20 よっしゃ! 次こそボスまでたどり着く!

「カナタくん相変わらずへたっぴですね、慎重にボタン押さないと」

「現行モデルの俺は、軽微な操作はできへん仕様になっとります」


 今日の重めの出来事が嘘みたいに、わいわい二人で盛り上がる。前に置いてるローテーブルに無造作に置かれたポテチやコーラ、日本にあったもんが聖都で買えるってのは不思議やけど便利やな。

 テレビとかゲーム機は、俺の能力で死後の世界に連絡とって送ってもらった。ええ人らよな、娯楽は大切やから遠慮せんでええ言うてくれてるしありがたいわぁ。そのおかげで風呂上がりはゲームするっていうルーチンができた。


 この世界では手に入らんデザインの部屋着も送ってくれてるしなんかめっちゃ充実してる。まだ死者職員については謎だらけやけど、甘やかしてもらえるから何でもええや。


「カナタくん、もう囚人服着ないんですか? 似合ってたのに。部屋着でもいいから着ましょうよ〜」

「誰が囚人顔や、二度と着やんわ。この部屋着めっちゃ気に入っとるし、ふわっふわで気持ちぇえ」


 黒と灰色の縞々で、フードついた部屋着。この世界は基本的に気温低いみたいでまだ十月上旬やのに結構寒いからこのふわふわ部屋着温くてかわええし最高。


「まぁ私とペアルックですもんね〜! そんな期待させるようなこと言ってるのに婚約してますもんね……」

「婚約言うてもサラちゃんの気持ちは一時的なもんやと思うんよなぁ。だからサラちゃんが気持ち固める期間みたいなイメージかな」

「この世界が一夫多妻制じゃなかったらただのクズですよ? 私も側室には絶対収まりますからね! じっくり考えといてくださいね」


 俺と色違いの、ピンクと白の縞々部屋着の裾つまみながら冷ややかな視線を俺に向ける。


「はい……すんませんした。じっくり考えます」


 こんなん言うとるけど結婚なんてまだ早いて。


「分かればよろしい! ほら続きしますよ。コントローラー持ってください」

「よっしゃ! 次こそボスまでたどり着く!」


 ポテチを口にほりこんで、バリバリええ音させながらコントローラーを握る。あ、歯茎……。


「ステラ……一分待って……! 歯茎にレストを……!」

「格好つけるから……」


 腰掛けてたベッドにベローンと体を預けるステラ。一分でさえ退屈に耐えられへんのか、俺の脇腹つついて遊んでる。やめれ? 腹筋さするのもやめれ?


「まだですか〜?」

「待たせたな! カナタさん完全復活!」


 コントローラーを握り、ステージを選択する。今日ステージ、一をクリアする! いっつも俺が足引っ張ってボスまで辿り着かんからな。このゲームむず過ぎやと思うわ、クリアさせる気ある?


「カナタくん!? その敵でゲームオーバーになる人なかなかいませんよ! 何回やらかすんですか!」

「ちゃ、ちゃうやん! またアイテムと間違えたんや! それに俺は人やのうて魔族なんでセーフ!」


 ゲームがスタートして数秒で登場する茶色いやつ。俺はそいつにやられてまう。だってきのこかと思ったんやもん! 移動してくるきのこは取れって言われたもん!


「屁理屈!!」


 ――それからギャイギャイ騒ぎながら、時間は流れて。


「ステラさんもう朝っすよ。朝日が眩うございます」

「せっかくですしカーテン開けましょう。朝日浴びてそろそろ序盤はクリアしましょう……」

「眠いんすけど」


 朝日が登ってもまだ、俺らは画面にくらいついてた。そのせいか俺だけじゃなく、配管工のおじさん兄弟も疲れてるように思える。


「夜はまだまだ長いですよ!」

「もう朝なんよ……」


 渋々コントローラーを握り直して、配管工ブラザーズに重労働を強いる。真の敵は巨大な亀やのうて、隣で俺の三角巾を触ってる筋肉狂なんちゃうかな何て思う。いつもは二時には絶対寝落ちしてんのに珍しいな、俺が落ちそうや。


 日差しがどんどん強なっていく中まだまだゲームは終わらない。


「ステラさ〜ん。おら空腹なんだぁ、もう十時だべぇ! そろそろ朝飯食おっさ」

「しょうがないですね、ゲームは中断しましょう。今から軽く作るのでキッチン使いますね」

「手伝うわ。何作る?」


 ベッドから立ち上がり、キッチンに向かう。冷蔵庫なに入ってたかな、俺の部屋キッチンも風呂も完備で引きこもり特化した部屋やからなぁ。こーゆー時便利よな。料理長の負担にもならんし、何より料理が楽しい!


「何食べたいですか?」

「食パン冷凍しとるし卵あるから、目玉焼きトーストにする?」

「いいですね! ベーコン余ってましたっけ?」


 ステラの問いに、冷蔵庫を確認してから答える。


「あったで。ブロックのが」

「やった! 私作るのでカナタくん紅茶入れてくれますか?」

「わかった、手伝う言うたけど料理は時短料理やから出る幕ないしな」


 言いながら、電気ケトルに水入れてセットする。別のポットに茶葉入れてマグカップを二つ並べる。あとはイマジネーターで、パンが焼き上がる頃に湯が沸くようにするだけ、簡単だね。


 ベーコンの香ばしい香りが部屋に漂い出した頃、湯がゴボゴボ沸き出す。


「そろそろ出来ま〜す!」

「こっちもそろぼち沸くわー」


 パチン、とケトルが湯沸かし完了の合図を鳴らす。ステラが皿にパン盛り付ける間に、俺は茶葉に湯を通し紅茶の支度を終える。


 先にベッド前のテーブルにパン置きに行ったステラを追うように、俺もテーブルに紅茶を運ぶ。入れ過ぎたかな、溢れそう。


「おまっとさん! 入れ過ぎてこぼしかけた」

「いつものことじゃないですか」

「それもそやな。さ! 食べよ!」


 ベッドを背もたれみたいにして、地べたに肩並べて座る。

 俺らは両手合わせて、いただきますする。挨拶は基本やからな。


「うま! さっすが相棒! 黄身が固めや。最高!」


 そう、俺は卵の黄身固め派なのだ。それを理解していつも何も言わんと固めにしてくれてる。俺を調べてるだけあんな。


「カナタくんのことなら何でもお任せです!」


 元気に言ってはおるけど食パンをサクッと噛みながら、眠そうにしてるステラ。


「なぁなんで今日こんな時間まで起きてたん? いっつも二時には落ちてんのに」

「んー?」


 紅茶を一口飲んで、マグカップをテーブルにおいたステラは、頭を俺の肩に預けて。


「カナタくんと少しでも長く話してたかった」

「え?」

「……って言ったらときめきますか?」


 にまぁっと笑うステラ。これあれや、俺をからかう時の顔や。童貞弄んで楽しいかこのいじめっ子め!


「ステラ、一週間筋肉お触り禁止な」

「そんな! ご無体な!!」


 フハハ! これでしばらくはいじれまい! あ、でも前も禁止した気ぃするけど無意味やったな。男は我慢せなあかん運命なのか……女の子になりたい。まぁ流石にイマジネーター使ってなろうとは思わんけど。


「まぁええや。冷めんうちに食ってまお、トーストは温い方がうま――」


 ドアが小気味よく三回リズムを奏でる。誰やろ、蛇女ちゃんか?


「どうぞ〜」

「失礼しますわ……あら? この時間にお食事ですか?」


 物珍しいもん見たって感じで、目ぇパチパチさせる蛇女ちゃん。まぁ普段このくらいの時間やと起きたてか、まだ夢の中やもんな。俺もステラも。起きてるだけでも珍しいのに、料理してるなんてさらに珍しいか。


「オールしとってな? 腹減ったから食っててん。で、どないしたん?」

「健康のために、良質な睡眠を心がけてくださいませ……えっと、要件ですが。西の国騎士団長がお見えです」

「おっさん来たん? なんかあったんかな」


 蛇女ちゃんに詳しく聞いたら、ロビーでまたしとるみたいやからそこまで空間を歪める。おっさんにここまで来てもらう。誤解招いたらあかんからちゃんと着替えてちゃんと部屋片付けてから。


「――坊主、なんにもない空間から話しかけるのは勘弁してくれい。おっさんの心臓出ちまう」

「すまんすまん! でも心臓飛び出る瞬間って見たことないな、一回出しとく?」

「怖いこと言うんじゃねえよ坊主……そんな顔しても期待には添えないぞ?」


 冗談で言うたけど、結構興味あんな。デフォルメ調でハート形のんがポンッ! って出るなら見てみたい。取り外し可能的な。

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