19 おぉええやん! 早速建てるか!

「さて、本題! さっき、任せとき! とかカッコつけたけど正直俺アホやから政治したら三日で滅ぶと思う。だから、この国のトップは俺やないと思うねん。みんなも適任がトップの方が安心するやろ?」

「ま、まぁその方が……」

「やんなやんな。わかる。でな? 俺は推薦します! この国の元騎士団長候補やった人物! その名も……おっさん!!」


 やっぱ俺やと不安やったか民たちよ。俺も不安やったわ。

 勢いよくおっさん!! って紹介したけど名前知らんなそういえば。


「正気か坊主? おっさんを騎士団長にするなんて賢い判断じゃねぇだろ。しばらく鍛錬できてないんでい。坊主がならずに他のやつを騎士団長にするなら、サラ嬢にしたほうがいいんじゃないか? おっさんより強い」

「強さだけがトップに立つ条件やないやろ? 俺はおっさんが適任やと思った。みんなはどう思う?」


 バッとみんなに語りかける。おっさんみて、みんなは驚いた感じの顔見せてる。


「無事だったんですね、安心しました」

「自分も魔王様と同意見です! ジーク・ホープ様が適任だと思います」


 みんなおっさんが捕まってたことは触れへんのやな。この人らほんま聖人か? いや、それだけこのおっさんがみんなに慕われてるってことやろうな。俺もそんな男になりてぇもんやなぁ。


「おっさん、この期待裏切れる?」

「へっ、とんだ脅し文句でい」


 姿勢正して、両手を後ろに回す。足は肩幅に開いて、しっかりと村人を見据える。


「ここに宣言する! 今をもって、西の国は俺が統治させてもらう! 他の村には後々報告する」


 ビシッと宣言しとるけど、顔はにへら〜っとしとるからあんま締まりがない。頼りなさそうなんはデフォルトか?


 おいおいおっさんしっかりしてくれよ。ま、いいやこっからは俺のターンや。まずはこの国とのコネ作っとかな。

 いざって時におっさんに力貸してもらえると助かるし、聖都に拠点欲しいしな。


「ジーク、すまなかった。許してくれとは言わない」

「許す気なんてねぇ。お前が坊主にみっちりしごかれて更生するまではな。しっかりがんばんな、よろしく頼むよ坊主」


 雑用してたじいさんが、真剣な顔でおっさんに謝罪を述べる。当然なことやけどちゃんと頭下げれるじいさんは大人やと思う。でもおっさんはそれを上回るな。

 自分嵌めて、娘を奴隷にした相手にあんな笑顔で対応できんねんから。


「任せときおっさん。でなぁ? お願いがあんねんけどなぁ?」

「坊主……その笑みはなんだか嫌な予感がするんだが」


 にっこり天使のような微笑みを浮かべる俺から距離とるおっさん。


「実はな? 西の国に拠点欲しくてさ、空いてる敷地格安で譲ってくれたら助かるなぁって。奴隷にされてた子らの身元捜査も手伝ってほしい」

「何を今更、それくらいは頼まれなくてもするぜ? おっさんは礼節を重んじるんだ。それに察しもいい。拠点が欲しいって言うのもここに拠点があれば、他の国に行く時も魔都から行くよりは楽だからだろ?」


 さらっさら俺の考えを読んでいくおっさん。こいつ……出来る! 何て思ってる時に、村人が口を開く。


「魔王様。我々の村の中心に開けた土地があります。どうかそこをお使いください、助けていただいたお礼ということで」

「ええの!? めっちゃ助かるわ! おおきに! 早速後で拠点建てさせてもらうわ」

「拠点については解決だな、慕われてるねぇ坊主」


 やった! 拠点ゲット! めっちゃ順調に話が進む。慕われてるんかはわからんけど、もらえるもんはもらっとけ精神。 


「ある程度話まとまったことやし、西の国に送るわな。ステラよろしゅう」

「了解しました――」


 ――西の国。自称ちっこい村。俺には十分デカく見える、建物もレンガとか使って結構頑丈そうやし結構都会。

 村人たちはみんな家帰って、俺はおっさんとステラと一緒に村の中心地におる。サラちゃんはザインくんと一緒にばあちゃん家行った。


「坊主、ここにドーンとこんなの建てたらどうでい? 村のシンボル的な外観で我ながら天才的な発想」

「おぉええやん! 早速建てるか!」

「黒い外観で魔王っぽさを演出するのはどうでしょう? 見た感じ控えめな色調の建物ばかりなので、シンボルにするなら目立つ方がいいと思います!」


 確かに、真ん中に黒い建物あったら目立つな。でも真っ黒やと近付き難い雰囲気あるなぁ、紫っぽい色合いにしとこか。


 おっさんが地面に木の枝で描いた絵を元に、拠点を構築していく。地面に手を当てて、外観だけを想像してイマジネーターを使う。中の構造は勝手にいい感じで構築されるから放置してる。気に食わんかったら後で直せばええだけやしな。


「本当とんでもねぇ能力だな。なぁ坊主、みんなの前だから言わなかったが俺は坊主の世界征服に協力するつもりでい。あいつらも恐らく同意見だと思う、俺も村の連中も坊主に希望を見た。お前さんならきっといい世界にできる」

「おっさん、ええんか? バレたら他の国から敵視されんで?」

「大丈夫でい、国が相手だろうとお強い坊主がなんとかしてくれるだろ。勝手なことを言うが、俺らの期待……魔王に押し付けてもいいかい?」


 おっさんは、月を見上げながらへらっと笑う。月との距離が近いんか、めっちゃデカく見える。月明かりに照らされた拠点を眺めるステラの髪が綺麗に輝くのを見ながら俺は、


「もちろんや、期待されたら倍で応える。それが魔王カナタさんや!」

「そりゃ頼もしい限りでい」


 この世界来る前もそうやったけど、人に恵まれてんな俺は。前世で徳を積みまくったんかな。



 ***



「パパ! ママ! おかえりなの!」


 おっさんとの話を終えて、俺とステラは城に戻ってきた。サラちゃんに声かけて帰ろかとも考えたけど、家族水入らず邪魔したらあかんしな。


「お〜う、ただいまぁ! ええ子にしとった?」

「してたなの! ねぇパパ、ニョキニョキくんの使いごごちどうだったなの?」

「ニョキニョキくん?」


 なんやろうこの気の抜けるような名前は。


(カナタ様、先程の杖の名前らしいです)


 ひそひそと俺に耳打ちする蛇女ちゃん。まじか。あんなかっこええ杖が、ギャグ漫画に出てきそうな気の抜ける名前なんか。まぁかわええからえっか。


「めっちゃすごかったで! ニョキくん。これお礼! 計画的に使うんやでぇ」

「よかった! ありがとうなの!」


 何もないとこから巾着袋取り出して、リラの手にぽすんと乗せる。手に乗った瞬間、じゃらっと金属音が鳴る。蛇女ちゃんに渡したんとおんなじのを渡す。計画的に使うんやで言うたけどまぁ普段から給料って形で毎月お金渡しとるし心配ないな。


 ちなみに資金源は封印された魔王の遺産らしい、ステラが言うとった。

 ごっつい溜め込んどったから、ありがたく使わせてもろてる。で、タダ働きはあかんからステラが管理して部下たちに給料渡してるってわけ。この制度始めた時みんなキョトンとしとったけど今まで給料なしでどうやって生きてたんかな。


「っちゅうかなんでニョキニョキくん?」

「パパに合わせてニョキニョキ育つからニョキニョキくんなの! パパの魔法と効率よくリンクして魔力の消費を抑えたり、いろんな武器に形を変えるなの!」

「まじでか! めちゃつよやん」


 要するにイマジネーター用のドーピング剤みたいなもんか? そういえばあのビームもドーピング効果か? 今度徹底的に使い方調べよ。


 リラとの会話もほどほどに、俺はステラ連れて自室に移る。何でステラ連れていくかって? そんなん決まってるやん。


「――そこもっと上です!」

「待ってむずいむずい!」

「慎重に優しく……っあぁぁ!」


 ベットに身を預け、お互いが見つめる先には四十インチのテレビがあった。画面に映ってるのは、某配管工のおじさんを操るゲームの画面。俺が操るおじさんが上に飛び移れず、画面の下へと消えていった。

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