21 うおっ! 坊主急にどうした!?
「それで? ジークさんどうされたんですか?」
「あぁそうだ忘れるとこだった。奴隷にされてたお嬢ちゃんらの身元についてを報告しに来たんでい」
「もう!? 解散したん夜やで!?」
しれっと言うおっさんやけど、おかしい。夜に解散して次の日の昼前に報告しに来るなんておかしい。どんだけ行動力あんねん。
「こういうのは急いだほうがいいんでい。徹夜して調べ尽くしたんでい」
(ステラ、なんか罪悪感あるな)
(ですね……私たちも徹夜ですが遊んでただけですもんね)
おっさんに聞こえへんように、小声でひそひそするステラと俺。
「どうしたんでい?」
不思議そうに俺を覗き込むおっさん。ごめんなさい、怠惰な人間でごめんなさい。
おっさんを椅子に座らせて、ステラがお茶を振る舞う。いつの間に淹れたん? 流れるような早技、さすが相棒と言わざるを得ない。
「き、気ぃ取り直して。身元全部わかった?」
「あぁいろんな村から連れてこられたみたいなんだが、全員もう孤児になっちまってる」
「なっちまってる、っちゅうことは……」
おっさんの言葉から、どんな状況かはすぐにわかった。そこまでやるか? 叛逆したからって理由で殺したんやろうな。あ、せやキモ野郎どもに与える罰考えやなあかんな。
「どうする坊主。俺がお嬢ちゃんらを騎士にするって策もあるが」
「却下。奴隷にされたおもたら今度は騎士ってどんな過酷な人生や!」
「私にいい案ありますよ」
おっさんが出した提案はあまりにも酷やおもたから、却下した。まぁせやな、みたいな顔しとるおっさん。そんなおっさんと俺をみて、ステラがビシッとドヤ顔で手を上げる。
「お! どんなんどんなん?」
「雇いましょう! 西の国の拠点で」
自信満々に発言するステラ。詳しく聞いたら、ステラの考えはこう言うことらしい。
俺がまずあの拠点使って、店を開く。なんで店開くかっちゅうたら、情報を集めるために人と接点を増やす手段らしい。で、ずっと俺らが店番できるわけや無いからあの子らを住み込みで雇おって案らしい。世界征服のための情報も集まるし、あの子らの居場所も作れる。これは可決やわ。
国に馴染んでリーダーシップ発揮したら実質征服。それを各国で繰り返せば世界いただきや! 胃袋掴んで、さらにコミュ力も発揮させて世界征服。こんな手法で世界征服もくろむ魔王なんて絶対おらんわ。これがニュースタイル征服。
「――でもさステラ。なんの店開くん? 俺にはこれといって提供できるもんないで」
「あら? あるじゃないですか」
そう言うてステラは、両腕で自分の胸を圧迫してぷりんっと見せつける。それはもうプリンプリン……。
「プリンプリン!!」
「うおっ! 坊主急にどうした!?」
椅子から立ち上がって、ステラを指差しながら声を張る俺に驚くおっさん。俺もびっくりしたわ、思ったより声でた。
「そう! プリンですよ。それにカナタくん中学時代の夢パティシエですよね、夢叶いますね!」
「そんなこともしっとんかい。まぁええ、パティシエカナタ爆誕や」
そうと決まればあとは早い。価格設定、メニューの幅決めたら大体何とかなる。細かいことはステラがやってくれるし。店営業するってなんやえらいワクワクすんな!
「価格設定どする? てか金貨一枚なんぼ?」
「一万ベルですね。銀貨が五千ベル、銅貨が千ベル、そしてこれが最低価値の百ベル札です」
そう言うてステラは、ちっさい厚紙みたいなんを見せる。サイズは日本の通貨、五百円玉をちょうど二つ並べたくらい。この世界では税金とかないんかな。一円とかないもんな、やっぱ今後は自分で買いもんして知識つけるべきかな。ステラに丸投げしすぎたら可哀想やしな。
「坊主、貨幣価値知らなかったのかい?」
「まぁな、別の世界から来とるし」
「……?」
不思議そうな顔して固まるおっさん。
「俺にはあんまり理解できねぇが……要するに坊主は特別ってことでいいんだろ?」
「おん、それでええよ。魔王やからな」
雑にまとめたなぁおっさん。まぁ疑われてるわけでもないしなんでもえっか。
オオカミくんらが出てった後、蛇女ちゃんとリラに明かした時も特に驚いたりとかもなかったなぁそういえば。俺的には結構衝撃的なカミングアウトやと思うねんけど、この世界の価値観は結構違うんか?
「そんなことより! 今は開店準備や! 明日オープンさせんで」
「サラちゃんに営業権か何かが必要なのか聞いてきますね」
「おおきに! 奴隷やった子らには俺が話つけとくわ、メニューはとりまプリン一択で。後々増やしていこ」
ズバッと決めてサクッと次の段階へ。さてまずは話つけにいきまっか〜。
「坊主、お嬢ちゃんらには俺が話つけとく。坊主は明日出す商品を用意しときな、プリン? だったか?」
「何から何まですまんなおっさん。仕込み結構手間かけたいから助かるわ!」
おう、って返事しておっさんは歪んだ空間へ消えていく。西の国はもう人目気にせんと何でもできるから楽でええわ。
***
「完、璧……! 舌触り、甘さ、風味、後味。全てが完璧! 見た目だけでわかるほどの濃厚さ! 艶々としたカラメル。見た目でも味でも楽しめるエンターテインメント性! とても素晴らしいですわ!」
言いながら、風味を堪能するように目ぇ閉じて満足そうに笑みを浮かべる蛇女ちゃん。
販売する価値があるかどうかを、確認するために前作り置きしてたやつ渡した。えらいうまそうに食ってくれるなぁ、振る舞い甲斐があるわ。
「こんだけ満足そうに食ってくれたら、販売しても問題なさそうやな! じゃ、俺は仕込みしてくるわ! いつもならババっとイマジネーター使いながら五分くらいで作るけど、販売するからしっかり作らなな!」
「何かお手伝いできることがありましたら、お申し付けくださいませ」
「おおきに! なんか困ったら言うわ」
さ! ババっと仕込むか。生地は最低でも三回はこしたいな。滑らかな口溶けを目指す、これがプロ魂。
***
調理場。でっかい冷蔵庫を開いたら卵がどどーんと用意されてた。牛乳も生クリームもバッチリや。ステラと買い出し行って大量に仕入れて、冷蔵庫に細工して鮮度を長持ちさせる。これでリスクと隣り合わせで中央国行く回数を減らしてるっちゅうわけ。
そういえば中央国以外で買いもんしたことないけど、他の国にも日本にあったもん置いてんのかな。今度見てみよ、なかったらおっさんに頼んで輸入してもらおう。そうしよう。
「よし、とりあえずいつも通り鶏の卵使って作るか。いきなり怪鳥の卵プリン売るのはどうかなって思うしな」
集中するために出入り禁止にした調理場に響く俺の足音。それに合わせて、手に持ってる調理器具がカチャカチャ音を立てる。
「何個作るかなぁ、最初やし様子見で十個くらいでええか?」
何人買いに来るか知らんけど、買われへんかったらどうしても欲しなってまた買いにくるやろ。人間ってそういう生命体。
卵三つを耐熱のガラスボールに割り入れて、シャカシャカと混ぜていく。空気を入れ過ぎんように注意して泡立て器を動かしていく。
その間、鍋に牛乳と生クリーム入れて熱しとく。俺はスパスパと効率よく作業を進めていく。あ、卵液に砂糖入れんの忘れるとこやった。
「えーっと? 砂糖入れたやろ? 牛乳と生クリームも用意したしあとは……蒸し器の温度設定して、容器を陽気に用意ってな! くぅ! なかなかの好感触ギャグ! この場に誰もおらんのが残念や」
独りごちりながら砂糖入れた卵液に、熱した牛乳と生クリームをちょっとずつ入れてゆっくり混ぜていく。この瞬間に香るほのかに甘い匂いで、プリンの優劣が決まると言っても過言ではない。気がする。今回は過去一を争えるほどの出来な気がする。
優秀な卵液に、バニラエッセンスを加えてさらに優秀にしていく。どんだけ優秀かっちゅうたら、高校入試挑んだら首席入学できるレベル。
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