやけど、これおっさん頻繁に拠点来るパターンやな。それは迷惑かもしれん、なんてな。


 かわええ愛娘を魔王に預けるってのが正気じゃないけど、娘の安全第一で判断したんやろうな。過保護そうやもんな。


 さ、開店準備は従業員ちゃんに任せて俺は城戻ろ。おっさんとサラちゃんと話し合いせなあかん。なんかどっかの国で語尾がニャンの魔族が出没してるって情報掴んだらしいからそれについての作戦会議。絶対オオカミくんやな、呪いうまくできたんやな。


「――やぁやぁ! お待たせ〜」

「おう坊主、店は順調にいきそうかい?」



 魔都、魔王城会議室で先に待機してたサラちゃんとおっさん。部屋に踏み入れてすぐにおっさんは、質問を投げかけてくる。


「めっちゃ人おったで、娘ちゃんもやる気満々やし礼儀正しいからちゃんと接客してくれると思うわ」


 俺の言葉聞いたおっさんは、満足そうに笑う。


「ローラは幼い頃から天使なんでい! 客の心を虜にするのは呼吸より容易い!」

「親バカがすぎる」


 自慢げに娘自慢をするおっさん。それを遮るようにサラちゃんが、


「二人とも、そろそろ本題を」


 会議を進める。


「せやったな。語尾がニャンの魔族やろ?」

「ああ、北の国で目撃があったみたいでい。国を管理する貴族から、警戒するようにとの報告があったんでい。毛だらけのバケモンみたいなやつらしいが坊主なんか知ってるか?」


 これは確実にオオカミくんやな。どう説明しよ、反乱した魔族の一人やで。とかでいいか。


「知っとるで、俺に反乱起こした魔族の一人やからな」

「カナタ……反乱されたのか?」

「坊主、その言い方だと他にもいるのか?」


 若干引き気味のサラちゃん、面白そうに質問してくるおっさん。


「反乱起こしたやつら数えるより、起こさんかったやつ数えた方が早いくらいにはおんで」

「辛くなかったのか? 小官なら、とても辛く思うだろう」

「別にやで。あいつらが決めたことやし、俺がどう思おうが関係ないしな」


 キョトンとするサラちゃんとおっさん。なんか変なこと言うたか? 微妙な空気が数秒流れたあと、サラちゃんがおずおずと口を開いた。


「随分と……ドライなんだな」

「去る者は追わないって感じか。それが楽でいいな、変に関わるとトラブルになりかねねぇ」


 せやねん! さすがおっさん! わかっとる。人も魔族も、自分が決めたこと否定されんの嫌なんは変わらんやろうしな。俺は、自分がされて嫌なことは絶対しやんマン。


「まぁ俺が反乱された話は置いといて、今後は西の国にも侵攻してくる可能性あるからしっかり警戒しとこって感じで会議終わりでおけ?」

「雑すぎないか? カナタ」

「正直オオカミくん百人で攻めてきても負ける気せんしなぁ。村人を危険に晒さんってのだけ注意してたら問題なし!」


 ビシッと親指を立てる俺をみておっさんは、「坊主らしいっちゃ坊主らしいか」って呆れたように呟く。さ、会議終わったことやし。俺は調理場に向かうか。今回は料理長にも手伝ってもらお。さすがに数が多い。何個いるんやろ。

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